第28話 卒業式にむけて
海斗、松本蓮、鎌倉美月は三年生が卒業する前に、お世話になった生徒会に挨拶に行った。生徒会室には四、五人の生徒が三年生の別れを惜しんでいた。海斗がドアを開けると、池田会長と小川書記は微笑み海斗達を歓迎した。
「やあ写真部の諸君! また問題でも起きたのかい?」
皆は微笑み、海斗は困った顔をした。
「もー、大問題です! お世話になった先輩が卒業するんです。池田会長、小川書記、本当にお世話になりました。二学期からの付き合いでしたが、僕達を助けてくれて有り難う御座いました」
松本蓮、鎌倉美月も海斗に合わせてお辞儀をした。
すると池田会長は色々な事を想い出した。
「いやー色々あったねー。文化祭では、こちらこそ大変お世話になったよ。写真部のパワーに押されて、みるみる生徒会の空気が変わったからねー」
小川書記も思い返した。
「私は新聞部ね。裏の時も表の時も迷惑だったわ。あの戸塚部長と山本デスク、思い出すだけでも頭に血が昇るわ。私達、頑張ったわよね! ププ! これも高校時代の良い思い出になったわ」
皆は笑い、松本蓮も続いた。
「二人とも大学は青山でしたよね、仲が良いですね。学部も同じですか?」
「ええ、二人とも経済学部だよ。ねえ鎌倉さん、皆は進路を決めたの?」
「私は未だですが。……凄いんですよ! 海斗も蓮も、将来の夢を決めたんです」
池田会長と小川書記は驚いた。
「伏見君、松本君、君達は凄いね。もう将来の目標が出来たのかい?」
「はい、私は学校が好きだから、横浜山手の教員を目指します」
「俺は新聞会社に就職をして、カメラマンを目指します」
「伏見君、それなら絶対生徒会に入った方が良いよ! 学校の有名人でも就職の時は、忘れ去られて横並びになるからね。生徒会で学校に爪痕を残した方が良いね」
「そうよ、就職する時に、今居る先生が居るとは限らないわ」
海斗は答えた。
「僕が生徒会なんて、そんなこと出来ませんよ」
小野書記は海斗の前で指を折り、数えだした。
「あら、七ヶ月よ! 九月からの七か月は生徒会に片足を突っ込んでいたじゃないの。ここに居る生徒会のメンバーには貴方達のを慕う人も多いのよ。伏見君は向いていると思うわ、将来の夢の為にもね」
池田会長は松本蓮を見た。
「松本君はカメラマンかー、これも頼もしいねー。金賞を撮った写真は素晴らしかった。きっと良い写真家になれるよ」
「凄いわねー、将来の夢が有るなんて。私は大学に行ってから探すわ」
海斗達は、しばらく思い出話に華を咲かせて生徒会室を後にした。
帰宅途中に鎌倉美月は海斗に話しかけた。
「海斗、池田会長から良いことを聞いたね。春からは生徒会に行かなくちゃね!」
「えー、俺も写真部の一員だよ。だいち生徒会なんて向いてないよ」
松本蓮は海斗の顔を覗いた。
「なあ海斗、写真部は大した実態はないから、掛け持ちも出来るよ。将来に向き合うって、こう言う事なんじゃないか?!」
「……そうかー、生徒会委員ねー。手伝くらいならやってみるか!」
松本蓮と鎌倉美月は顔を見合わせ海斗に微笑んだ。
「やるなら、生徒会長だよ! 応援するぜ!」
「そうね、やるなら会長ね」
「えー! だって選挙するんだよ、恥ずかしくて出来ないよ」
松本蓮は海斗の背中を押した。
「夢と向き合うんだろ、爪跡を残そうぜ!」
海斗は苦笑いをした。重たい気持ちになったが、将来に向き合うという事を自覚したのだ。
翌日、海斗グループと京野グループは早めに昼食を済ませると、港湾課三年A組の教室に向かった。海斗は教壇側の入口で近くの生徒に声をかけ森幸乃の席を尋ねた。
すると生徒は大きな声で呼び出した。
「おーい、女帝! お客さんだよー!」
海斗達は驚いた、教室でのあだ名は女帝だったのだ。森幸乃は窓側の後方に座わり女友達と話をしていた。
森幸乃は気が付くと、大はしゃぎで手を挙げた。
「キャー、海斗君、皆、遊びに来てくれたのー、コッチに来てー!」
ぞろぞろと十二人の二年生が教室を対角線状に歩くと、皆が注目をした。
森幸乃は海斗達に話しかけた。
「海斗君、今日はどうしたの?」
「在校中に、お礼を言いに来ました。幸乃さん、お世話になりました」
松本蓮も続いた。
「卒業してもOGとして写真部に遊びに来てください」
鎌倉美月も続いた。
「幸乃さんと出会えて楽しい思い出が出来ました。本当に有り難う御座いました」
京野颯太は仲間達を掻き分けて森幸乃の前に出た。
「幸乃さん、これからもよろしくお願いします」
森幸乃は感情が込み上げ涙ぐんだ。
「みんな有り難う、とっても嬉しいわー! 君達には、いつも驚かされてばかりね。わざわざ来てくれて有り難う」
すると、森幸乃は教室がざわついている事に気が付いた。男子も女子もスマホを向けて写真を撮っていたのだ。
教室の生徒達は森幸乃に話しかけた。
「おい女帝! 橋本さんを紹介してよ!」
「俺はミスコン二位の小野さんを紹介してー!」
「幸乃、伏見君と写真を撮らせてよ!」
「ねえ、京野君の連絡先教えてー!」
「ウフ、アレはクレーマー事件で話題になった松本君よ!」
森幸乃は感動的な場面だったのにすっかり水を刺された。勢い余って席を立った。
「こら男子、殺すぞ!」
教室が静まり返えると、森幸乃は続けた。
「折角、良いシーンだったのにねー、ゴメンね。あなた達は自分が思うより学園の有名人なのよ。その友達が合わせて十二人も来れば注目されるわよね。ねえ最後だから私のお願い聞いてくれる?」
森幸乃は教室で集合写真をお願いした。皆は首を縦に振ると、森幸乃は教室の皆に大きな声で話しかけた。
「ねえ皆、海斗君達と集合写真を撮ろうよ!」
教室中から歓声が上がった。机を後方に下げ、皆は黒板を背にして並んだ。海斗達が前列に座り、後列に教室の生徒たちが並んだ。松本蓮はスマホにミニ三脚を付けて机に置いた。セルフタイマーをかけて松本蓮も鎌倉美月の隣に並んだ。
「三、二、一、カシャ!」
松本蓮は二回撮り、SNSのグループに上げた。森幸乃はその写真を三年A組のSNSグループに上げたのだ。再び教室から歓声が上がり海斗達はもてはやされたのだ。
中山美咲は時計を見て伝えた。
「海斗、そろそろ戻らないと!」
「じゃあ、時間だから帰るね。幸乃さん、また後でね!」
「卒業間際のクラスに楽しい時間をくれて皆有り難う、またね」
海斗達は慌てて、自分の教室に戻って行った。