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第22話 雪だるま

 雪だるまが仕上がると皆は歓声を上げた。しばらくすると、その雪だるまに見とれ静かになった。汗だくで作り上げた雪だるまを見て、皆の心に達成感が満たされたのだ。校長先生もレースのカーテン越しに、そっと生徒の様子をうかがい微笑んだ。

 京野颯太は清々しい表情をした。

「海斗、上手く出来たな!」

「ああ、上手く出来た。でも俺達の方が少し小さかったかな」

 遠藤駿は答えた。

「そりゃ、俺達の方が男子が多いからな」


 森幸乃は松本蓮に声を掛けた。

「ねえ蓮君、写真を撮りましょうよ!」

「うん、そうなると思って三脚を持って来たんだ」


 松本蓮は鞄から小さな三脚を取り出し、スマホを取り付けた。皆は雪だるまの前に並んだ。松本蓮は三メートル程、先にカメラを置きセルフタイマーを掛けて小走りに戻った。雪だるまの横に立ち、寄りかかりポーズを決めると、雪だるまが傾きだした。

「あー!」、「キャー!」

 皆は松本蓮を見ると、雪だるまが傾き始めた事に気が付いた。校長先生もドキドキして見ていた。

「カシャ!」シャッターが切れた。


 鎌倉美月は松本蓮に叱りつけた。

「もー! どうしてくれるのよ!」

 小野梨紗は冷静に雪だるまを見て笑った。

「ちょっと見てよ、なんか可愛いよー!」

 佐藤美優も続いた。

「いやーん、可愛い! ねえ七海も見てよ!」

「ププッ! 性別が無いと思ったら、小さい方が女の子ね」

 森幸乃も続いた。

「じゃあ、より掛けられているのは、海斗くんね」

 女の子は笑い、校長先生もこっそり笑った。

 松本蓮は頭を下げた。

「みんな、ゴメン! 折角作ったのに……」

 遠藤駿は松本蓮を見た。

「ドンマイ、ドンマイ、結果オーライだよ! それより、もう一度、撮ろうぜ」

 皆は再び並び、松本蓮はセルフタイマーを掛けた。今度は慎重に雪だるまの前に座った。

「5・4・3・2・1 カシャ!」

 松本蓮は写真を見返して微笑み、SNSのグループに写真を載せた。皆もスマホを見て微笑んだ。


 森幸乃は感想を言った。

「二枚目も良いけど、一枚目の方が面白いわね」

 佐藤美優も続いた。

「アクシデントとは言え、皆の声が聞こえそうね。敢えて一枚目も送るのが写真家としてセンスを感じるのよねー、ねえ鎌倉さん!」

「うん。蓮のセンスは一流なのよ」

 松本蓮は照れて赤くなった。


 すると長谷川先生がやって来た。

「おーい、またお前達かー! 休校だって言うのに学校が好きだな。斉藤教頭先生から聞いたよ。あっ、この雪だるまは何だ? ココはマズイだろ」


 黒岩校長先生は再び窓を開けた。長谷川先生は校長先生を見て姿勢を正した。

「あっ、校長先生。失礼しました」

「長谷川先生! そのラブラブな雪だるまは、生徒が苦労して作ったプレゼントなんだよ。だから動かさないようにね」

「は、はい。失礼しました!」

 黒岩校長先生は窓を閉めると、生徒達は笑った。


「お前達には、かなわないな! でも安心した。ププ、なんで雪だるまが男女に見えるんだろうね」

 佐藤美優が微笑んで答えた。

「蓮が恋のキューピットをしたんです。蓮が寄りかかったら倒れたんですよ」

 皆は笑った。

「ああ、なるほどね。うまい事を言うね。気を付けて帰るんだよ。あっ、それと校門の雪かきお疲れ様でした」

 長谷川先生は職員室に戻っていった。


 海斗が時計を見て皆に話し掛けた。

「あっ、もう二時になるよ。お腹も空いたし、そろそろ帰ろうか?」

 遠藤駿は続いた。

「俺はさっきからペコペコだよ! お腹と背中がくっつきそうだよ。お昼を食べて帰ろうよ!」


 京野颯太は森幸乃に相談をした。

「ねえ幸乃さん。この後、お昼に行っても良いですか。あのナポリタンが食べたくて、マスターに相談して貰えませんか」

 森幸乃は首を縦に振ると、京野颯太は行く人数を確認した。すると皆も、あのナポリタンが忘れられなかった。森幸乃はマスターに電話をして貰うと、空いた時間でも有りマスターは了解した。海斗グループは六人、京野グループも六人、森幸乃と葵と陽菜が入り十五人の団体の会食となった。


 海斗達は着替える為に二年B組に戻った。葵と陽菜、森雪乃は二年B組に入ると、海斗達の昼食の時間を想像した。朝はバタバタと着替えただけなので、気にしていなかったのだ。葵は海斗に皆の席を尋ねた。

 海斗の席に葵が座り、美咲の席には陽菜が座った。隣り合わせで驚き、二人はホッペを膨らませた。森幸乃も興味深く見ていた。更に京野颯太からグループの席を聞いて、嘆願書の話も納得をしたのだ。


 続けて女子は教室で着替え、男子は廊下で着替えた。

 遠藤駿は言った。

「何か俺達、女子の為に外で待たされる事が多くないか?」

 男子は笑い、田中拓海が答えた。

「だって、このグループ女子が多いんだよ。男子だけなら、こんな事もないのにね。そうだよね海斗?」

「うん、でもこれなら良い方だよ。俺達はグループで良く出かけるから、外で待たされる事が多いんだ。この前だって北村屋の前で四十分も待たされたよな、なあ蓮」

「ああ、ホント待ちくたびれたよ」

 京野颯太は、そんな海斗達を見て高飛車な態度をとった。

「は、は、は、君達、レディーの扱に慣れていないね。女性は待たせる生き物なのだよ。このぐらいは我慢にも入らないよ」

 皆は京野颯太の言葉に感心をした。

「オー!」

 すると鎌倉美月が呼びに来た。

「男子、いいよー」

 男子は教室に戻り、着替えたジャージをロッカーに仕舞まった。


 皆は喫茶「純」に向かった。雪の積もった通学路を押したり滑ったりして歩いた。皆で歩くだけでも参加型のアトラクションのようだった。


 海斗は喫茶「純」のドアを開けた。

「マスター、今日は!」

 皆はゾロゾロと入店して挨拶を交わした。

「やあ、いらっしゃい団体さん。寒かったろう?」

「お父さん、ただいま。すっごい楽しかった!」

「お帰り幸乃、その顔を見れば分かるよ。お腹空いたろ、準備は出来ているよ」


 テーブルには予約マークが置かれていた。森幸乃は手を洗うと水を配膳した。マスターはコンロに火を入れ客席を見回した。内定祝いを思い出してニンマリと微笑んだ。


 松本蓮はスマホを見ながら鎌倉美月に話していた。しばらくすると皆のスマホが鳴なった。松本蓮は雪合戦と雪だるま作りのスナップ写真をSNSのグループに載せたのだ。

 海斗は葵にも送信し写真は皆の話題となった。雪合戦では楽しい感情と悔しい感情が交錯して再び興奮が蘇り熱くなった。対照的に雪だるま作りは、和気あいあいとした共同作業が話題となったのだ。最後に雪だるまが傾き寄り添った時の話題は、皆をほっこりさせた。


 葵は男子が校門の雪かきをした写真を海斗に送ると、海斗はSNSのグループに載せた。男子は数時間前の事なのに懐かしがった。踏み散らかしていない真っ白な新雪の上で寝ころんだ事を思い出した。


 松本蓮は葵を見て感心をした。

「葵ちゃん、写真上手だね。構図もタイミングもバッチリだ!」

 鎌倉美月は微笑んだ。

「皆、楽しそうに寝転んだのね。ホント葵ちゃん上手ね」

 海斗はピンときた。

「葵は絵を描くから、構図の取り方が上手なんだね!」

 葵は褒められて照れくさかった。林莉子は雪かきをしている写真を見つめた。

「最初はこんなに雪があったのね、ねえ七海、颯太もスコップを持って男らしいわね」

「うふ、良い男に写っているわよ。……も、もしかして美優??」

 橋本七海は佐藤美優を見ると、男子が夢中に雪かきをする写真は佐藤美優にはレアものだった。

「うん、良い写真ね。葵ちゃんにもBLが分かるのかしら?!」

 森幸乃は笑った。

「どちらかと言うとブラコンよねー、葵ちゃんはお兄さんが好きなのよねー。好きな人が居るから、良い写真が撮れるのよね!」

女子は同時にうなずいた。

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