12 まずは人生の話
そしてその日から、遠川監督による地獄の特訓が始まった。
最初はもちろんこの前もやった『おケツ十叩きランニング』
・・・・・・かと思っていたら意外とそうではなく、
まず最初に始まったのは全体ミーティングやった。
俺達を地面に座らせ、遠川監督は開口一番こう言った。
「君らにとって、人生とは何だ?」
「えっ?」
予期せぬ質問に、俺達は目を丸くした。
そんな大層な事、考えた事もないぞ。
一様に戸惑う俺達に構わず、監督は続けた。
「では東倉、お前にとって人生とは何だ?」
「ええ?えーと、今の俺の人生は、野球そのもの、かな?」
流石キャプテンやな。
「千田、お前はどうだ?」
「人生は、金です」
家が金貸しの千田先輩らしいな。
「手古山はどうだ?」
「健康な人生を、送りたいです」
ホンマにそうやな。
「松山は?」
「昌也君の存在が、僕の人生そのものです!」
お前はもう帰れ。
「さて、今聞いただけでも、人生というのは人によって千差万別だ。
人の数だけ人生がある。
そしてこの、『人生』という言葉そのものも、色んな解釈ができる」
色んな解釈?
「ひとつめは、『人として生まれる』
ふたつめは、『人として生きる』
みっつめは、『人を生む』
で、よっつめは『人を生かす』
ちなみに人を生むというのは、何も実際に子供をつくるだけではなく、
例えば部活に新入部員を招いたり、
会社で新しい社員を採用したりするという事も含まれる。
つまりその人に、『生きる場を与える』という事だ。
そして人を生かすというのも、自分の家族を養うという事だけではなく、
後輩や部下を育てるというのも含まれる。
つまり人生というのは、
人として生まれるにしても、
生きるにしても、
生むにしても、
生かすにしても、
一人ではできない。
周囲の人の協力があって初めてできる事なんだ」
な、何か凄い深い話やな。
「そしてこれは野球にも言える事だ。野球は団体競技。
一人では相手に勝つどころか、試合自体が成り立たない。
だから選手一人一人は自分が活躍する事より、
チームが勝つ為に自分は何ができるのかを常に考えなければならない。
そうする事で選手達は一丸となれるし、チームは強くなるんだ。
野球は技術や才能があるに越したことはないが、
まずこの事を心に落としこまなければ、
どんなに才能に恵まれてもいつかは頭打ちになる。
つまるところ、体力や技術を鍛えるのも大切だが、
それ以上に心を鍛える事も大切だという事だ。
私はその部分も含めてミッチリお前達を鍛えるからな!覚悟しておけ!」
「はいっ!」
遠川監督の言葉に、俺達は元気よく返事をした。




