7 沙夜さんは、キレるとヤベェらしい
俺達が案内されたのは、昨日の大広間とは違う、洋風の客間やった。
広い部屋の中央に膝丈ぐらいの高さの長方形のテーブルがあり、
それを挟んで三人掛けの高級ソファーが置かれている。
極道の屋敷なのでもっと高級そうな壺やら調度品やらが置かれているのかと思いきや、
壁に高そうな絵画が飾ってある程度の、至ってシンプルな部屋やった。
「私の母があまり派手派手しいのを好まなくてね、
この屋敷の中は、どこもこんな感じだよ」
部屋の中をキョロキョロ見回す俺に、
沙夜さんはそう言いながらテーブルにお茶を置いた。
「さ、二人ともソファーにかけてお茶をどうぞ」
「あ、どうもすみません」
「いただきます」
俺と下積先生はそう言ってソファーに腰掛け、
沙夜さんが出してくれたお茶をすすった。
緊張してるせいでお茶の味なんか全然わかれへんけど。
するとその時部屋の扉がガチャリと開き、
そこから沙夜さんの母親である夢代さんが現れた。
「こ、こんにちは!」
「お邪魔してます!」
慌てて立ちあがって挨拶をする俺と下積先生。
すると夢代さんはニッコリ笑ってこう言った。
「こんにちは。今日は沙夜を上手くサポートしてあげてね」
「は、はいっ!」
同時に返事をする俺と下積先生。
というても、一体どんな風にサポートをすればええんやろう?
と思っていると、夢代さんは笑みを浮かべたままこう続けた。
「沙夜はキレ(・・)る(・)と手がつけられなくなるから、そうならないようにうまくなだめてね?」
「はぁ、なだめる、ですか」
「お母さん!余計な事は言わなくていいから、もうあっちに行って!」
夢代さんの言葉に下積先生が目を丸くすると、
沙夜さんは恥ずかしそうに声を荒げ、夢代さんを部屋から追い出そうとした。
「ウフフ、それじゃあ私は別の部屋で待っているからね。
うまくいく事を願っているわ」
夢代さんはそう言うと、ウインクをして部屋から出て行った。
最初会った時は怖そうな印象やったけど、実は優しくて娘思いの人なんやな。
おまけに美人やし。俺のお母ちゃんもあんな人やったらよかったのに。
とひそかに思っていると、沙夜さんはため息をつきながら言った。
「マッタク、いつも一言多いんだ、あの人は」
するとその時部屋の入り口から組員の男が顔を出して言った。
「お嬢!植葉組のぼっちゃんがいらっしゃいました!」
 




