3 植葉組の挑発
顔立ちがどことなくあの植葉則文に似ている。
そのおっちゃんが、遠川監督に声をかけた。
「こんにちは、遠川のお嬢さん」
「これは植葉の組長。どうも御無沙汰しています」
遠川監督はおっちゃんの方に振り返ってそう言った。
という事は、このおっちゃんが植葉組の組長で、あの植葉則文の父親なんか?
そう考えていると、遠川監督は申し訳なさそうな口調で言った。
「このたびは私の勝手な申し出を受けていただいて、本当にありがとうございます」
それに対して植葉の組長は、余裕の笑みを浮かべながらこう返す。
「ハッハッハ!なぁにいいって事ですよ。
この試合に勝たないと、
息子はお嬢さんと祝言をあげられないという趣向は実に面白い。
息子もあなたへの想いの強さを見せるいい機会だ。
私も監督として参加させていただきます。
ただひとつ残念なのは、そんな大事な試合の相手が、
こんなかませ犬にもなりそうもないガキ共だという事だ。
これでは五回も持たずに、ウチが十点差以上をつけてコールド勝ちしてしまうでしょうな」
「何やとぉっ⁉」
植葉の組長の言葉にカチンときた先輩達が声を荒げる。
しかし遠川監督は流石に冷静な様子で今の言葉を受け流した。
・・・・・・かと思いきや、表情が完全にブチ切れ状態になり、
今にも殴りかかりそうな勢いやった。
この前植葉則文をどついた時もそうやったけど、
遠川監督はメチャクチャ短気ですぐに手が出る。
この辺りは極道の娘やからか?
でもここで相手チームの監督を殴ったりしたら、
試合をする以前に負けになってしまうぞ。
あかん!それだけは絶対にあかんで!
と思ったその時、遠川監督の背後に居た下積先生がすかさず間に割って入り、
植葉の組長にこう言った。
「かませ犬にもならないかどうかは、実際に試合をすればわかる事ですよ」
するとそれを聞いた植葉の組長は、
「確かにその通りだ。どの程度やってくれるのかを楽しみにしていますよ」
と言い、踵を返して三塁ベンチへ帰って行った。
「ありがとうございます下積先生。
私、あの人のつまらない挑発に乗ってしまうところでした」
冷静さを取り戻した遠川監督は、申し訳なさそうに下積先生に言った。
それに対して下積先生は、ニッコリ笑ってこう返す。
「大丈夫。遠川さんが育てたこのチームは、
どんなチームにも引けを取ったりしません。この子達を信じましょう!」
するとその言葉を聞いた遠川監督は、
「そうですね!」
と言って気を持ち直し、俺達に向かってこう続けた。
「この試合は絶対に勝つぞ!皆気合入れろよ!」
それに対して俺達張高野球部員は腹の底から
「おうっ!」
と声を張り上げた。
遠川監督を賭けた植葉組との一戦。
果たして勝つのはどっちや?




