4 主人公は活躍できない
植葉組のキャッチャーがおもむろに立ち上がり、
ストライクゾーンから大きく外れた所にミットを構えた。
んん?あれれ?
これはどういう事かな?
疑問に思う俺に構わず、植葉はそのミット目がけてボールを投げ込んだ。
バシン!
「ボール!」
ええ?まさか・・・・・・。
バシン!
「ボール!」
前にもこんな事があったけど・・・・・・。
バシン!
「ボール!」
今回もそういう展開?
バシン!
「ボール!フォアボール!」
「うぉおおいっ!ちょっと待てやコラァッ!」
あまりにもあんまりな展開に、俺は思わずマウンド上の植葉に声を荒げた。
その植葉はキャッチャーからボールを受け取りながらこう返す。
「ああ?何やねん?」
「何やねんじゃねーでしょうが!何でここで敬遠なんすか⁉
ここは俺が試合を決めるサヨナラヒットを打つ場面でしょうが!
それを敬遠ってあんた!」
「うっさいやっちゃな、それをさせんために敬遠したんやろうが。
お前にはさっきもヒットを打たれとるしな」
「ムキョーッ!あんたはそこまでしてこの試合を引き分けに持ち込みたいんか!」
「そうや。こんなつまらん勝負で沙夜との縁談を白紙にされたらかなわんからな」
「ぐぬぬぬ・・・・・・」
植葉の言葉に納得できない俺。
すると球審のおっちゃんが俺に怒りの声を上げた。
「おい君!私語をやめて早く一塁に行きたまえ!さもなくば退場にするぞ!」
そう言われた俺はしぶしぶ一塁に向かった。
何ちゅうこっちゃ。
これで俺がサヨナラヒットを打って、
試合を決めるというシナリオがなくなってしもうたやないか。
おまけに次のバッターが打ち取られてしもうたら、
その時点で俺らの勝ちはなくなる。
状況はツーアウト満塁になったけど、
こうなったらランナーが二人でも三人でも一緒や。
とにかく三塁ランナーの山下先輩がホームに帰らん事には、
俺らの勝利はないんやから。
そんな状況の中登場するのは、五番ショートキャプテン。
キャプテンはここまでの三打席で、植葉の前にいずれも打ち取られている。
正直、タイミングはあまりあってない感じや。
でもここはキャプテンのひと振りに賭けるしかない。
頼みますよキャプテン!
俺が祈るような気持ちでキャプテンにそう念じた、その時やった。
「タイム!」




