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第26話 女 系

 林莉子は得意げな顔をした。

「エヘン! 私も受け売りですが教えて進ぜよう。ハマグリは二枚貝だから上と下はピタリと合うの。同じ大きさのハマグリを合わせてもピタリとは行かないのよ。つまり将来、仲の良い夫婦になれるように願いを込めたらしいの。それに平安時代に貴族がパズルの様にハマグリを合わせて遊んでいたらしいわ。ハマグリの内側には鮮やかな色彩で絵が描かれ、高貴な物の対象だったみたい。ひな祭りは高貴な文化に憧れた庶民が、娘に幸せになってもらおうとして全国に広まった文化みたいね」

 林莉子の説明が終わると、女子も男子も大きくうなずいた。ひな祭りは女の子を大切に思う親の気持ちが全国に伝わったのだ。


 松本蓮は口を尖らせた。

「女子は良いよな! 愛情のある話があって。しかも二十歳を過ぎても祝ってくれてさ、端午の節句は、せいぜい中学生までだもんな。兜はまだ良いけど、五月人形が子供だから余計なんだよな」

 小野梨紗は言った。

「ふーん、でも大空を泳ぐ鯉のぼりが有るじゃん! あれはカッコ良いよ、ねえ海斗」

「ああ、子供の頃は大きな鯉のぼりに憧れたな。大きな家は大きな鯉のぼりを飾るだろ、やっぱり羨ましかったな」


 林莉子は残念そうな顔をして答えた。

「それがさあ、お父さんも鯉のぼりを飾りたかったみたい。でも三人目も娘だったのよ。ウチは代々続く女系家族なのよ」

 海斗は言った。

「あっ、それで莉子は竹を割ったような性格と面倒見が良いんだ。三姉妹の長女なら、なおうなづけるよ。ププッ! それじゃあ、家族の中でお父さんは四対一かー、そりゃ大変だ!」

「海斗、違うわよ。お婆ちゃんがいるから五対一よ」

「えー! お父さん、かわいそうー」

 海斗も松本蓮も、鎌倉美月も驚いた。


 皆は昼食を済ませると休憩を取った。海斗と松本蓮は畳の上で仮眠を取り、彼女達は女子トークで盛り上がっていた。

 海斗と松本蓮が目を覚まして座卓に着くと、海斗は話しかけた。

「正月休みに親戚の家に来たようだよ。日本の文化に触れて美味しい物を食べて、仮眠までさせて貰っちゃった」

 松本蓮も続いた。

「俺もそんな気分だよ。大学生になって皆が集まると、こんな感じなのかな」

 女子はニコッと微笑んだ。鎌倉美月は答えた。

「そうね、いつまでも仲の良い関係でいたいわね」

 中山美咲は気が付いた。

「そうだ莉子、皆でジェンガしようよ!」

「そうね、面白そうね。今、持ってくるね」


 皆は座卓の上を片付けてジェンガを始めた。長方形の座卓の長辺に三人ずつ座わり、海斗の両脇には中山美咲と小野梨紗が座った。一周目は、まじめにプレーをしたが、二週目からは小野梨紗が海斗のプレーの邪魔をした。小野梨紗が海斗を押すと海斗が中山美咲にぶつかり、押し返すと小野梨紗にぶつかった。海斗は板挟み状態だったが、こっそり喜んでいた。悪ふざけは更に進み、小野梨紗は対面のプレーヤーには席を立って、くすぐりに行った。たまにブロックが崩れる音と共に大きなため息が漏れた。男女の楽しい笑い声が響いた。


 再び、ふすまがガタガタと鳴った。小さな声が聞こえた。

「ダメよ! 押さないで! 止めてよ! あー! ダメダメ……バタン!」

 今度は妹達と、お母さんが障子と共に倒れ込んだ。皆はビックリして飛び離れた!


 妹達はお母さんの後ろに隠れ、お母さんは身だしなみを整えた。

「い、いらっしゃい、あまりに楽しい声が聞こえたから気になっちゃって。莉子には来ないように言われていたのよ。ゴメンなさい」

 林莉子は真っ赤になった。

「もー! 恥ずかしいから早く戻ってよ!」

 林莉子はお母さんの背中を押すと、お母さんは振り返り姿勢を正した。

「いつも莉子がお世話になっています。恥ずかしがり屋の莉子が、皆さんと楽しく遊んでいるなんて嬉しくなりました。皆さん宜しくお願いします」

 林莉子は申し訳なさそうに皆を見た。

「ホントにゴメン、皆、せっかく楽しかったのに水を差しちゃって」

 小野梨紗は自分の事を思い出した。

「莉子、ちっとも悪くないよ。お母さんは心配なんだよ」

 海斗も続いた。

「むしろ、最初に挨拶をすれば良かったね。ゴメンね、莉子」

 海斗達は順番に自己紹介を始めた。林莉子のお母さんもヘレンと同じように子供が学校で上手くやっているのか心配だったのだ。礼儀正しく挨拶をする友達に嬉しく思い、安心して戻って行った。


 引き続きゲームをしていると、お母さんが熱い飲み物を持って来た。

「先ほどは失礼しました。古い日本家屋は隙間風が入るのよね、寒いでしょ? ひな祭りなので甘酒を用意しました。良かったら飲んで下さいね」

 お母さんは、お盆に湯飲みと甘酒の鍋を置いて戻って行った。林莉子は自分のそばに置き、甘酒をそそいで皆に配った。

 鎌倉美月は喜んだ。

「今日は甘酒まで飲めるのね。莉子、おもてなしをしてくれて有り難う」

 皆は口に付けると小野梨紗は慌てて口を離した。

「あっちー! でも鎌倉で飲んだものより濃い味がしてオイチー!」

 松本蓮も続いた。

「なあ美月、あっちは、さらさらだったよね」

「うん、そうね。コッチの方がドロッとしている家庭的な感じがするわ」


 皆は甘酒を味わいながらジェンガを進めた。しばらくすると小野梨紗は海斗に寄りかかったり、くすぐったり海斗の番で無くてもちょっかいを出し始めるた。中山美咲も負けずに海斗にじゃれたのだ。対面に座る林莉子は二人の顔が赤くなっている事に気付いた。

 松本蓮はジェンガを持って言った。

「ねえ美月、なんだか、ふわふわするよ」

 鎌倉美月は松本蓮を見ると顔が赤くなっていた。

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