６ トドメの一撃
「なっ⁉」
その打球は植葉の頭上を越え、一直線にのびていく！
これは大きな打球や！
センターがその打球を追いかける！
が、すぐにあきらめた。
遠川監督が打った打球はそのセンターのはるか頭上を越え、
市営グラウンドのフェンスの上段に直撃した！
これを見て三塁ランナーの山下先輩がホームイン！
この瞬間、俺達張高野球部のサヨナラ勝ちが決まった！
そして遠川監督が、ウチの正式な監督になる事も！
「ぃよっしゃあああああっ！」
一斉に声を上げ、俺達は一塁ベースに到達した遠川監督の元に集まった。
「凄かったっす監督！」
「俺、感動しました！」
「遠川監督最高！」
口々に喜びの声を上げる先輩達。
それに対して遠川監督は、爽やかな笑みを浮かべて言った。
「いや、私があのヒットを打てたのは、これまでの皆の頑張りのおかげだ。
みんな、本当にありがとう」
すると、一緒に集まっていた下積先生が涙ながらに言った。
「みんな、本当によく頑張った。
これで遠川さんは正式にウチの監督になってくれる！」
まあある意味この人が一番これを望んでいた訳やから、
その喜びもひとしおやろうな。
と、シミジミ思っていたその時、
「ふざけんなコラァッ！」
と植葉がマウンド上でどなり声を上げ、グローブを地面に叩きつけた。
そして遠川監督を睨みつけてこう言った。
「こんなモン納得できるか！
野球の勝ち負けで縁談の話が白紙になるなんておかしいやろ！
俺は絶対認めへんからな！」
それに対して遠川監督は、植葉の方へ歩み寄りながらこう返す。
「この期に及んで往生際が悪いな。
この条件に納得して試合を引き受けたのはお前だろう？」
「う、うるさいわ！
まさかそっちのチームにあんなピッチャーが居るとは思わんかったんじゃ！」
「だからと言って今更この試合が無効だという事にはならないぞ。
約束通り、私との縁談の話はなかった事にしてもらおう」
「黙れ！こうなったらこの場でその野球部員もろとも組員総出でぶっ殺したる！」
おいおい、何かとんでもない事を言い出しおったぞあいつ。
と、思ったその時、
ボッコォン！
遠川監督は植葉の目の前に歩み寄り、その鼻っ柱を思いっきりブン殴った。
そしてそれをまともにくらった植葉は
「フギャッ⁉」
と声を上げてその場に背中から倒れ、白目を向いて気絶した。
そんな植葉に遠川監督が言った言葉はこれやった。
「何でもかんでも暴力で解決しようとするのはよくないぞ！」
その言葉に対し、俺達張高野球部員は声をそろえてこう言った。
「いや、そりゃあんたやがな」
まあ何はともあれ、これで遠川監督の縁談の話はなくなり、
正式にウチの監督になってくれる事になった訳や。
めでたしめでたし。
・・・・・・と、言いたい所やけど、
実はまだ、クリアせなあかん難関が残ってるんやよなぁ。
それを思うと、俺はこの勝利を心から喜ぶ事がでけへんのやった。
