第24話 雛祭り
ひな祭りとは、海斗には縁の無い祝日であったが、葵のお陰で二月の中旬からケースに入った雛人形が伏見家にも飾らるようになった。ひな人形は和室の床の間に鎮座し、海斗も正太郎も三月三日のお祝いを楽しみにした。
(ニ年B組にて)
期末テストも終わり三月を迎えた。いつもの日常に戻り、海斗達は残り少ない三学期を過ごした。
四時間目が終わり昼休みとなった。机を並べ終わると小野梨沙は抑えていた感情を漏らした。
「あーあ、もう時期これも出来なくなるのね。私、このクラス好きだったのになー」
皆もやるせない思いだった。松本蓮も続いた。
「梨沙、俺も同感だよ。四月のクラス分けは嘆願書のように阻止は出来ないもんね」
鎌倉美月は頬杖を付いた。
「こればかりはねー、卒業する訳じゃないから、割り切るしかないよ。ねえ美咲」
「そうね、あと少しだけど、楽しく過ごそしましょ。……あっ、そう言えば、莉子の家は今年も飾っているの?」
「うん、飾っているよ。……いいよ! 皆で見に来る?」
海斗、蓮、美月はきょとんとしていた。海斗は林莉子に話し掛けた。
「何を飾って有るの? ……ああ、そうか、女の子の日か!」
松本蓮はご飯粒を吹き飛ばした。
「ブー! 海斗、女子の前で何を言ってんだよ!」
鎌倉美月は松本蓮の頭を拳骨で叩いた。海斗は続けた。
「蓮、違うよ。ひな祭りだよ。莉子の家には雛段を飾ってあるの?」
「そうなの、先祖代々引き継がれている七段飾りの雛人形を飾るのよ」
林莉子の家では豪華な七段飾りの雛人形を代々飾る習慣が有り、この時期になると見物をする客人が増えるのだ。
小野梨沙は興味が湧いた。
「莉子、私も見たい! 七段飾りはデパートでしか見たことが無いよ。それに莉子の部屋も見てみたいな」
中山美咲は続いた。
「莉子の家は凄いのよー、まあ行ってみてからのお楽しみね。じゃあ私が最寄り駅で待ち合わせをして連れて行くわ。莉子は家で待っていてね」
小野梨紗は喜んだ。
「うん、うん、なんだか楽しくなってきたね!」
皆も笑顔になった。終末の土曜日に林莉子の家に行くことになった。
(雛人形見学の日)
土曜日になり、林莉子の最寄駅で待ち合わせをした。海斗は待ち合わせ時刻の三十分前に到着した。駅を出ると商店街が連なっていた。海斗は数々の看板に目を奪われてると、いきなり背中を叩かれた。
「ワッ! 海斗、ピックリした?!」
「わー! ピックリしたよ! ププ、美咲もそう言う事をするんだね」
「えっ、おかしかった? 梨紗の影響かな? 海斗は、いつも早いのね」
「待たしたら悪いからね。それに、こうして話す事も出来るしね」
海斗は中山美咲を見つめると彼女は見つめ返した。二人は見つめ合って赤くなった。
「ねえ美咲、友達の家に集まるのは久しぶりだね。梨紗の家の勉強会以来かな。なぜか、いつもトラプルが起きるんだよね」
「ププッ! そうよね。今度は無いと良いわね」
すると海斗は大きな声と同時に背中を叩かれた。
「わっ! ビックリした?!」
海斗は振り向くと小野梨沙が居た。
「梨紗、ビックリしたよ! もー、驚かせないでよ! ププッ!」
海斗と中山美咲は笑い、小野梨沙は不思議な顔をした。
「ねえ梨紗、いま噂していたんだ。脅かして出でくるんじゃないかってね」
「えー! なーんだ、読まれていたとは」
三人は挨拶を交わすと、松本蓮と鎌倉美月がやってきた。
松本蓮は声を掛けた。
「おーい、みんな早いねー!」
「蓮、美月、おはよう! 相変わらず仲が良いねー!」
鎌倉美月は照れた。
「最近は海斗が先に行くから、二人になっちゃうんだよ」
皆は挨拶を交わした。
中山美咲は三人を引き連れて、林莉子の家に向かった。途中で商店街のスーパーに寄り、お菓子と飲み物を揃えた。商店街を通過して街道沿いを歩くと、畑と大きな家が建ち並ぶ街並みに変わった。
美咲は後ろを向いて足を止めた。
「ここよ! どう、驚いた?! 莉子の家は地主さんなのよ。畑もやっているけど、マンション経営もしている家の長女なのよ!」
皆は驚いた。
「えー!」
海斗は言った。
「莉子はお嬢様だったのかー! 確かに、これだけ広さが有ればスポーツも得意になるよね」
大きな石の門柱に松の門かぶりの有り、門中には林と書かれた縦書きの表札が有った。
中山美咲はインターホンを押すと、遠くにある玄関から林莉子が現れた。
「みんなー、わざわざ来てくれて有り難うー!」
皆は玄関に入ると再び驚いた。玄関ホールだけでも海斗の部屋以上大きいのだ。正面には大きな伊万里焼の壺が飾られていた。上がり框の高い玄関に上がり、雛人形の有る客間に通された。七段飾りを目にした女子は歓喜を上げた。うっとりと表情が変わり、お雛様を愛でた。
小野梨沙は感激をして近づいた。
「わー、凄い、繊細な飾ねー」
鎌倉美月も目を輝かした。
「すっごーい! 蓮、風格のある七段飾りよ」
松本蓮は女の子達が嬉しそうに雅な雛人形を見ている光景を見て、スマホを取り出し写真を撮った。この貴重な機会を逃さなかったのだ。
林莉子は照れた。
「ヤダー、松本君まで。皆に褒めてもらうと嬉しいわ。苦労して並べた甲斐があったわ」
小野梨紗は驚いた。
「えー、コレ一人で並べたの?! それは大変だったねー!」
「ヤダー、梨紗違うわよ。妹達と三人で並べたのよ!」
中山美咲以外は会話が脱線した。三姉妹だった事を初めて知ったのだ。