第29話 卒 業 式
とうとう三年生の卒業式となった。一、二年生は休校となったが在校生代表として部活の代表から四十名程が参加していた。写真部は海斗と松本蓮、鎌倉美月が撮影係として腕章を付けて参加した。海斗と鎌倉美月は顧問より慣れない一眼レフを与えられ撮影することになった。
式は校歌斉唱となり吹奏楽部が演奏を奏でると、普段は歌わない生徒も声に出して歌い切った。特に社会人になる港湾課の生徒は大切に歌い、すすり泣く声が聞こえた。
式は淡々と進み、在校生の代表として文芸部の鈴廣さんが送辞を読み上げた。続いて卒業生代表として、池田生徒会長が答辞を読み上げた。校長先生は晴れの門出に相応しいスピーチを語りかけた。生徒は最後となる校長先生の言葉に感銘を受けた。
続けて卒業証書の授与となり、担任が一人一人の名前を呼んだ。生徒は階段を昇り舞台に上がると、校長先生から卒業証書を渡された。海斗は森幸乃の番が近づくとそばに寄り、ひいき目に写真を撮ろうとした。
森幸乃は舞台の下で自分の番を待っていた。名前を呼ばれると感情が高ぶり、歩けないほど泣き出した。すると校長先生は、そばに居る海斗に気が付いた。
咳払いをして海斗に注目させた。海斗を見て顎を使い命令を出した。そこの女子をココへ連れて来いとばかりに顎を動かした。海斗は森幸乃に歩み寄ると校長先生は首を縦に振った。
海斗は一眼レフを肩から首にかけ直した。
「幸乃さん、幸乃さんの名前が呼ばれたよ。寄り添ってあげるから舞台に上ろう」
森幸乃は我に返った。
「えっ、なんで海斗君が居るの?」
海斗は腕章をみせた。
「ほら、校長先生が待っているよ」
森幸乃はハッとして我に返った。
「……もう、一人で大丈夫よ」
森幸乃は舞台に上がり教壇の前まで歩み寄った。校長先生は微笑んだ。
「森幸乃さん、この間は雪だるまを有り難う。卒業おめでとう」
「はい、校長先生お世話になりました」
森幸乃は涙を流しながら卒業証書を受け取り階段に進んだ。階段を降りる途中で海斗を見つけ手を振った。海斗は微笑んだ顔を見て控えめに手を振り返した。
この後の海斗は感情が高ぶった生徒の補助役として、その場所に固定された。数人の女子を補助して卒業式は閉幕した。
三年生は自分達の教室に移動を始めた。海斗達三人が集まると校長先生は海斗を呼び止めた。
「あー、伏見君! 顎で使って悪かったね。マイクが有るから喋られなかったんだ。先程は卒業生に寄り添ってくれて有難う。……それとね、池田君と小川さんから聞いたよ。君にその気が有るのなら生徒会長選挙に立候補すると良いよ。しっかり爪跡を残して、大学を卒業する頃に採用試験を受けなさい。応援するからね、私にも将来の楽しみが出来たよ、は、は、は、は」
三人は驚いた。池田前会長と小川前書記からの計らいだっだ。海斗は頭を下げた。
「是非、宜しくお願いします。夢に向かってがんばります」
校長先生はニコッと笑い体育館を後にした。海斗達も体育館を去り写真部部室に向かった。
(写真部、部室にて)
海斗達は三年生を部室で待った。しばらくすると続々とホームルームが終わった三年生が集った。
和泉前部長は三人に話しかけた。
「松本君、今日はお疲れさまでした。これから写真部を引っ張ってくれよ! 伏見君も、鎌倉さんも写真部を盛り上げてね」
「はい!」
松本蓮は急に悲しくなった。
「解っている事ですが、いざ卒業式になると込み上げるものですね。とっても寂しいです。俺、部長の様に出来るか不安です」
「大丈夫だよ! 数々のトラブルを乗り越えてきたじゃないか、ましてや仲間もいるから、松本君なら大丈夫だよ」
海斗も続いた。
「和泉先輩、いろいろご指導有難う御座いました。大学に行っても遊びに来て下さいね。歓迎します」
鎌倉美月も続いた。
「卒業しても、お体に気をつ付けて下さい」
「みんな、有り難う」
森幸乃が部室に入って来て、三人に歩み寄った。
「みんな有難う。海斗君には最後の最後まで助けてもらったわね」
「幸乃さん、最後だなんて言わないで下さい。しょっちゅう自宅の一階に行きますよ」
四人は顔を見合わせて笑った。三年生が揃うと松本蓮は集合写真を誘い、カメラを準備した。写真部らしく飛んだり跳ねたり笑ったり、何度もシャッターを切った。最後はグダグダになりながら砕けた表情の写真が撮れた。松本蓮は写真部のSNSに写真を載せた。三年生の最後の思い出写真となり皆は喜び解散となった。
正門の前で森幸乃は海斗にお願いをした。
「ねえ海斗君! 君のボタン、貰って良い?!」
「幸乃さん、明日も着るから一番下のボタンでも良いいですか?」
森幸乃はニコッと笑い海斗の上着からボタンを外し、ハンカチに包み仕舞い込んだ。その後、四人は喫茶「純」に向かった。
海斗は喫茶「純」のドアを開けた。
「マスター、おめでとう!」
「やあ、いらっしゃい。海斗君、蓮君、美月さん。卒業おめでとう幸乃。京野君が来ているよ」
京野颯太は森幸乃に大きな花束を渡した。
「幸乃さん、卒業おめでとう御座います」
「颯太君、有り難う。とっても嬉しいわ」
皆は席に付き、ホットコーヒーを注文した。