第15話 ぐうの音
鎌倉美月は様子がおかしいと思い、二人の間に入った。
「昨年は、私からの義理チョコだけだったのにねー、ねえ美咲、海斗もどうして良いか分からないんだよ、許してあげて」
林莉子も続いた。
「そうよ、今日一日だけなんだから。海斗はそのチョコレートを本気にしちゃダメよ」
中山美咲は強い口調で言った。
「だって海斗はね、今朝、梨沙から貰う前に下駄箱で一年の女子から直接チョコを貰ったのよ。私が横に居たのに貰ったんだから! 」
周りの女の子は肩を落とした。海斗にも言い分けが有った。
「えー、だから美咲に聞いたのに! 一年生が勇気を出して渡しているのだから、好きにしたらって言ったじゃん!」
鎌倉美月は海斗を見た。
「だから昨日、注意しろって言ったじゃん! 海斗が悪いよ」
林莉子も続いた。
「海斗さあ、机の様に防ぐ事が出来ないのはしょうが無いけど、防ぐ事が出来るのに受け入れた海斗が悪いよ」
小野梨沙も口を尖らせた。
「海斗が悪い!」
松本蓮は海斗の見方だった。
「だったらさあ、好きにしたらなんて、言わなければ言いじゃん!」
鎌倉美月は松本蓮に言い聞かせた。
「年下の女の子が一生懸命なのよ、ましてや美咲は妹がいるのよ。なんで分からないのかしら」
松本蓮も海斗も困り、会話が止まった。チャイムが鳴り二時間目の授業となった。
険悪なまま、四時間目になり体育の授業になった。男子は校庭で野球を行い、女子は体育館でバレーボールを行った。
海斗は松本蓮に相談をした。
「なあ蓮、さっきのは俺が悪いのかな?」
「好きにしたらいいって、言ったんだろ、美咲は難しい人だね。美月と違って分かりにくいんだよ!」
「そりゃあ、幼馴染に比べれば、誰でも分かりにくくなると思うよ。こんなに貰う年は初めてなのに、つまらない一日になりそうだよ」
「なあ、美咲ってさ、焼き餅を焼き過ぎじゃない? 前に屋上へ呼び出された事が有ったじゃん、変わってないよね。イヤ、下駄箱のラブレターを破ったりして、どんどんエスカレートしていないか?!」
「蓮、それを言ったら美月も美優に焼き餅焼いたし、下駄箱のラブレターを破っていたろ?」
二人は顔を見合わせた。
「なあ海斗、女って怖いな」
「ホントだね。やっぱり謝っておこうかな」
「それが良いかもね」
二人は笑った。
一方、体育館の女子も同じ話題をしていた。中山美咲は話しかけた。
「ねえ美月、さっきのは私が悪いのかしら?」
「そうねー、美咲の気持ちは分かるわ。年下の子が一生懸命に渡そうとしていたんでしょ、見逃せないものね。だからと言って目の前で受け取られてもねー」
林莉子は中山美咲の見方だった。
「いいのよ、海斗は浮気性だから、たまには怒らないと」
小野梨紗も続いた。
「私も目の前でやられたらヤダなー」
朝からのくだりを見ていた橋本七海が中山美咲の会話に加わった。
「あら、そんな事で責めるなんて、海斗が可哀想よ。あなた達は学園の人気者を拘束しているって有名なのよ!」
皆は驚いた。
「えー!」
海斗グループの女子は寝耳に水だったのだ。小野梨沙は言い返した。
「拘束って、そんな事はしていないよ!」
「海斗と蓮のラブレターを教室で堂々と破いたでしょ、アレが悪かったのよ。颯太も駿も本気で怖がっていたしクラスメイトはどん引きしていたもの。手紙を出した女の子達に伝わって、更に大げさな噂になっているのよ。脅かしているとか、弱みを握られているとか、海斗だって自由に恋をしたいと思うわ。言い換えれば海斗の恋を邪魔しているように見えるもの」
中山美咲は佐藤美優に聞いた。
「ねえ美優、噂ってホントなの?」
「ホントだよ! なんだ、知っているものだと思っていたよ! 下駄箱に南京錠まで付けさせてチョコまで奪ったら、ププッ! 今度は意地悪されたりして。それ以前に海斗が窮屈で、グループを解散したりしてね?! ねえ七海、その時はウチのグループに入れてあげましょうよ。楽しくなるわね!」
橋本七海と鈴木萌も加わり、笑顔で返事をした。
「そうしましょ!」
海斗グループの女子は、ぐうの音も出なかった。中山美咲は理解した。
「七海、美優、話を聞かせてくれて有難う。私、反省するわ」
海斗グループの女子は初めて、客観的な意見を聞いて反省をしたのだった。
四時間目が終わり昼食の時間となった。机を並べると中山美咲は切り出した。
「海斗、さっきはごめんね。ホントはね、私が一番始めに渡したかったの。なのに下駄箱に一年生が居て、教室に着いたら次々に貰ってチャイムが鳴ってしまい、ホームルームがはじまれば机の中にまで有って。私、意地を張ったのよ、ゴメンなさい」
海斗は中山美咲を優しく見つめた。
「美咲、そこまで考えてくれたんだね。なのに無神経でゴメンね」
梨沙も美月も海斗に謝った。林莉子も続いた。
「海斗ゴメンね。だからこのグループを解散しないでー!」
海斗と松本蓮は顔を見合わせて首を傾げた。松本蓮は鎌倉美月を見た。
「なあ美月、体育の時間で何かあったのか?」
「……うん、ちょっとね」
海斗は皆に話しかけた。
「こんなに楽しい仲間と離れる訳ないでしょ、だから解散なんかしないよ。じゃあ、これで仲直りだね。さあ、昼食にしようよ!」
近くに居るからイヤでも耳に入ってくる。京野グループは成り行きを視聴した。
橋本七海は思った。海斗は何で怒らないのかしら、ホントに優しい人なのね。