3 おかみさんの方が組長っぽい
というひと際大きな声が遠川組長の背後から聞こえ、
その瞬間、組長の拳は下積先生の顔に当たる寸前で止まった。
そして声がした方に顔を向けるとそこに、遠川さんのお母さんの姿があった。
さっきの声はこの人のものやったのや。
そんな遠川さんのお母さんを睨みつけ、遠川組長は言った。
「何で止めるんや!」
それに対して遠川さんのお母さんは、凛とした表情でこう返す。
「カタギの方に手を出すと、後で色々と問題になります。
それにその方を殴った所で、その方は意志を曲げたりはしませんよ」
「そやけどやな!俺はこいつをブン殴らんと気が済まんのや!」
「四の五の言わずにやめなさいと言ったらやめなさい!」
遠川さんのお母さんは再び声を張り上げた。
そのあまりの迫力に俺も思わずビクッとなったが、そう言われた遠川組長は、
「はい、スミマセンでした・・・・・・」
と言って下積先生の胸ぐらから手を離した。
ていうか謝っちゃったよこの人。
しかもメッチャしょんぼりしてるし。
もしかしてお母さんの方が組長なんか?
遠川組長がしょんぼりして黙りこみ、
今まで騒いでいた組員達も静まり返った中、
遠川さんのお母さんはスッと立ち上がり、
上品な足取りで下積先生の前に歩み寄った。
そして下積先生の目をまっすぐに見据え、薄い笑みを浮かべてこう言った。
「あなたはとても勇気のある方ですね。
あなたの想い、この遠川夢代が受け取りました」
彼女、夢代さんはそう言うと、
娘である沙夜さんの方に振り返ってこう続けた。
「沙夜、あなたも本気なのね。
では、植葉さんとの縁談は取りやめにしてもいいのね?」
その問いかけに沙夜さんは無言でうなずいた。
それと同時に組員達が再びどよめき、遠川組長が声を荒げた。
「なぁっ⁉そんな事が許される訳ないやろ!
もしそんな事になったら遠川組の跡取りはどないなんねん⁉」
「遠川組の跡取りより、沙夜の幸せの方が大切です!」
夢代さんはそう言って遠川組長を一喝した。
すると遠川組長は、
「はい、スミマセンでした・・・・・・」
と言ってまたしょんぼりした。
それでええのか遠川組長。
ていうかカッコよすぎるで夢代さん。
そうシミジミ思っていると、夢代さんは沙夜さんの方に向き直ってこう言った。
「沙夜、あなたの気持が本物なら、好きにするといいわ。
でも、縁談の取りやめの話は、あなたが直接則文さんにしなさい。
それはあなたのケジメよ」
「わかってる。私が言う」
沙夜さんは力強く頷いてそう言った。
「明日、ここに則文さんがいらっしゃるから、その時にお話しすればいいわ。
その際は、あなた方も同席してくださる?」
夢代さんはそう言って俺と下積先生を見やった。




