第41話 花 見
京野颯太は駆け寄った。
「ハア、ハア、走る時は、走るって言ってくれよ!」
橋本七海は笑った。
「アハハ、梨沙とっても楽しいね!」
「そうでしょ、楽しいものを見付けた時は、おもいっきり走るのよ!」
遠藤駿も続いた。
「梨沙、俺も楽しかったよ。でもビックリした。なあ蓮、見事な桜だね」
「ホント良い時期に来られたね。満開だね」
佐藤美優、鈴木萌も追い着いた。田中拓海は重たいペットボトルを持っていたので最後に追いついた。
「ハア、ハア、もー重いよ! 先に行かないでよ」
遠藤駿はペットボトルの入った袋を交代し、田中拓海はおでこの汗を拭いた。
海斗達はお花見の場所を見定めてた。大きな枝が伸びる桜の下に決めて歩み寄った。男子は協力してブルーシートの四隅を引っ張った。
「バサバサバサ!」
柔らかい芝生の上に真っ青な大きな床が現れた。重石の代わりに四隅には靴を置くと、遠藤駿は水色の床に胸から滑り込んだ。海斗も松本蓮も微笑んで滑り込むと、泳ぐ仕草を見せしたり、クルンクルンと寝転んだ。
女子は手荷物をブルーシートの端に置き、子供の様にはしゃぐ男子を眺めて笑っていた。すると張り合うように小野梨沙は海斗の上に飛び込んだ。続けて橋本七海も、佐藤美優も、鈴木萌まで飛び込み、男子をくすぐり始めた。見ていた残りの仲間も加わって、子供の様にじゃれ合ったのだ。クラス替え前の最後のスキンシップだった。
すると海斗達を呼ぶ大きな声がした。
「お兄ちゃん! ちょっと、お兄ちゃん! もー見っともないよ!」
葵と陽菜が合流したのだ。海斗は立ち上がった。
「ほら、もー、あー可笑しい、じゃれるの中止! 皆、お弁当の準備をしようよ」
皆は服を整え、ブルーシートに腰を降ろした。陽菜は美咲を見た。
「もー、お姉ちゃんも、見っともないでしょ。いい歳して、何をしているのよー!」
中山美咲はそっぽを向いた。
海斗は陽菜を見て嬉しくなった。
「陽菜ちゃん、わー、制服デビューだね! とっても可愛いよ」
皆も陽菜を見て微笑み拍手を送った。林莉子は陽菜に話しかけた。
「わー、春菜ちゃん素敵よ。いよいよ同じ学舎だね。受験勉強頑張ったもんね」
「はい、お陰様で私も横浜山手の一員に成りました。皆さん宜しくお願いしま。……それと伏見さん、今日はお招き頂きまして有り難う御座います。お返しのクッキー、とても美味しかったです」
中山美咲はホッペを膨らまし、松本蓮と鎌倉美月は顔を手で覆った。森幸乃と橋本七海は手で口を隠して笑った。
「春菜ちゃん、今日も丁寧な話し方だね。来てくれて有り難う、好きな所に座ってね。……ねえ、このお兄さん誰だっけ?」
海斗は田中拓海を指した。田中拓海は満面の笑みで陽菜を見つめた。
「顔は覚えているんだけどなー、知らない!」
皆は笑い、田中拓海は肩を落とした。陽菜は名前を覚える気が無かったのだ。
フェリサの二人も合流した。声を合わせて挨拶をした交わした。
「みなさん、ご機嫌よう」
海斗達は顔を見合わせ、タイミングを合わせた。
「ごきげんよう!」
海斗達はタイミングが揃い笑った。フェリサの二人は大きな声の返事を聞いて微笑んだ。稲垣京香も櫻井メイも見事な桜に驚いた。
櫻井メイは海斗に話しかけた
「素敵な公園ですね。ねえ、ここは昔、競馬場だったんでしょ。お母さんが言っていたわ」
知らない仲間は驚き、海斗は説明をした。
「そう桜井さん、良く知っているね。ココは日本で最初の様式競馬場なんだよ。日本で最初なんて言うと聞こえが良いけど、ここも港の見える丘公園と関係が有ってね。生麦事件の代償として造らされた施設なんだよ。戦後は米軍に接収されて返還後、公園に整備された所なんだ。だから馬の博物館も有れば乗馬場ま有るんだ。さっきバスで走って来た道路が競馬場の円周のコースそのものなんだよ」
皆は海斗の話に関心をし、歴史を知って驚いた。
小野梨沙は海斗を見た。
「へー、大きな木が沢山有るけど、昔から有った公園じゃ無いんだ」
森幸乃も続いた。
「流石、海斗君ね、横浜の事を勉強しているわね。私も元競馬場だったのは知っていたけど、明治維新と関係が有ったなんて知らなかったわ」
京野颯太も続いた。
「確かに競馬場にしておくのはもったいないよね、最高の公園じゃないか! 会社の花見はつまらないけど、仲間と来る花見って良いね。皆で食べる食事も楽しみだ。青い空に若草色の芝生も、満開の桜もとっても良いよね。海斗、企画してくれて有難う」
皆も同感し景色を眺めた。見上げると、真っ青な空を背景にした薄桃色の桜はとても美しかった。お菓子にジュース、お弁当を広げ花見を始めた。松本蓮は花見を楽しむ仲間のスナップ写真を沢山撮影した。時より海斗もカメラを代わり、松本蓮の入った写真を撮った。食後に桜を背景に集合写真を撮り、松本蓮はいつもの様にSNS上げた。写真には食事風景の前にじゃれた写真も上がっていた。
桜井メイは羨ましくなった。
「えー、伏見君この写真何ですか! 子供見たいじゃないですか! 私もしたかったなー」
皆は笑った。
「シートを敷いた時、皆のテンションが高くなって、ふざけちゃったの。さあ、食事をして休んでから今度は運動をしようか。空いていると良いのだけれど」
海斗は運動部の遠藤駿を介してバスケットボールを借りて貰っていたのだ。皆はブルーシートを片付けドーナツ広場に移動した。この広場の隣にはバスケットボールのハーフコートが二面並んでいた。