1 ダメ
「フン、そんなもの、ダメに決まっているだろうが」
植葉組に劇的なサヨナラ勝ちをした翌日、
俺と下積先生は張金高校の校長室へ出向き、
遠川さんをウチの部の正式な監督として採用してもらえないかとお願いしに行った。
で、間髪入れずに校長から返って来た言葉がさっきのアレやった。
まあ、そういわれる事は九割方予想していた。
この学校の校長は前々から野球部を潰し、
その予算を他の有望な部に回そうと考えている。
おまけにこの前の一件(第二巻参照)の事もあり、
校長はますます野球部に敵対心を抱いているみたいやった。
そんな校長にこんなお願いをしても断られるのはわかりきっていた。
そやけどこの学校で採用してもらわんと、
遠川さんがウチの部の監督になる事がでけへん。
だからある意味、ウチの校長は植葉の息子より難関なのやった。
しかしだからというてここで引き下がる訳にもいかんので、
俺は強い口調で言い返す。
「そんな事言わずに、何とかしてもらえないでしょうか。
その人が監督になってくれたら、ウチの部はもっと強くなるんです!」
それに対して校長は素っ気ない口調でこう返す。
「どんな監督が来ようと同じだ。君らの様な弱小チームが強くなれるはずがない」
「ぐぬぬ・・・・・・」
相変わらず腹が立つオッサンやで。
ちょっとうっすらきているその頭を、
ハリセンでどついたろうかと本気で思っていると、
傍らの下積先生が身を乗り出して校長に訴える。
「そんな事はありません!
野球部の皆はとても一生懸命頑張っているし、
最近はその人の指導のおかげで、チームとしても格段にレベルアップしたんです!」
「だからといって我が校に新しく人を雇う余裕はない。
そもそも野球部の顧問は君だろう?
君がしっかり野球部の指導をすれば、
新しく監督を雇う必要はないんじゃないのかね?」
「そ、それはそうなんですが、私は野球に関しては素人でして、
彼らに満足な指導をしてあげる事ができません。
だからちゃんとした野球の指導ができる人を、新しく採用していただきたいんです!」
「ズブの素人でも構わんじゃないか。どうせ潰れる部活だ」
「このっ!」
校長のその言葉に、俺はブチ切れて殴りかかろうとした。
するとそれを慌てて下積先生が止めた。
「やめるんだ正野君!ここは一旦出直そう!」
下積先生にそう言われた俺は、振り上げた拳をグッとこらえて下ろし、
踵を返して校長室を出た。
そして下積先生も、
「どうも、失礼しました」
と校長に頭を下げ、俺の後に続いて校長室を出た。
「くそっ!好き放題言いおってからに!」
下積先生が校長室の扉を閉めた所で、俺は声を張り上げた。
「落ち着くんだ正野君。こうなる事はある程度予想していたじゃないか」
下積先生は冷静な口調で言ったが、
怒りが治まらない俺は、激しい口調でこう続けた。
「それにしたってあんな言い方ないやないですか!
完全に俺らの事をコケにしてるんですよ⁉」
「その悔しい気持ちは僕も同じだ。このまま引き下がりたくはない。
だから今日の放課後、改めて考えよう。
どうすれば遠川さんを、監督として採用してもらえるか」
「まあ、そうですね」
下積先生にそう言われ、俺は渋々納得した。
確かにこのままじゃあラチがあかん。
あのヘンクツ校長に首を縦に振らすには、何か作戦が必要や。
でもそんなええ作戦があるんやろうか?
 




