1 黄色い声援に対する、昌也の紳士的対応
キィン!
乾いた金属音とともに、鋭い打球が地を這うように転がって行く。
それをユニフォーム姿の小暮がしっかりとグローブで掴み、
無駄のない動きで一塁に送球。
そしてそのボールは、一塁手の千田銅次郎先輩の構えるミットにスパァン!
という小気味よい音を立てて突き刺さった。
その後も続けざまに放たれる打球を、小暮は鮮やかな身のこなしでさばいていく。
今朝は他の運動部が学校のグラウンドを使わないという事で、
俺達張高野球部はここで朝練をしていた。
ちなみに今は俺がバットを持ち、ついこの前入部したばかりの小暮にノックをしている。
その小暮はさっきも言うたように、見事な動きで俺の放つ打球をさばいていく。
流石は全国優勝したチームでレギュラーをはっていただけはある。
あいつがこのチームに入ってくれたっちゅうのは、ホンマに頼もしい限りや。
そやけども俺は、小暮が入部した事にある不満も感じていた。
それは何かと言うと・・・・・・。
キィン!
「きゃーっ♡」
カァン!
「小暮君カッコイイ♡」
コォン!
「こっち向いてーっ♡」
近頃何人かの女子生徒が野球部の練習を見学するようになり、
事あるごとにキャーキャー騒ぎおるのや。
しかもその対象は、碇と小暮だけ。
いや、俺は何も、碇と小暮しかキャーキャー言われへん事が不満なんとちゃうで?
一人でもええから俺にキャーキャー言うてくれとかそんなんとちゃうんやで?
そうやなくてさ、やっぱり練習中はしっかり集中してやりたいやん?
それやのに周りでキャーキャー騒がれたら、みんなの気が散るやん?
それって、よくないやん?
なので俺は野球部のためを思い、決してヤキモチとか妬みとかではなく、
極めて紳士的かつ倫理的かつおだやかな口調で、
キャーキャー騒ぐ女子に注意を促す事にした。
「キャーキャーうっさいんじゃボケ!練習の邪魔やからどっか行けコラ!」
すると俺の言い方の何がいけなかったのか、
女子達の顔がいきなり鬼のようになり、俺に凄い罵声を浴びせ始めた。
「うっさいのはあんたやろ!あんたの方こそどっか行け!」
「なっ⁉」
「ウチらはあんたなんか眼中にないんや!」
「ぐっ・・・・・・」
「このヘボキャッチャー!」
「うぬぬ・・・・・・」
「主人公代われ!」
「・・・・・・」
何でそこまで言われなあかんねん。
何か、ホンマにヘコんでしまいそうやぞ。
するとそこに小暮がやって来て、俺の肩に手を置いて言った。
「少しくらいいいだろ。あの人達は、野球部の応援に来てくれてるんだから」
「そ、そやけどこいつら・・・・・・」
俺が反論しようとすると、今度は碇が俺の近くに駆け寄って来て言った。
「僕は全然気にならないよ?むしろ応援してくれた方が張り合いがあるし」
「いや、だからその・・・・・・」
俺は尚も反論しようとしたけど、その声は女子どもの黄色い声にかきけされた。
だあああっ!もおおおおっ!