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第45話 琴 線

 生徒達を褒める黒岩校長先生に、長谷川先生は誇らしくなった。

「君達はホント仲が良いんだな、これも三学期の目標にした絆を深めたお陰だね。ましてやバランスも良い、ニューヨーク帰りの小野が通訳し、物事の整理が上手な伏見が作戦を立て、探し出せる仲間数がいて、見付けた先には英語が喋れる京野がいて、お母さんに子供を届けるだけの体力のある遠藤がいて、どれをとってもホントに良い。君達はホントに誇らしい生徒だよ!」

 生徒達は徐々に自分の行動に自信が付いて来た。ホットした顔から微笑みに変わった。


 黒岩校長先生は琴線に触れ、どうしてもご褒美を上げたかった。

「ねえ君達、私からご褒美をさせて貰えないか? えー、そうだなー、学校だから現金とかはダメだよ、もっと学業に通じるようなモノ。部活動だと、そうだ君達三人は写真部だったね。新しいカメラを用意しようか? それじゃ他の人には、ご褒美にならないかな……」


 仲間の要求は決まっていた。皆は海斗を見つめ小さな声をかけた。

「海斗、ダメもとで言ってよ! 海斗頼む! 海斗言ってくれ海斗!」

 皆の声は海斗の背中を押した。海斗は思い切って切り出した。

「黒岩校長先生! 物は要りません。学業に通じるお願いが一つだけ有ります」


 黒岩校長先生は海斗を見た。斉藤教頭先生は聞き耳を立て、長谷川先生はピント来て口に手を当てた。

 海斗は思い切って言って頭を下げた。

「新学期は、また僕たちを同じクラスにして下さい!」


 先生達は驚いた。

「えーー!!」

 皆も揃って頭を下げた。

「お願いします!」


 しばし沈黙が続くと、校長先生は笑いだした。

「ハ、ハ、ハ、まったく仲が良いなー、よーし免じてやろう! しかし他言無用だよ」

 仲間は喜んだ。

「ヤッター! 、キャー! オーマイガー!」

 斉藤教頭先生は、あたふたして首を横に振った。

「校長先生、今からはもう」

「あー、うるさい! そこをまとめるのが君の仕事だろ。これで君達が、この学園を盛り上げてくれるなら簡単な事さ。未だ、この時点なら他の生徒達にも迷惑はかからないからね。あー、それじゃあ長谷川先生、君が担任だよ。ちゃんと守秘義務を含めて、見守ってあげてね」

「えー! ホントですか?!」

 生徒達は歓喜を上げて喜んだ。

「キャー! わー!」

 長谷川先生も嬉しくて、目頭を抑えた。

「君達は凄いね、私も嬉しいよ。でも厳しく見守るからね!」


 斉藤教頭先生は肩を落とした。やり直す事務仕事が沢山増えたからだ。

「良いですか皆さん。始業式にはアメリカ海軍横須賀基地からジョンソン大佐が見えられます。表彰をするので心しておくように。そうそう入学前の中山陽菜さんと伏見葵さんにも同席して貰いましょう。お兄さんとお姉さんは連絡しておく事。

 それと卒業した森幸乃さんには、校長先生名義のお礼状を送りましょう。あとジョンソン大佐にフェリサ女学院の二人が協力した事を連絡しておきましょう」

 黒岩校長先生は斉藤教頭先生に言った。

「そうそう、フェリサの校長は良く知っているから、私からも連絡しておくよ。あー、愉快、愉快! ウチの生徒が活躍してくれて、じゃあ私はコレで」

 黒岩校長先生は笑いながら教室を去った。


 斉藤教頭先生は長谷川先生を見た。

「長谷川先生、大変ですよ。三年生になったらもっと手が付けられなくなるかも知れませんよ」

「はい、でもとても楽しみです。心配するより期待する生徒達ですから!」

 長谷川先生は笑顔で返し、斎藤教頭先生は笑った。

「それじゃあ、皆、帰っていいぞ!」

 長谷川先生と斉藤教頭先生は教室を出ると、皆は席を立ち再び歓喜した。

「キャー、嬉しい! 夢みたい うぉー!」

 皆は肩を抱き、喜び合った。


 小野梨紗は海斗を見つめた。

「やったねー! 同じクラスだって」

「ああ梨紗、夢のようだ。なあ蓮、ドキドキしたね」

「心臓が口から飛び出しそうだった!」

 鎌倉美月も続いた。

「私も、蓮と海斗が米軍に捕まるのか心配だったわ!」

 林莉子も続いた。

「上手く説明出来たわね、海斗」

 中山美咲も続いた。

「私、校長先生がもっと好きになったわ。努力した甲斐があったね」

 橋本七海も続いた。

「こんな事が有って良いのかしら、ねえ美優」

「一生分の運を使ったりしてね、ねえ七海」


 京野颯太は想像をした。

「幸乃さんが聞いたら、腹を抱えて笑いそうだなー」

 皆も想像して笑うと、海斗は皆に謝った。

「皆、心配かけてゴメン! あんな所に上ったから。でも後悔はしていないんだ。皆と大切な命を救ったし、凄いご褒美も貰えたしね。そうそう最上階から見た景色は凄かったよ。見晴らしが良くて、本牧から磯子までの海が見渡せたんだ。皆に見せたかったなー」


 松本蓮は、ニヤリと口角を上げた。松本蓮がスマホをいじると、皆のスマホが一斉に鳴った。最上階で見た景色の写真だった。松本蓮はちゃっかり写真を撮っていたのだ。

 小野梨紗は言った。

「わー、凄い! こんなに見晴らしが良いのー!」

「皆、極秘写真だからね。誰にも見せちゃダメだよ。捕まっちゃうからね!」

 皆は息を呑んだ。


 すると松本蓮が頭を掻いた。

「あーそうそう、今頃思い出した。俺も勘違いしていたんだけど写真を見返していたら、解った事が有るんだ。あの建物はフェンスに覆われていたけど、米軍の敷地じゃ無いみたいなんだ」

 皆は首を傾げた。松本蓮はフェンスに映り込んだ写真を拡大して見せた。立ち入り禁止の看板の文字の下に横浜市・山手警察署と書いて有ったのだ。

 松本蓮は続けた。

「つまり米軍の敷地と隣接しているだけで、建物は横浜市が管理しているんだよ。だから米軍が来ても捕まらないんだ。きっと」


 皆は松本蓮を見て、声を合わせて言った。

「もっと、早く言ってよー!」

 皆はクスクス笑ってから大きな笑い声になった。こうして緊急召集は思ってもいないご褒美を貰い、笑って解散をした。

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