第11話 銭洗弁財天
海斗達は鶴岡八幡宮の参拝を終え、小町通りに向かった。お昼の時間と重なり小町通りは多くの人が目白押しだった。この商店街は色々な小物が並ぶ商店と食べ歩きの出来るお店から高級飲食店も沢山立ち並んでいた。
海斗は陽菜のリクエストを聞きクレープ店に並んだ。女子三人は美味しそうに口に含んだ。お昼にするには物足りなかった海斗は、唐揚げを買い皆と食べあった。
「さあ、そろそろ出発をしようよ! 今度は金運アップのパワースポットに行くよ!」
彼女たちは喜んだ、既に遠足気分なのだ。陽菜も久しぶりの息抜きが出来て楽しかった。
海斗は銭洗弁財天に向かった。駅からは暫く平坦な道が続いたが、間近になると急勾配の坂道となった。皆の呼吸は荒くなり歩くテンポが遅くなった。
海斗は再び質問をした。
「ねえ葵ちゃん、ここは誰が作ったか分かるかなー?」
「もー、どうせ頼朝でしょ! どこでも頼朝が絡んでいそうだもん!」
「ププッ! 正解」中山美咲は微笑んだ。
「ホント、鎌倉は何でも頼朝が関係しているのね」
皆も笑った。
海斗は説明を始めた。
「ここはね、源頼朝の夢に現れた所なんだ。夢の中で神様が、あの場所に湧く霊水で神仏を供養すると世の中が平和になると、お告げをしたんだ。それで神社を建てて、その神様・宇賀福神を祀ると、戦の無い平和な世の中になったんだって。その後、この霊水でお金を洗い一族の繁栄を祈願したのが、銭荒いの始まりなんだって」
中山美咲は疑問に思った。
「ねえ海斗、銭洗い弁天の弁天様はどこから登場するの?」
「恐らく、平和な世の中が続くと金運に繋がる話題が強くなり弁天様も祀られ、今の銭洗い弁天の形になったんだと思うよ。どちらも金運の神様で中には二つの神様が祀られているんだ」
「お兄ちゃん! 入り口が有ったよ。ホントだ! 銭洗弁財天・宇賀福神社って書いて有る」
ここは狭い手彫りのトンネルから入るのだ。大きさは幅が一.八メートル、高さも一.八メートル長さは二十メール程度である。このトンネルを抜けると手水舎があるのだ。
陽菜も葵もワクワクしならが、薄暗いトンネルを通過した。トンネルを出ると手水舎が有った。お清めをして幾つかの鳥居をくぐり中央の広場に到着をした。正面の休憩所には、仲間達が甘酒を飲んで待っていた。
松本蓮は海斗に声を掛けた。
「おーい海斗! ココだよー!」
「皆、お待たせー!」
小野梨紗は腰に手を当ててた。
「海斗遅い!」
「や~、ゴメン、ごめん。梨紗、今日の服、とても可愛いね」
海斗は小野梨紗の扱いに慣れていた。小野梨紗は照れて機嫌を直した。陽菜は姉の友達が揃っている事に気付いた。
海斗は陽菜に優しく話しかけた。
「春菜ちゃん、驚かせてゴメンね。今日は皆で合格祈願に来たんだよ。いきなり皆が揃うと葵ちゃんが緊張すると思ってね。驚かせてゴメンね」
陽菜は困った顔をして、中山美咲の後ろに隠れた。松本蓮は合格祈願のお守りを手渡した。
「春菜ちゃん、このお守りは俺達からのプレゼントだよ。受験頑張ってね」
「有難う御座います」
陽菜はお礼を言って、大事にお守りを鞄にしまった。鎌倉美月は皆に声を掛けた。
「さあ、みんな揃ったし、合格祈願と金運アップのお参りをしましょう!」
社務所でザルとロウソク、お線香の三点セットを買い求めた。
小野梨紗は海斗に話し掛けた。
「ねえ。生卵は何に使うの?」
「そうそう、みんな持って来た?」
皆は顔を立てに振った。
「ここに祀られている宇賀神様は、蛇の体を持つ神様なんだ。だから蛇の好物の卵をお供えするんだよ」
「へー、変わった神様なのね」
皆は参拝の列に並び卵を納めて、お参りをした。次にロウソクとお線香に火を付け納めたのだ。いよいよ金運アップの銭洗いとなった。海斗達は霊水の湧き出る洞窟で、ザルに小銭を並べ、ひしゃくで霊水をくみ上げ小銭に流しかけた。皆は一連のお参りを行い広場に戻ってきた。
陽菜は葵に話しかけた。
「葵ちゃん、初めての体験で楽しかったよ。今日は誘ってくれて有り難う」
「うん、こちらこそ。私も始めてで楽しかったよ。でもね、お礼を言うなら、お姉さんにして上げてね。お姉さんが相談をして、お兄ちゃん達が計画したのよ」
「うん、たぶん、そうだと思った……」
陽菜は恥ずかしくて、素直にお礼を言えず下を向いた。
小野梨紗は洞窟の中でお金を洗う不思議な体験をして楽しかった。
「ねえ海斗、面白かったよ。折角洗ったから、このお金を大事に取っておこうかな」
松本蓮と鎌倉美月は口を開けた。海斗は梨紗に説明をした。
「ダ、ダメなんだよ。洗ったお金は使い切らないと御利益が無いんだ。使い切ると何倍にもなって、返ってくるらしいよ。だから使い切ってね」
鎌倉美月が続いた。
「つまりね、お金を使うと経済が回って、自分に返って来るのよ」
「へー、そうなんだ」
この後、境内に有る幾つかの祠にお参りをして、再び広場に戻ってきた。
小野梨紗は海斗に質問をした。
「ねえ海斗、日本の観光地には神社が多いよね。箱根も夏祭りも鎌倉も行く所にも必ず有るよね。日本人は信仰が薄いって聞いていたけど、こんなに有れば嘘よね」
皆は小野梨紗の発言を聞いて顔を合わせた。キリスト教を信仰する彼女らしい質問だった。
海斗には悩ましい質問だった。
「んー、どう答えたら良いんだ美月?」
鎌倉美月は腕を組み考えた。
「確かにそうよね、観光地には神社仏閣が有って、御利益を求めてお参りをするのよね。でもね信徒として回っている人は少ないと思うわ。この曖昧さが信仰が浅い理由なよね」
海斗も考え続いた。
「梨紗、難しい話は分からないけど、観光客の多い神社仏閣には歴史が有って、そこならではの御利益も有るんだ。そこでお参りをすると達成感が感じて、旅の目的になっているんだよ。ここが宗教観とは違うのかな」
「ん~、確かに行楽目的だったり、御利益を目的にしているよね。信仰とは違うかもね」
海斗は皆の顔を見回した。
「じゃあ、今日の最終目的地、由比ヶ浜に行こう!」
皆は声を合わせた。
「おー!」