第16話 喫茶「純」でもバレンタイン
お弁当を広げると、中山美咲は鞄から小さな手提げ袋を出した。
「一番遅くなっちゃったけど……海斗、私のチョコートを受け取ってくれる?」
海斗は微笑んで両手で受け取った。
「うん、有り難う」
中山美咲は、はにかんだ。皆も仲直りを実感して微笑んだ。中山美咲も皆の分を作ってあった。一人一人にチョコレートを配ったのだ。
鎌倉美月は中山美咲に話しかけた。
「美咲、陽菜ちゃんの合格発表は明日だよね?」
皆は中山美咲に注目をした。
「ええ、そうなの、心配しちゃうわ。明日の十時に発表なのよ。陽菜はネットで発表を確認するそうよ」
林莉子は気遣った。
「大丈夫よ、皆で合格祈願に行ったのだから、絶対合格するわ!」
海斗も続いた。
「そうだね、きっと上手くいくよ!」
皆は昼食時間に鎌倉に行った事を話題にして過ごした。放課後になり海斗達は、写真部に顔を出してから喫茶「純」に向かった。
(喫茶純にて)
「マスター、こんにちは」
「いらっしゃい、海斗君、蓮君、美月さん、好きな席に座ってね」
海斗達を呼ぶ声が聞こえた。フェリサ女学院の稲垣京香と櫻井メイだった。その隣には京野颯太も座っていた。
海斗は話しかけた。
「ご機嫌よう、稲垣さん、櫻井さん、久しぶりだね。颯太はまた福富町のクラブか!」
マスターはボソっと笑い、京野颯太は口を尖らした。
「海斗、失礼な事を言うなよ。今日はホッペを触っていないからな!」
桜井メイは首をかしげた。
「ねえ京野君、伏見君の事を海斗って呼ぶようになったの?」
京野颯太はニヤ付いた。
「ああ、先月から変えたんだ。グループの垣根を徐々に取ろうと思ってね、まずは名前から変えたんだよ」
鎌倉美月は出しゃばった。
「それ、海斗が言ったのよ! もう、主語を付けてよ!」
京野颯太は舌を出してとぼけた。
稲垣京香は関心をした。
「伏見君は、アイデアを出すって言っていたよね。クリスマスパーティーで言った通りね」
二人は席を立ち、海斗と松本蓮にチョコレートを渡した。
稲垣京香は鎌倉美月に気遣った。
「鎌倉さん、松本君には義理チョコですので安心してください」
櫻井メイも続いた。
「私も義理チョコです。でも伏見君には本命チョコです!」
桜井メイは海斗を見つめると、海斗は左手で顔を覆った。
「櫻井さん、僕は未だ特定の人を決められないんだ。それでも貰っていいのかな」
「はい、それでも受け取って下さい」
海斗も松本蓮もお礼を言って受け取とり、隣のテーブルに着いた。
櫻井メイは続けた。
「あーあ、共学は良いな! ウチの学校じゃ女子から女子に渡すのよ。手作りをしたくてもあげる人が居ないと、作る機会さえ無いのよ」
鎌倉美月は答えた。
「そうよね、手作りチョコレートを作るのも楽しいイベントよね」
鎌倉美月はカウンターに歩み寄り、マスターにチョコレートを手渡した。
「マスター、いつものお礼です」
マスターは驚いてから、微笑んだ。
「美月さんに貰えるなんて嬉しいねー、有難う」
稲垣京香も桜井メイも続いてマスターに手渡した。マスターは再び微笑んでお礼を言った。
松本蓮は京野颯太に話しかけた。
「幸乃さんが研修会に行っているだろ、てっきり颯太は会社に居るものと思っていたよ」
「だから言ったろ、僕は教育係では無いんだよ。総務の人間がレクチャーしている所に俺が居たら、組織としておかしいんだよ」
海斗は見抜いた。
「だとしても、今日ココに居なくても良いじゃん! 幸乃さんを待って居るんだろ?」
図星だった。京野颯太は胡麻化した。
「マスターの入れた、美味しいコーヒーが飲みたくなっただけだよ! あっそうだ、稲垣さん、櫻井さん、今朝の海斗は大変だったんだよ」
稲垣京香と桜井メイは前のめりになり、海斗達は肩を落とした。
「海斗がいっぱいチョコレートを貰うから、美咲が嫉妬して怒ったんだ」
マスターは話を聞いて驚き、気の毒に思った。桜井メイは海斗に話しかけた。
「海斗さんはモテるのね、それで中山さんからは貰ったのですか?」
「も-、颯太は余計な事を言うなよ! ちゃんと仲直りしたよ。それで貰いました」
「中山さんの気持ち分かるなー、でもそれで怒るなんてププッ! 気が強いのね」
桜井メイが笑うと稲垣京香も笑った。
マスターは独り言を言った。
「海斗君は、大変だったねー」
すると森幸乃が帰って来た。
「あー疲れたーお父さん、ただいまー」
「お帰り幸乃、お友達が来ているよ」
「キャー、みんな来てくれたのね-!」
森幸乃はリクルートスーツを着ていた。皆は大人びた姿に目を惹かれた。
京野颯太の目は、釘付けになった。
「幸乃さん、スーツ姿もステキです」
海斗も続いた。
「見違えるね、大人っぽくなるんだね。てっきり学生服で行ったのかと思った」
「ウフ、そうねOLみたいでしょ。就職しても配属が決まるまでスーツなんだって、だからお父さんに買って貰ったのよ。あっそうだ! プレゼントが有るの。ちょっと待ってね」