3 最後の切り札
翌日の放課後、俺達は早速遠川さんに張高に来てもらった。
鹿島さんの言うとおり、メイクをバッチリ決め、
服装も女性らしく上品なワンピース姿で。
そんな遠川さんに校長室の前で待ってもらい、
俺は一足先に校長室に足を踏み入れた。
「失礼します」
すると校長は露骨に不機嫌そうな顔になって言った。
「また君かね。もう昨日で話は済んだはずだ。さっさと出て行きたまえ」
相変わらず腹の立つオッサンやで。
しかしこみ上げる怒りをグッと抑え、俺は下手な愛想笑いを浮かべながら言った。
「まあそう言わないでください。実は今日、ウチの監督候補の人を連れて来たんですよ」
「そんな事をしても無駄だ。私の考えは変わらん」
「とりあえず直接会って、話だけでも聞いてもらえませんか?」
「ダメだ!我が校は十分人が足りている!新しく人を雇うつもりはない!」
「このっ!」
断固として譲らない校長にいい加減頭に来た俺は声を荒げた。
「だから話だけでも聞いてくれって言ってんでしょうが!
そしたら気が変わるかもしれないでしょ!」
「絶対に変わらん!例えどんな人間だろうと変わらん!」
「ぐぬぬぬ・・・・・・」
このクソ校長・・・・・・。
もし俺の右手にハリセンが握られていたら、
迷わずこのオッサンの頭をシバいてるところや!
と、心の中で怒りを爆発させていると、
「おい、正野」
と、遠川さんが扉を開けて顔をのぞかせ、俺に言った。
「もういいよ、この学校で監督として採用してもらうのは無理そうだ」
「そんな、ここまで来てあきらめるなんて!」
俺は遠川さんの方に振り返って言った。
と、その時やった。
「ややっ⁉やややっ⁉」
と校長がやにわに立ち上がり、俺の右腕をガシッと掴んで言った。
「おい君、そ、そちらの美しい女性は一体誰なのかね⁉」
「え?あの人が今言った監督候補の人ですけど?」
「な、何だとぉっ⁉」
俺の言葉に校長はすこぶるぶったまげた様子でそう言い、
足早に遠川さんの元へ歩み寄った。
そして遠川さんの目の前に立つと、若干震える声で問いかけた。
「あ、あなたが、我が校の野球部の監督になりたいという方ですか?」
「は、はい、そうです」
遠川さんが遠慮がちに頷くと、校長は声を大にして言った。
「何という事だ!まさかこんな可憐で美しい女性だったとは!
私はてっきりもっと体育会系のむさくるしい男が来るのかと思っていましたよ!」
「い、いえ、美しいだなんてとんでもない・・・・・・」
「お名前は、何とおっしゃるんですか?」
「遠川沙夜といいます」
「素敵な名前だ!まさにあなたにピッタリの名前だ!」
「はあ、ありがとうございます」
「ところであなたは、高校の教員免許をお持ちですかな?」
「え?あ、はい。体育の教員免許を持っています」
「よし!それじゃあ採用!」
「ええええっ⁉」
校長の言葉にびっくらこいた俺は思わず声を上げ、校長に食ってかかった。
「ちょっとちょっと⁉さっきとまるっきり話が違うやないですか!」
「私は、彼女の野球に対する情熱に感動したのだ!」
「今はそんな情熱見せてなかったでしょ⁉
むしろあんたが無理やり採用にこぎつけたんやないか!」
「ええいうるさい!
とにかく私は彼女を我が校の教師として採用すると決めたのだ!
君にとってもその方が都合がいいんじゃないのかね?」
「う、まあ、そうですけど・・・・・・」
「そういう訳なので遠川さん。いや、遠川先生、これからよろしくお願いしますよ?」
校長はそう言うと、遠川さんの両手をギュッと握ってイヤラシイ笑みを浮かべた。
「あ、ど、どうも、こちらこそよろしくお願いします」
困惑した様子ながらも、遠川さんはそう言って笑みを浮かべた。
このオッサン、単なるスケベ心で採用を決めたな。
鹿島さんが言うてた事がようわかったわ。
このオッサンはかなりの女ったらしなんや。
こんなスケベオヤジに採用されて、遠川さんは大丈夫なんやろうか?
まあとりあえず、遠川さんがウチの監督になった事はええ事やけども。
なにはともあれ、これで張高野球部の監督が決まった。
あとは甲子園目指して突っ走るだけや!
あ、でも、マネージャーの問題もまだ残ってたな・・・・・・。
まあそれは、今度の機会にしよう。
これから張高野球部はますます盛り上がるで!
「グヘヘヘ、お願いしますよ遠川先生♡」
「あの、そろそろ手を離してもらえませんか?」
まだやっとったんかいこのオッサン⁉
ハリガネベイスボウラーズスリイ! 完




