第12話 由比ヶ浜
海斗達は鎌倉駅に戻り、江ノ電に乗車した。葵と陽菜は初めての江ノ電の車窓を楽しんだ。
「陽菜ちゃん、私、チンチン電車に乗るの初めてだよ」
「私も始めて、小さくて可愛いね。凄い狭い所を走るんだね」
あっという間に長谷駅に到着した。皆は由比ヶ浜に向けて歩いた。湘南の海に向かうと、それぞれの思い出が浮かんだ。
海斗は中山美咲と二人で行った江ノ島デートを思いだ。あの時の美咲は可愛かったな。あの時見た夕日も綺麗だったな。
中山美咲も考えていた、今日も海斗は頼もしいな。私の知らない事をいっぱい教えてくれる。妹の合格祈願が目的だったけれど、とても楽しかった。江ノ電をもう少し乗れば、思い出の江ノ島ね。お正月休みも楽しかったなー。
松本蓮と鎌倉美月もファーストキッスの事を思い帰していた。まさに、これから向かう砂浜で体験をしたのだから。甘酸っぱい思い出を頭に浮かべていた。
国道一三四号線が見えた。この道路を渡ると由比ヶ浜だ。横断歩道の前で立ち止まり焦る気持ちを抑えて信号を待った。車が止まり歩行者の信号が青になると皆は顔を見合わせ走り出した。
小野梨沙は海斗の手を引っ張った。
「海斗、行くよー、わー!」
「わっ、梨紗、分かっていたけど、急は止めてよー!」
中山美咲と林莉子も松本蓮と鎌倉美月も、続けて歓声を上げなら砂浜に駆け降りた。
葵も陽菜の手を引っぱった。
「春菜ちゃん、走るよ! キャー」
「わー、わー、待って、待ってー!」
波打ち際まで来て足を止めた。皆は微笑み、海を見てたたずんだ。しばらくすると小野梨紗は、海斗を波に向かって押し込んだ。慌てて海斗は避けると、海斗も攻撃に出た。皆も押したり、逃げたり走り回ってじゃれ会った。
走り疲れると砂浜に腰を落とし、再び海を眺めた。少し休むと葵と陽菜は貝拾いを始めた。続くように他の女子も貝拾いを始めた。
松本蓮は写真を撮りながら海斗に話しかけた。
「来て良かったな海斗、陽菜ちゃんも笑顔になったし俺たちも楽しいよ」
「蓮、有難う。これで陽菜ちゃんもリラックス出来て受験に臨めると思うよ」
「そう言えば、蓮達はお昼に何を食べたの?」
「それがさあ、小町通りで海鮮丼を食べようと思っていたら、梨紗がクレープを食べたいって言うんだ。それで俺もクレープに付き合わされちゃったんだよ」
「ププッ! 実は俺も、陽菜ちゃんがクレープを食べたいって言うからクレープだったんだ」
二人は笑った。松本蓮は続けた。
「何だ、分かれて行動しているのに、同じものを食べたのか?! まったく面白いな」
「ハ、ハ! ホント面白いね」
すると女子は集まり貝殻を見せ合った。貝殻自慢が始まったのだ。海斗と蓮も歩み寄った。
海斗は話しかけた。
「皆、良く集めたね。綺麗な貝殻がいっぱいだね」
すると陽菜が手のひらにのせた貝殻を握りしめ顔を上げた。
「今日は、皆さん有難う御座いました。お陰で久し振りに笑いました。今日は、ふ、伏見さんに鎌倉を沢山案内してもらい、頼朝も身近に感じられるようになりました。もっと早く連れて来て貰えば良かったと思いました。皆さんのお陰で肩の力を抜いて受験に臨めそうです。お姉ちゃん、皆さん、有難う御座いました」
陽菜の立派なお礼を聞いて、皆は笑顔になり拍手をした。一番心配していた中山美咲は眼頭が熱くなった。林莉子は中山美咲の肩を抱いた。
「美咲、想いが届いて良かったね、きっと上手くいくよ」
松本蓮はカメラを持った。
「ねえ、皆で記念写真を撮ろうぜ!」
海をバックにとびきりの笑顔で記念写真を撮った。松本蓮はグループのSNSに上げだ。陽菜は中山美咲から、海斗も葵に転送をして記念写真を送った。皆は楽しい思い出を胸にしまった。
帰りは、由比ヶ浜駅から江ノ電に乗り鎌倉駅に着いた。横浜駅に向かう横須賀線は、すっかりお昼寝タイムとなった。
陽菜は受験日に息が詰まると、由比ヶ浜の写真を見て気分を落ち着かせた。受験当日も、お陰で実力を発揮し試験に臨むことが出来た。皆は二週間後の合格発表を心待ちにした。