第14話 焼き餅
海斗は登校し校門で葵と別れると、後ろから中山美咲が走ってきた。
「おはよう海斗!」
「おはよう美咲、今日は漢字テストが有るんだよね。覚えてきた?」
「ええ、覚えてきたわ」
中山美咲は昨日作ったチョコレートを、誰よりも早く渡したかった。教室で渡すと特別感が無くなると思い、下駄箱の前です渡そうとしていたのだ。昇降口に入り中山美咲はカバンのチャックを開けると、知らない女の子が海斗に歩み寄った。下駄箱に入れられなかったので実力行使で待ち構えていたのだ。上履きの色から見て一年生の女の子だった。
「伏見先輩、私のチョコレート貰ってくれませんか」
彼女は必死で両手を伸ばした。海斗は対面で渡されるとは思ってもいなく驚いた。許可を貰うために、中山美咲の顔を見た。
「もー、何で私を見るの! 一年生が勇気を出して渡しているのだから好きにしたら。私、先に行くね」
中山美咲は心にも無い事を言ってしまった。鞄のチャックを戻し、上履きに履き替えて一人で教室に向かったのだ。
海斗は女の子に話しかけた。
「俺は彼氏にはなれないけど、いいのかな」
「はい、それでも良いんです。昨日、一生懸命に作っりました。受け取って下さい」
海斗は受け取ると、女の子は嬉しそうにその場を離れた。
教室に入り席に着くと小野梨沙が海斗に笑いかけた。
「ねえ海斗! チョコレート作って来たんだ! ねえ、欲しい?」
小野梨沙は小さな手提げ袋を目の前に出した。海斗は両手で受け取って覗いた。
「梨紗、有り難う。手作りなんだー」
小野梨沙は微笑み見渡した。
「皆の分も有るんだよ」
梨沙は小さくラッピングされたチョコレートを海斗グループに配った。
林莉子は感心をした。
「梨沙は豆ねー、すっかりキッチンに立つ事が好きになったみたいね。ププッ! でもあれよね。海斗と差が付いたわね」
皆はにやりと笑った。鎌倉美月も鞄からチョコレートを取り出し松本蓮に渡した。
「蓮、これ受け取ってね。それとコレは海斗の分」
松本蓮は特別なチョコレートを貰い嬉しかった。
「有り難う美月、今年は大きいね。ごめんな海斗、差が付いちゃって」
「いや、いいんだ。美月、今年も有り難う」
中山美咲は鞄のチャックを開けた。すると橋本七海と佐藤美優が海斗と松本蓮にチョコレートを持って歩み寄った。橋本七海は海斗に大きめの箱と松本蓮には小さめの箱を渡した。
「海斗、これからも宜しくね。蓮は彼女持ちだから、義理チョコね」
佐藤美優はラッピングされたチョコレートを二人に渡した。
「ウチのグループの男子に渡そうと思って作った義理チョコよ。最近は一緒に遊ぶ事が多いから、二人にも用意したの」
海斗も松本蓮も照れくさそうに受け取りお礼を言った。
二人は戻り京野グループの男子にチョコレートを渡した。すると林莉子はこのタイミングを見逃さなかった。このタイミングなら気軽に受け取ってもらえると思ったからだ。
林莉子は席を立ち、京野颯太に歩み寄った。
「颯太、私もチョコレートを持ってきたの。受け取って下さい」
京野颯太は爽やかに答えた。
「莉子、有り難う。お返しは美味しいお菓子をプレゼントするよ!」
林莉子は真っ赤になった。嬉しくてしかたがなかったのだ。
チャイムがなり長谷川先生が教室には入ってきた。ショートホームルームが始まり、林莉子は席に着いた。中山美咲は、また鞄のチャックを締めた。
「皆、おはよう! ついこの間、始業式をしたのに早いもので、もうバレンタインだ。男子も女子もドキドキしている人がいるだろうが、もっともバレンタインがきっかけで、付き合い始める男女は極めて少ないらしいからね! 夢をつぶすようで悪いが所詮、お菓子屋さんの陰謀にすぎないからな! ハ、ハ、ハ、ハ、……失礼!」
長谷川先生にはバレンタインに良い思い出が無かったのだ。海斗はノートを鞄から取り出し、机にしまおうとすると何やら箱が入っていてノートの進入を邪魔したのだ。海斗はピンと来た。隣の中山美咲に気が付づかれ無いように、その箱を鞄にしまおうとしたら手が滑った。一つの箱だと思ったら二つ目の箱のリボンも一緒に引っぱったのだ。
教室に箱が落ちる音が響いた。長谷川先生はリボンの付いた箱に目が留まり、海斗は慌てて鞄に突っ込んだ。
「おっ伏見、青春しているねー。授業業中だぞ、程々にしておけ!」
生徒たちは笑い、隣の中山美咲はフグの様にホッペを膨らました。
ショートホームルームが終わると、小野梨沙は海斗に振り向いた。
「もー、何やっているのよ!」
「鞄からノートをしまおうと思ったら箱が有ったんだ。手探りで持ったから落ちたんだよ」
「そんな事を言っているんじゃ無いの! 受け取らないでよ。ねえ美咲?」
「フン! 手紙の様に破くわけにもいかないし、食べ物だから捨てる訳にもいかないしね。海斗の好きにすればいいのよ!」
中山美咲はチョコレートを渡して気持ちを伝えるハズが、またまた自分の一言で、険悪なムードを作ってしまった。