第4話 ファーストネーム
鎌倉美月と松本蓮はマズい顔をした。海斗はそれを見て口に手を当てた。
森幸乃の興味は止まらなかった。
「ねえ海斗君、池田会長って小川書記と付き合っているの?!」
皆も前のめりになった。
「ねー! 蓮、助けてよ! 美月も黙ってないで、何か言ってよ」
眉間にシワを寄せて鎌倉美月は助けに入った。
「もー海斗は口が軽いのだから、他の人には絶対に内緒にしてね。池田会長と小川書記は幼馴染みなの。小川書記は池田会長に片思いをして付き合いを強要しているって感じかな。ちなみに池田会長は橋本さんみたいな人が好きみたいらしいよ」
姿勢を戻し、橋本七海は驚いた。
「えー! 私なの! あっ文化祭でメイド喫茶に来た時も、そう言えば赤い顔をしてたわ。へー、私インテリにモテるのね!」
佐藤美優は口を尖らせた。
「今ごろ何を言うのかと思えば、何人振ってから言うかな?!」
林莉子も同調した。
「そうよ、橋本さんは振りすぎよ! まったく、私みたいに声もかからない人もいるのよ」
橋本七海にも言い分があった。
「あら、林さんだってきっと、そうすると思うわ。だって知らない人に、いきなりラブレターを貰うのよ。やっぱり無理! 私は知り合ってから付き合うまでのプロセスを大事にしたいの。だから私は待ち合わせ場所を言われても行った事はないわ。そう言う人は強引で、いきなり廊下で告白するのよ。その度に目撃者が増えて嫌な噂が増えるのよね」
林莉子は納得をした。
「あー、それで目撃者が多いのね。確かに知らない人からいきなりプロポーズされるのは困るよね。橋本さんも慎重なのね」
森幸乃は目を細くして京野颯太を見つめた。
「誰かさんは会いに行って、問題を作ったけどねー」
皆は困った京野颯太を見て笑った。
海斗は皆に話しかけた。
「ねえ皆、聞いて欲しいんだ」
皆は海斗に注目をした。森幸乃は首を傾げた。
「どうしたの改まって?」
「三学期はグループの垣根を取って行きたいと思っているんだ。まず始めにやる事は、お互いの呼び名をファーストネームにするのはどうかな? もう既にグループ内では定着しているからね。しばらくはぎこちないけどやってみないか?!」
海斗のグループは苦笑いをした。林莉子は特別に嬉しかった。あこがれの京野颯太とファーストネームで呼び合う仲になるのだからだ。一方、京野グループもときめいた。海斗グループに、あこがれがあったのだ。
遠藤駿は京野颯太の顔を見た。
「颯太、面白そうだよ。やってみないか!」
「ああ、やってみても良いけど、さ……」
橋本七海はときめいた。
「じゃあ、伏見君、海斗って呼んでもいーい?」
「ああ、良いよ」
「か・い・と❤️」
橋本七海は照れると小野梨紗は感情的になった。
「もー! 橋本さん、色っぽく言っちゃダメだよ!」
「ププ、梨紗は面白いのね」
小野梨紗は梨紗と呼ばれて嬉しくなった。
京野颯太はニコッと笑った。
「み・さ・き? 美咲❤️ うん、良い響きだ」
海斗は怒った。
「颯太! やらしい感情を入れるなよ!」
京野颯太も海斗から颯太と呼ばれる事に、親しみが持てて嬉しかった。
林莉子は海斗を見て微笑んだ。
「海斗はいつもアイデアを出すんだよね。いつも好転するから皆も覚悟を決めましょう。ねえ颯太、それで良いよね」
「ああ莉子、それじゃあ、そのアイデアに便乗するよ!」
皆は微笑んだ。
森幸乃は羨んだ。
「いーなー、楽しいそうで」
京野颯太は答えた。
「幸乃さん、じゃあ、今度は幸乃と言うことで如何でしょうか?」
森幸乃は京野颯太を見て釘を刺した。
「それはダメよ! いつも京野君は調子に乗るからダメなのよ!」
「トホホ、ダメですかー」
京野颯太が玉砕した所で皆は笑った。海斗は森幸乃にも相談をした。
「幸乃さんの呼び名を、幸乃さんに統一しても良いですか?」
「えっ、ホントー! 嬉しいかも」
「それじゃあ、森さんと呼んでいる人は幸乃さんに統一ね」
皆は声を合わせた。
「はーい!」
森幸乃も微笑んだ。
「ウフ、海斗君は私も楽しくさせてくれるのね」
京野颯太は思い出した。
「なあ、伏見……あっ、間違えた。なあ海斗、嘆願書、上手くいったな!」
皆はニコっと微笑んだ。
「ああ、颯太のお陰だね。嘆願書の効力って凄いな!」
橋本七海は誇らしかった。
「そうよ流石、颯太ね。こんな事が出来ると思わなかったわ」
森幸乃は話題に乗れなかった。
「ねえ海斗君、嘆願書って、何をしたの?」
「実はね、二学期の席替えは仲の良いグループが偶然、近くに集まったたんだ。それで三学期の席替えを阻止すべく、学級委員長の山田を巻き込んで席替えの中止を、長谷川先生に嘆願書として提出していたんだ。」
「へー、しかしそんな事が出来るの?」
「それが、出来ちゃったんだよ! 長谷川先生はいつも社会に例えて問題を解決するんだ。だから席替えが問題なら、どうするか颯太が名案を出したって訳。嘆願書に名前を連ねたのは三つのグループでこのグループだけでクラスの六割になるからね。これなら行けると踏んで年末に行動して、今日のホールルームで受け入れて貰ったんだ」
「へー、京野君もやるわねー。コレが海斗君が言う、京野君の良い所なのね。……ところで席替えをしたくないって言い出したのは、伏見君の周りにいる女の子でしょ?!」
海斗は驚いた。
「えー! どうして解っちゃうのかなー」
「君たちは、楽しそうでいいね。まったく羨ましいよ」
鎌倉美月は森幸乃を見た。
「幸乃さんはお見通し何ですね」
マスターはカウンター越しに海斗を呼んだ。海斗はカウンターに座った。
「伏見君、幸乃の内定祝いに付いてだけどね、皆の調整をして今月の下旬に予定を組んでくれないかな。出来れば幸乃の居ない所で決めて、驚かせて欲しいんだ。参加者は任せるよ、恐らくパーティーのメンツが揃うのかな。……は、は、は」
「マスター、それは人数が多すぎて悪いよ」
「なーに、滅多に無い事だからね、心配しなくて良いよ。むしろ私もお礼をしたいんだよ。海斗君と出会ってから幸乃に沢山の友達が増えたからね。皆にご馳走様をさせてくれないか」
「……マスター有り難う。明日の教室で皆に話してみるよ」
海斗はマスターの都合を聞き、複数の希望日と時間を聞き出した。席に戻るとクリスマスパーティーの事を話題にして仲間達は騒いでいた。海斗も加わり楽しい時間を過ごした。