1 引き分けは負けと同じ
「ストライク!バッターアウトッ!」
九回の表、ツーアウト一塁の場面で、四番の植葉が三振に倒れた。
これでスリーアウトチェンジ。
さっきの八回に続き、碇は植葉組の打線を無失点に抑えたのやった。
「よぉし!よくやったぞ皆!」
ベンチに戻った張高ナインを、遠川監督は手を叩いて出迎えた。
そしてベンチの前で円陣を組んでこう続けた。
「試合前にも言ったが、この試合は延長戦がない。
よってこれでウチのチームの負けはなくなった訳だが、
まだ勝ち(・・)が(・)決まった(・・・・)訳でも(・・)ない(・・)。その意味はわかるな?」
その言葉に俺達は一様に頷く。
今遠川監督が言ったように、この試合には延長戦がない。
そしてもし次の攻撃で張高野球部が一点も取れずに引き分けになった場合も、
遠川監督は(・)植葉と(・)祝言を(・)上げる(・・・)事になっている。
つまり九回裏に俺達が点を取ってサヨナラ勝ちをせんと、
遠川監督は植葉と結婚せなあかんし、
張高野球部の監督にもなってもらわれへんのや。
そんな状況の中、顧問の下積先生が声を張り上げた。
「頼んだぞ皆!何としても次の攻撃で決めるんだ!」
その言葉に俺達は、
「はいっ!」
と元気よく答え、キャプテンがその勢いで以てこう言った。
「よっしゃ!この試合何が何でも勝つ!
そんで遠川さんに正式な監督になってもらうぞ!」
「おーっ!」
全員で再び気合を入れ、円陣を解いた俺達張高野球部。
残された攻撃のチャンスはあと一回。
張金高校最後の攻撃が、始まろうとしていた!




