第42話 バスケットボール
到着すると片方のコートには外国人の子供達が遊んで居た。海斗達は隣の空いているコートを使用した。十七人の大所帯は三班に分かれプレーする事になった。
林莉子は割り箸の端に、ボールペンで赤と黒と青を塗り、即席でくじ引きを作った。割り箸を十七本束ねて半分から下を紙で巻き、それぞれが引き抜いた。
引いた色がチーム名となった。
チームレッドは、京野颯太、中山美咲、松本蓮、佐藤美優、伏見葵、桜井メイの六人
チームブラックは、遠藤駿、稲垣京香、鎌倉美月、小野梨紗、森幸乃の五人
チームブルーは、伏見海斗、橋本七海、林莉子、田中拓海、中山春菜、鈴木萌六人
見事にバラバラになったのだ。海斗と一緒のチームに成らなかった女の子はため息を漏らしたが、ゲームが始まると積極的に海斗のボールを奪いに行き楽しんだ。バラバラだったと思ったチームは連帯感が生まれていた。
松本蓮はカメラを手にした。楽しんでスポーツをしている姿は静止画の写真に躍動感を与え、一人一人の良い表情が撮る事が出来たのだ。
皆は三十分程プレーすると休憩に入いった、遠藤駿は荒い呼吸をして腰を下ろした。
「ハア、ハア、七海強すぎ! こんなに上手だとは思わなかった」
「そうでしょ。体育の授業は男女別だからね。ねえ海斗、見直した?」
「ああ、随分助けられたよ。有り難う七海」
小野梨紗は隣のコートを見て話しかけた。
「ねえ、隣のコートは外人の子供ばかりで珍しいね。あそこのベンチに座って居るお母さんも外人さんね」
松本蓮は隣のコートで遊んで居る子供にレンズを向け写真を撮った。
「このすぐ隣はアメリカなんだよ。だから外人さんが居るんじゃないか」
小野梨紗は不思議な顔をした。
「蓮、なに言ってんのよ?」
鎌倉美月は答えた。
「ほら、このフェンスの先は米軍の管理地よ、住宅が有るの。さっきも英語表記が有ったでしょ」
皆は驚いた。
「えー! 海軍専用の住宅地が有るの?」
海斗は続けた。
「驚くのも無理はないよね。さっき言ったでしょ、ココは戦後、米軍に接収された所だからね。返還されて公園になった所も有れば、未だ公園の以上の面積が接収されているんだ。だからそのフェンスから先は入れないからね、行ったら米軍に捕まっちゃうよ。それと目の前の古い建物は競馬場だった時の観覧席、スタンドだよ。凄いよねー、一番上に上がるとコース全体が見渡せたらしいよ」
皆は息を呑んだ。こんなに間近に戦後の問題が有る事に気が付かされたからだ。
稲垣京香は海斗に話しかけた
「伏見君、いつ返還されるの?」
「国の問題だからね、ここは高台で意味の有る場所なんだよ、きっと。だから長引いているんだろうね」
京野颯太は腰を上げ、気分を変えた。
「さあ、残りのゲームを楽しもうか!」
皆も微笑み腰を上げた。
するとベンチに座る母親が慌てふためいていた。バスケットボールで遊んでいた少年がそばに居た。海斗達はその親子の様子を眺めた。言葉が解らず、何に慌てふためいているのか理解に苦しんだのだ。
小野梨紗は聞き耳を立て皆に伝えた。
「どうしよ、あの男の子の妹が居なくなったみたい。糖尿病でインスリンを打つ時間みたいよ。それで慌てているのよ」
皆は驚いた。助けてあげたいけど、どう対処すれば良いのか解らなかった。
海斗は皆に話しかけた。
「折角みんなが集まった大切な時間だけど協力しようと思う、皆で探してみないか?」
皆は真剣な顔になり首を縦に振った。遠藤駿は難しい顔をした。
「でも、こんなに広い公園をどうやって探すんだよ」
松本蓮は答えた。
「どうやってって言っても、とりあえず皆で走ってみるしかないよ!」
田中拓海も加わった。
「とりあえず走ったって見付からないよ。ここはお巡りさんに相談して方が良いんじゃないの?」
鈴木も絵は続いた。
「えっ、消防署で救急車を呼んだ方が良いんじゃな?」
次々と上がる意見と、それを肯定する意見。仲間達はざわ付くと、海斗は大きな声を出した。
「ちょっと待ってよ! まずは冷静になってお母さんに聞いてみようよ?!」
海斗は梨紗とお母さんに歩み寄った。海斗が話しかけ小野梨紗が通訳をした。しばらく話すと海斗は松本蓮を呼び、お母さんにカメラの映像を見せた。皆はバスケットコートから見守ると、お母さんが頭を下げて海斗の手を両手で握った。
海斗達は戻り、皆に要点を伝えた。居なくなった女の子は八歳のエマちゃん、お兄ちゃんと遊んでいたが、お兄ちゃんとプレーを交代してから居なくなったらしい。お母さんは読書に夢中で居なくなった事に気付かなかったらしい。インスリンを打つ時間の三十分前に、予告アラームが鳴って気が付いた。エマちゃんは重度の糖尿病でインスリンを打たないと失神するらしい。生死に繋がる大変な問題になると伝えた。
海斗はこの広い公園でも十七人の仲間が居れば探し出せると思い、見つけ出す方法を考えた。メモを取り書き出しながら整理したのだ。海斗は始めに、松本蓮にエマの顔写真をグループのSNSに掲載させた。皆のスマホが鳴った。次に地図ソフト起動させた。
海斗は見つけ出す方法をメモを見ながら話し出した。
「それではエマちゃんを探し出す方法を伝えます。むやみに動いても見つからないから、この広い公園を分担して探し出すよ。良く聞いてね。
一.梨紗はお母さんのそばに居てね。唯一、コミュニケーションが取れる人だからね。でも安心をして、俺がこの周辺を探すから何か有ってもすぐ戻れるからね。
二.この周辺、ドーナツ広場とモーガン広場の探索は俺と蓮が担当します。
三.北側のぼうけんの森の探索は美咲と莉子。木々が多いから木々の裏側もよく見てね。
四.東側の馬の博物館と乗馬場、ポニーセンターは颯太と幸乃さん。馬に興味が有ったら、そこに向かうかもね。
五.スイレン池は葵と春菜ちゃん。子供は池に興味を持つからココも要チェックだよ。溺れていると怖いから、最初に水辺を見回してね。
六.東側、どんぐりの森は稲垣さんと桜井さん。やっぱり木々が多くて死角が多いからよく見てあげてね。
七.ここから一番遠い南側の正門と始まりの森は、駿と拓海に任せた。公道に出たら交通事故の元になるから正門から探してね。
八.南西のイチョウの森は美月、萌にお願いします。大きな木が死角を作るから良く見てね。
九.花見をした所は七海と美優にお願いします。人混みに紛れ込んでいるかも知れないよ。人が多いから気を付けてね。
最後に、一々SNSで情報を伝えて情報共有をしたいと思うから、豆にスマホを確認してね、それじゃあ、始めるよ!」
海斗は指示を出すとペアを組んだ仲間は目的地に向かって走しり出した。