1 遠川さんち
俺と下積先生は、遠川さんの家にやって来た。
家、というより、屋敷と表現した方が正しいやろうか。
その辺の学校くらいありそうな広大な敷地の中に、
まるで高級旅館を思わせるような純和風の建物があり、
それが遠川さんの住んでいる屋敷やった。
そして俺達は今、その屋敷の中でも一番広いであろう、大広間に来ていた。
大人が百人くらい余裕で入れそうな部屋の床には、
高級そうな畳がビッシリと敷き詰められている。
こういう場所は旅館ではよくあるやろうけど、個人の家で見る事はそうないと思う。
さて、そんな大広間に俺と下積先生は並んで座り、
その前方に、遠川さんが俺達に背を向けて正座している。
その更に前方には床の間があり、
そこにでっかい掛け軸やら立派な刀が飾ってあって、
その手前に二人の人物がこちらに向いて座っている。
向かって右側に座っているのは、
紫を基調とした高そうな着物をまとった女性で、
顔が何処となく遠川さんに似ている。
歳は五十手前というところか。
そして向かって左側に座っているのは、
黒のカッターシャツを着て赤いネクタイを締め、
上下真っ白のスーツを身にまとった男性やった。
歳は五十代半ばくらいやろうか。
鼻の下とアゴにヒゲを生やし、目にはごっついサングラスをかけている。
ちなみにこの人が遠川さんのお父さんで、
着物を着た女性が遠川さんのお母さんらしい。
いや~、あんな格好しとったら、
まるでヤの付く商売の人かと勘違いしてしまいそうになるけど、
勘違いとかそういうのではなく、
遠川さんのお父さんは、『遠川組』という極道の組長さんでした。




