第44話 緊急召集
佐藤美優は心配した。
「えー! 大丈夫なの? 米軍に捕まっちゃうよ!」
海斗は答えた。
「その時は言ってやるよ! 人の命とどっちが大事なのかってさ!」
皆は海斗の大きな態度に感銘を受けた。
京野颯太も続いた。
「海斗と蓮は凄いな! こう言う所は素直に頭が上がらないよ」
松本蓮は誇らしげに胸を張った。
「そりゃそうだよ! 俺達は高校生なんだ。人の命を救う時に法律に縛られなくても良いんじゃないか!」
遠藤駿も続いた。
「おい蓮! 格好良いぞ、この~!」
遠藤駿は松本蓮にじゃれると、林莉子は鎌倉美月を茶化した。
「ねえ美月、お宅の旦那、やるわねー、格好良いじゃない」
鎌倉美月は赤くなり照れると皆は笑った。
海斗は皆に話しかけた。
「それじゃあ、一段落もしたし帰ろうか?」
皆は荷物を持ち上げた。お母さんは海斗達に名前を聞いたが、伏せてその場を去った。違法行為がバレると困ると思ったのだ。
皆は気分良く帰りのバス停まで歩いた。バス停で待っていると小野梨沙は質問をした。
「ねえ何で颯太達が見つけたのに、駿が負ぶってきたの?」
事情を知らない仲間は首を傾げた。森幸乃が答えた。
「颯太があの距離をおんぶして走れると思う? 駿に電話して追っかけて貰ったのよ。そーねー、颯太の走ったのは全体の三割ね、後の七割は駿が走ったのよ」
京野颯太は困った顔をした。
「幸乃さん、そこは言わなくても良いのにー!」
京野颯太は顔を覆うと皆は笑った。京野颯太は続けた。
「しかし海斗の周りに居ると、色々な事が有って飽きないよな。何でこんなにいろんな事が有るんだ?」
皆は首を傾げると、森幸乃は得意げに答えた。
「簡単よ、だって努力をしているでしょ! それに行動力が有るのよ。学園生活なんて、何もしないと、家と学校の往復で三年間終わっちゃうしハプニングも起きないわ。雪合戦だってクッキーだって、海斗君からの提案でしょ」
皆は揃って首を縦に振り納得すると、海斗は頭を掻いた。
「俺だけじゃないよ。蓮も美月も、皆も努力をしているからね」
皆は海斗の行動力に改めて気付かされた。今日は感情の大きく動く一日となった、二年生の終業式に楽しい思い出が残る一日となったのだ。花見はケジメを付ける目的だったので、皆は笑って解散をした。
(花見から三日後)
春休みの平穏な学園に、アメリカ海軍横須賀基地から三人の軍人が訪れた。軍服の胸に沢山のバッチが付いたジョンソン大佐がお供を連れてやって来たのだ。
応対した斎藤教頭先生は、動揺を隠せず校長室を叩いた。
「校長先生! 大変です。我が学園に米軍が来ました。ど、ど、どうしましょう?!」
「な、何を言っているんだ斉藤君、落ち着きたまえ」
「恐らく、生徒がとんでもないイタズラをしたのでは?」
「まあ、幾ら米軍だって変な事はしないだろう、お通ししなさい」
三人の軍人は校長室に通され、黒岩校長先生と斉藤教頭先生が対応した。校長室に入る軍人を見て、職員室の先生達は不安を感じた。一時間程が過ぎ、軍人は校長室から出てきた。黒岩校長先生と斎藤教頭先生は玄関まで見送り深く頭を下げた。
斎藤教頭先生は長谷川先生を呼んだ。事実を確認をする為に海斗達を呼ぶように伝えたのだ。ただならぬ事だと思い長谷川先生は至急、各生徒に電話をかけて登校するように連絡をした。職員室では重たい空気が続いた。
始業式の二日前、海斗達は学校に緊急召集され二年B組に集まった。仲間達には心当たりがあったのだ。皆は海斗と松本蓮を気遣い心配をした。
長谷川先生も具体的な内容は聞いておらず心配をしていた。
「今日、緊急召集をかけたのは他でもない。米軍が君達を探しに来たんだよ! 皆、何をしたんだ?」
皆はやっぱりと思った。立ち入り禁止の建物に入った事が米軍にバレたのだ。皆は下を向き、緊張しながら必死に黙っていた。
「おい、おい、何で黙るんだ。ホントに何かしたんだな! 何をしたんだ?」
長谷川先生は頭を押さえた。
斉藤教頭先生が教室に入って来た。黒岩校長先生は教室の後ろのドアから経過を見ていた。斉藤教頭先生は当日現場に居たか尋ねた。仲間は下を向き黙り込んでいた。すると教頭先生は数枚の写真を見せた。
写真には母親が迷子になる前にバスケットコートで遊んでいた写真だった。隣のコートで遊ぶ海斗達が写っていたのだ。流石に証拠写真を見せられると生徒達は動揺した。目を覆う者、肩を落とす者、それぞれが落胆した。
海斗は、もう言い訳出来ないと思い覚悟を決めた。
「はい、僕がやりました」
生徒達は悲痛な顔をして海斗を見てた。
斎藤教頭先生は胸を撫で下ろした。
「なんでそんなに、そんなにトボケるんだ? 君達は感謝されたんだよ! 皆で糖尿病の子供を救ったんだろ! そのお母さんから米軍の上層部に情報が上がり、写真の制服から我が学園を探し出してね。米軍の偉い方が挨拶に見えたんだ。さあ、説明してくれるね」
皆は安堵し胸を撫で下ろした。海斗は慎重に言葉を選んだ
「斉藤教頭先生、説明は長くなります。省略した話とどちらにしますか?」
「ほほー、じゃあ長い話をお願いします」
海斗は桜を見に行く事となった経緯と、子供を助けるきっかけになった事、探し出した方法とインスリンを打ち解決に向かい親子と別れるまでの事を細かく話した。もちろん立ち入り禁止の建物は伏せて説明した。更に捜索したメンバーは、これから入学する者と卒業した者、フェリサ女学園の二人の仲間も報告をした。
斉藤教頭先生と長谷川先生は花見を計画した目的と、迷子の探索方法について深く感動をした。すると後ろのドアが開いた、黒岩校長先生も嬉しくてたまらなかった。教壇に並び、皆の愛情と行動力に賞賛をしたのだ。
「流石、我が学園の生徒達だ! 私はとっても、とっても嬉しいよ。大事な時間を割いて、大切な命を助けたんだ。それも大勢の生徒が何の見返りも無く、他校まで巻き込んで、協力し合えたんだ。更にだ、良い事をしたのに黙っているなんて、もしかして私が伏見君をいじるから遠慮したのかな? こんな良い事、内緒にする必要が無いじゃないか。おそらく在日米軍の大佐が、この学園に感謝に訪れるのも史上初めての事だ。これも長谷川先生の教育の賜物だな。私は泣けるほど嬉しいよ。感動した!」