第19話 初 雪
気象状況が荒れる中、長谷川先生は帰りのショートホームルームで生徒に連絡をした。
「天気予報によると西高東低の冬型の気圧配置が緩み、今晩南海上を低気圧が通過します。これを南岸低気圧といいます。気象予報士を目指している人は簡単だな、上空の温度がマイナス四度以下だと雪になる見通しだ。明日の朝は学校から緊急メールが六時半に、一斉送信されるかも知れないのでチェックして下さい。臨時休校になった時は、期末テストが近いので各自自宅で勉強をする事。分かりましたね! 大事な事なので二回言います。緊急メールが六時半に一斉送信されるので確認をして下さい」
ショートホームルームが終わると、海斗は目を輝かせ仲間の顔を見た。
「なあ蓮、もし休校になったら学校で雪合戦をしないか?!」
「おう海斗、それ面白いねー!」
小野梨紗がのってきた。
「うん、やろうよ!」
鎌倉美月、林莉子も賛成した。しかし中山美咲は冷静だった。
「ねえ、休校になるぐらいだと交通機関も動かないんじゃないの?」
海斗は答えた。
「それじゃあ、SNSで連絡しようよ。条件が整えば決行しようね!」
京野颯太が席を立った。
「海斗、そう言うのは俺にも声をかけろよ! 敵が居ないとつまらないだろ」
橋本七海も続いた。
「ねえ海斗、私達も誘ってよ」
遠藤駿も続いた。
「ヤッホー明日は雪合戦か-、うん楽しそうだな!」
林莉子は見回した。
「ねえ、服装はどうする?」
鎌倉美月が答えた。
「ジャージで良いでしょ。どうせ、すぐ熱くなるわ」
海斗は思い付いた。
「そうだ、幸乃さんも呼ぼう、それと葵も陽菜ちゃんも。面白くなりそうだ」
皆は今晩の天気を気にして下校した。既に天気が崩れ冷たい雨が降っていたので、喫茶「純」には寄らず帰宅した。海斗は森幸乃にメールで用件を連絡して返信を待つことにした。
帰宅すると、葵が玄関ホールに飛んできた。
「お兄ちゃん、今晩雪が積もると明日は休校だって! 雪だよ、ワクワクするね」
「ああ、そうだね。まずは情報収集からだね」
海斗は話をしながらリビングへ歩いた。
「お母さん、ただいま」
「お帰り、海斗さん」
海斗はソファーに座り、テレビを付けた。
「あーホントだー、どのチャンネルも雪の話だよ。でも上空の温度が一度でも暖かいと雨なんだって。どうなるかな? 大抵、大げさな方へ報道するからね。期待して雨だった天気は幾らでも有るしね。ねえ葵、休校の場合は六時半に、緊急一斉メールが流れるらしいね」
「うん、同じ事を私の先生も言っていたよ」
「実はお兄ちゃん達、明日休校だったら学校へ行く予定なんだ」
葵は首を傾げた。
「ん? 休校なのに通学するの? 変なの!」
海斗は微笑んだ。
「学校で雪合戦をしようと思ってさ! まあ、面倒なら一人で行くけど」
葵は目を輝かした。
「行く、行く、絶対行くー!」
「でもね、条件が有あって降雪して休校になり、交通機関が動いている事が雪合戦の条件なんだ」
「んー、なるほど。上手く条件が揃うといいね」
「うん、そうなんだ」
明子は微笑んで二人の会話を聞いていた。
夜の八時頃から雨から雪に変わった。九時を回った頃に海斗のスマホが鳴った。森幸乃からの電話だった。
「もしもし、海斗君」
「幸乃さん、電話なんて珍しいね」
「雪の夜に電話もロマンティックでしょ。そっちも降っているの?」
海斗はカーテンを開けて外を眺めた。
「同じ横浜市内だもん、こっちも降っているよ。確かにロマンチックだね。雪の夜って交通量も減って静かだよね。たまにチェーンの音がして不思議な感じだよ」
「それで海斗君、メールの件だけど参加するわ。皆も来るんでしょ?」
「うん、いつものメンバーだよ。幸乃さんは、お見通しだね」
「ウフ、幸乃さんはお見通しなのよ。この雪合戦も海斗君が言い出したんでしょ?」
「はい、これも解かっちゃうのですね。後は条件が揃うと良いのですが、朝一にメールします」
「そうね、遊べると良いわね。メール待っているね。……じゃあ、お休みなさい」
「えっ、用件はそれだけですか?」
「それとも、何かをして欲しいの? チュッ!」
「……幸乃さん、からかわないで下さい」
「ウフ、話していると会いたくなるからね。お休みなさい、海斗君」
「もー、すぐからかうんだから。お休みなさい、幸乃さん」
海斗は通話を終えると微笑んだ。
(翌日の朝)
海斗は六時前に目を覚ました。道路から車のチェーンの音が聞こえた。体を起こしカーテンを開けると外は真っ暗だった。見渡すと屋根は白く、地面には雪が十五センチ程積もっていた。これだけ降ると横浜の交通機関は正常ではいられ無くなる。海斗は制服に着替えリビングに降りた。葵も海斗の物音を聞いて目を覚まし、着替えてリビングに下りた。
明子も正太郎も早起きだった。皆で朝の挨拶を交わした。
「おい海斗、制服を着てどうするんだ? 学校は休みだろ。んっ? 葵ちゃんまで」
「う、うん、お父さん、これだけ降ると交通機関はストップかな?」
「お父さんも会社に行かないと行けないからね、ニュースを見ていたんだ。ストップじゃ無くて間引き運転をしているよ。だけど学校は休みだと思うよ」
「うん、有り難う」
海斗もニュースを見て情報収集をした。明子はいつもより早く朝食を揃えた。今朝のメニューは体が温まるように、牛肉を甘辛く炊いた肉うどんだった。皆は食べながらニュースを見ていた。六時三十分に海斗と葵、そして明子のスマホからメールの着信音が鳴った。休校をしらせる緊急一斉メールだった。
「お兄ちゃん、休みだね」
「ああ、交通機関も間引き運転をしているから、今日は雪合戦決行だ!」
「やったー!」
二人は喜び、明子は微笑んだ。正太郎だけが腑に落ちない顔をした。
「ああ、それで学校に行くのか。なあ海斗、なんで俺だけメールが来ないんだ?」
「恐らくお父さんはスマホ変えた時に、メルアドも変わったでしょ。それだよ、変更の手続きしていなかったの?」
「あーそう言う事か、お父さんだけ鳴らなくて寂しかったよ」
「ププ、正太郎さんたら、今度私が変更の申請をしておきますよ」
「悪いね、明子さん」
海斗は諸事情を表記してSNSのグループに連絡を入れた。交通事情を考え、学校に十時に集合する事にした。すると仲間は次々に既読してスタンプを押した。