第31話 ホワイトデーの準備
バレンタインデーに貰ったチョコレートのお返しをする日が、まもなくやってくる。男子は体育の時間に模索していた。
遠藤駿は京野颯太に話しかけた。
「ねえ颯太、バレンタインのお返しは考えた?」
「まあ、そうだなー。会社の女性の分もあるから、デパ地下でまとめ買いをするよ」
遠藤駿は下を向き、額を押さえた。
「トホホ、颯太に聞くんじゃなかった。なあ蓮、お前はどうするんだ?」
「俺はスーパーで買おうかな、義理チョコも市販のモノが多かったからね」
「俺もそうしようかな。って言うか、それしか選択ないもんな!」
松本蓮は返した。
「俺、良い事考えたよ! 駿はウナギを使って、うなぎパイなんてどうだ?!」
遠藤駿は困った顔をした。
「そもそも料理とお菓子作りは別物だよ! お菓子なんて作れないし、折角のウナギが勿体ないよ。だいちアレはホントにうなぎが入っているのか? 海斗はどうするんだ?」
海斗は自慢げに答えた。
「俺は考えて有るよ! エレンおばさんが教えてくれたアメリカンクッキーを焼くんだ!」
松本蓮は想像して、ツバを呑んだ。
「えー良いな! 外はサクッと中はしっとりとして、香ばしく豊かな甘い香りがするクッキーだろ。あの美味しいクッキーが海斗は作れるんだよなー。旨かったなー、あれを上げたら、きっと女子は喜ぶよなー」
京野颯太、遠藤駿、田中拓海もツバを呑んだ。京野颯太が一歩前に踏み出した。
「海斗、俺も教えてくれないか。幸乃さんに食べさせてみたいんだ」
遠藤颯太も田中拓海も頭を下げた。海斗は困った顔をした。
「えー、ウチのキッチンは皆が入るほど大きくないよ」
京野颯太は返した。
「それじゃあ、ウチならどうだ。ウチなら広いし業務用の厨房も有るんだ。ウチは人寄せが多いから、客間の隣に専用の厨房が有るんだよ。そこなら気兼ねしなく使えるだろ!」
松本蓮は海斗の肩を叩いた。
「それじゃあ、断る理由が無くなったな、なあ海斗。俺達にも教えて!」
「はあー、そうだねー。じゃあ皆で作ろうか!」
京野颯太は続けた。
「時間も無いし、早速、今度の土曜日はどうだろう?」
海斗は再び困った顔をした。
「でもスーパーじゃ材料が揃わないから、輸入食材店に買いに行かないと……」
京野颯太は胸を張った。
「ウチは総合商社だよ、必要なモノが有れば多めに揃えておくから任せてくれ!」
海斗は微笑んだ。
「仕事モードの颯太はやっぱり違うね。ねえ皆、女子には気が付かれないでね」
皆は喜び首を縦に振った。海斗は必要なモノを写真付きでSNSを使い京野颯太に送った。京野颯太は間に合うように社員に揃えさせた。
その日の夜、森幸乃がSNSグループを利用して発信をした。
幸乃:皆さん今晩は! 今度の土曜日に京野君家で、男子が揃ってクッキーを焼くイベント情報を入手したわ! 講師は海斗君で情報ソースは京野君です。態度が変だったので追求したら教えてくれました。
美優:流石、幸乃さん! そりゃ、行くしかないでしょ。良い写真が撮れそうね。
駿 :もー、内緒だったのにー、ダメだよ颯太!
莉子:私も行きたい!
美咲:ズルい、内緒にするなんて!
拓海:ホワイトデーで、驚かす予定だったのにね。
梨紗:私も絶対行くー!
蓮 :颯太、男子全員からしっぺな!
萌 :楽しいイベントになりそうね。私も参加します。
颯太:男子、ゴメン! ホントにゴメン
海斗:バレたならしょうが無いね、皆で楽しくやろうよ。でもあげるのはホワイトデーだよ。
美月:海斗は偉いね。私も楽しみにするね
幸乃:皆さん、私も楽しみにしています。それでは!
皆はスタンプを押した。
翌日の教室で、登校するやいなや京野颯太は男子から責められていた。京野颯太は平謝りだった。しかし女子が揃うと男子全員が女子から責められた。女子は本題を忘れ、残り少ない三学期の楽しいイベントと位置づけたからだ。
小野梨沙は海斗をやさしく睨んだ。
「もー、何で内緒にするのよ! 想像しただけで楽しいじゃない」
橋本七海は男子全員を見回した。
「雪かきの時に幸乃さんから言われたでしょ! それでも呼んで欲しいって!」
佐藤美優はハンカチでヨダレを押さえた。
「そうだよ、こんなレアイベント。男子がエプロンをしてクッキーを焼くなんてさあ、内緒にしちゃダメだからね!」
田中拓海は勇気を出して言った。
「ねえ、ホワイトデーの贈り物だよ。女子は何か勘違いをしていない?!」
男子は田中拓海を持ち上げた。
「エライ拓海! 頑張れ拓海! 応援しているぞ拓海!」
すると女子の目が鋭く田中拓海に刺さった! 田中拓海は両手で自分の心臓を押さえて倒れ込んだ。
「うっ、うわー」
男子は戦場に散っていった田中拓海を見て肩を落とした。
中山美咲は冷静になって考えた。
「ねえ、ちょっと待って、でも拓海の言う事は決して間違いでは無いわ。ホワイトデーなんだから」
鎌倉美月も続いた。
「そうね、何も出来ない男子が海斗から知恵を借り、颯太が場所を提供してバレンタインのお返しを作るのよね。良い話だけどダメなの! ねえ海斗、クッキーってエレンおばさんのレシピなんでしょ?!」
「ああ、そうだよ。皆が梨紗の家で喜んで食べていたでしょ。だからお返しはコレって決めていたんだ!」
中山美咲は海斗を見た。
「それじゃ、話は別よ! あんな美味しいクッキー、私も覚えたいもの」
林莉子は思い出した。
「そう、焼き上がると部屋中に甘くて香ばしい香りが広がるの、クッキーの外側はサクッと中はしっとりしてとっても美味しいのよねー」
エレンおばさんのクッキーを知らない京野グループはツバを呑んだ。
橋本七海は海斗を見た。
「あ~、美味しそうねー。私も作って見たいわ!」
佐藤美優と鈴木萌も続いた。
「私達も作りたい!」
海斗は頭を抱えた。
「もー! 主旨が変わっちゃったよ。それじゃあ、梨紗も講師役になってよ! 手伝ってくれる? ホワイトデーのお返しじゃ無くて、焼き菓子教室になっちゃたね!」
「えっ私が先生? 益々、楽しみになってきたわ!」
皆は顔を見合わせて微笑むとチャイムが鳴った。ショートホームルームの時間となった。