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第34話 颯太ちゃん

 林莉子は味わいながら小野梨紗に微笑んだ。

「梨紗、やっぱりエレンおばさんのクッキーは、とっても美味しいね」

 中山美咲も続いた。

「生地が柔らかいのがポイントなのねー。梨紗は凄いわね、焼き菓子も料理もどんどん自分のものにするのね」

 一方、京野颯太は海斗を見た。

「海斗、こんな美味しいクッキーを上げたら、女の子は本気にしちゃうよ。ズルイぞ、こんなアイテムを内緒にしていたなんて!」

「本気かどうかは別だけど、美味しく出来たね。梨紗のお母さんの味だからね、アメリカの味がするんだよ。でも折角のホワイトデーだったのにね」

 松本蓮も続いた。

「そうだよなー、これ内緒で上げたら喜んだよね、絶対!」


 京野颯太は心臓を抑えた。

「だから悪かったって、言ったじゃん! でもその通りだよ。残念な事をした」

 森幸乃は男子を見た。

「いいのよ! 今日はこれが楽しくて、お返しのクッキーも嬉しいのよ」

女子は揃って、首を縦に振った。


 皆は貴重な一枚を食べ終わると、食器を片付け残りのクッキーにラッピングを行った。大事に少しずつ食べるのだ。ラッピングに気を使わない女子は早めに終わり調理器具を片付けた。

 男子はテーブルに残り作業を続けた。遠藤駿は京野颯太に声をかけた。

「ねえ颯太、初めてのクッキー作りはどうだった?」

「ああ、とっても楽しかったよ。それに美味しかった。こんなに美味しいクッキーが自分で作れるとは思ってもみなかったよ」

「今度の家庭科の授業は、皆でやろうね。きっと今日みたいに楽しいよ」

 京野颯太は冷ややかだった。

「三年生は一緒になるか判らないだろ、でもクッキーならやっても良いかな。海斗、今日は教えてくれて有り難う」

 海斗は照れくさい顔をした。

「いや、こちらこそ。お膳立てしてくれて助かったよ。少し機械に戸惑ったけどね」

 ラッピングの終わった男子は焼いたクッキーを鞄に大事に仕舞った。


 男女の笑い声が廊下に響く中、ノックが聞こえた。ゆっくりドアが開き、着飾ったお母さんが顔を出したのだ。久しぶりに連れて来る友達が、どんな子供なのか気になっていたのだ。どこの母親も子供の事が心配で気になるのだ。お母さんはキルフェボソのフルーツタルトを持ってきた。家政婦に横浜駅に使いに行かせたのだ。


 お母さんは手招きをして、京野颯太を小さな声で呼んだ。

「ちょっと颯太ちゃん、挨拶しても良いかしら」

 京野颯太は母親に歩み寄った。

「ダメだよママ、もー、戻ってよ」

「いいから、美味しいモノを買って来たのよ、皆さん喜ぶから」


 母親は京野颯太を押しのけ、海斗達に歩み寄った。

「いつも颯太がお世話になっています。口に合うか解りませんが、お召し上がり下さい」

 男子はお母さんが気になり、女子はキルフェボソの箱に目が奪われた。海斗は林莉子の家の時を思い出し、自己紹介を始めた。

「こちらこそ颯太君には、大変お世話になっています。今日は厨房を使わせて頂き、有り難う御座いました。ここに居る友達は学校の友人です。紹介が遅れましたが、私は伏見海斗です」

 海斗は次々と仲間を紹介し、紹介された友達は頭を下げた。紹介が終わると母親は胸を撫で下ろした。

「皆さん、挨拶が出来るお友達で安心したわ。ゆっくりして下さいね」

 母親は微笑み退室をした。


 京野颯太は頭を下げた。

「皆、ゴメン! まさか入って来るとは思わなかった」

 海斗は答えた。

「ププッ! 颯太の態度の方が可笑しいんだよ。親は心配しているんだ、だから自己紹介を始めたんだよ。やっぱり安心しただろ!」

 小野梨紗も続いた。

「そうだよ、恥ずかしい事じゃ無いんだからね」

 松本蓮も続いた。

「この間、莉子の家に遊びに行ったら、聞き耳を立てていたお母さんと妹が、ふすまごと倒れて登場したんだぜ! ププッ! あの時はビックリしたよ!」

 海斗グループは笑い、京野グループは驚いた。林莉子は真っ赤になった。

「そうよ、ウチの家族より品良く登場して、羨ましいわ!」

 皆は笑い京野颯太も安心をした。

「皆、有り難う。さあ、お母さんからの差し入れを食べてよ!」


 女子は箱を開け、歓声を上げた。

「キャー! 美味しそう! キレー! 流石、京野君ね。私、初めて食べるわ!」

 橋本七海、佐藤美優、鈴木萌は再びお茶の準備をした。取り皿に、フォーク、お湯を沸かしカップを用意した。

 タルトを取り分け、紅茶を入れて席に着いた。高級なモノが有るとビックリする程、女子は敏速に連携した。続いて女子はスマホで映える写真を撮り大騒ぎをした。フォークを入れ一口食べると満面の笑みを浮かべたのだ。

 男子は女子の行動を唖然として見ていた。松本蓮は遠藤駿に聞いた。

「なあ、俺達のクッキーと随分、差が付いたな。あの、お店は有名なのか?」

「ああ、七海から聞いた事がある、有名なお店だよ。海斗は知らなの?」

「俺も知らないけど、女子の喰い付き方を見れば、有名なのが良く解るよ」

 京野颯太は答えた。

「有名なお店だよ、銀座にも青山にも有るお店だよ。美味しいから食べてご覧よ」

 男子も写真を撮ってから食べ始めた。一口食べるとメロメロになった。

 遠藤駿は声を張った。

「うっめー! やっぱり有名店だけ有るね」

 田中拓海も続いた。

「ホントだー、高級な味がするよ!」


 海斗はとぼけて、モノまねをした。

「颯太ちゃん、とっても美味しいよ!」

 松本蓮も続いた。

「美味しいねママ、もう、早く戻ってよー」

 女子は海斗男子を見て笑い、京野颯太は顔を覆った。

 森幸乃も続いた。

「颯太ちゃんって呼ばれているのね、可愛いー、颯太ちゃーん」

 またまた皆は笑った。


 皆は高級なタルトを食べ終わると、片付けをして帰る準備をした。皆は京野颯太にお礼を伝えたと、彼も久しぶりに友達を招いて楽しい時間を過ごす事が嬉しかったのだ。

 男子は目的のクッキーを作り上げ達成感を感じた。京野颯太は門まで友達を見送り、友達も駅に向かい帰路に付いた。ホワイトデーを前にし、焼き菓子作りは楽しい思い出を残した。

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