4 奪われた唇
「ふぅん、昌也君って、やっぱりそっちの趣味の人やったんやね」
という声が背後から聞こえ、振り向くとそこに、
俺の幼なじみにして片思いの相手の、小白井伊予美が居た!
「い、伊予美ちゃん⁉何でここに⁉」
驚きの声を上げる俺に対し、伊予美は笑顔ながらも冷たい口調でこう返す。
「そんな事はどうでもええやんか。それより昌也くんは、やっぱりホモやったんやね」
「ち、ちゃうねん!これは誤解やねん!」
「しかも松山君と小暮君に二股かけるやなんて」
「そ、それも誤解や!俺はホモとちゃうし、二股をかけるような男でもない!」
「この、ホモ!」
「めっちゃストレートなご指摘!」
「四番、ホモ、正野君」
「何か野球のポジションみたいに言われてる!」
「このホモサピエンスが!」
「それはそうかもしれない!」
「ウチ、そんな昌也君は嫌いや。サヨウナラ」
「ちょっ⁉待ってぇや伊予美ちゃん!俺の話を聞いてくれぇっ!」
俺は必死にそう叫んだが、伊予美はプイッとそっぽを向いて去って行ってしまった。
俺は慌ててその後を追おうとしたが、
碇と小暮ががっしりと抱きついているので動けない。
それでも何とか伊予美を追いかけようと、碇と小暮を振り払おうとした。
するとその拍子に足がもつれ、俺は背中から地面にすっ転んだ。
「あ痛⁉」
思いっきり背中を地面に打ち付けたので物凄く痛い。
そしてそんな俺の上に、碇と小暮が覆いかぶさって来た!
「ま~さ~や~君♡」と碇。
「正野ぉっ!」と小暮。
「ぐわぁああっ!何すんねんお前ら!どけ!離れろぉっ!」
しかし二人はそんな俺の言葉を聞く様子もなく、目をつむって唇をとがらせた。
こ、こいつらまさか、俺にチュウする気か⁉
そう悟った俺は何とか起き上がろうとするが、
人間二人に覆いかぶさられてはどうする事もでけへん!
そんな中碇と小暮は、俺に唇を近付けてくる!
「ぎゃぁっ!」
叫ぶ俺!
しかしどうする事もできない!
何か前にもこんな事があったな!
でも今はそんな事どうでもいい!
とにかく誰か何とかしてくれ!
神様でも作者でもええから俺を助けてくれぇっ!
しかしそんな俺の願いは完全にスルーされ、目の前の二人の唇が一層近づいてきた!
そしてその距離があと十センチ、
五センチ、一センチ、五ミリ、
そして・・・・・・。
ぶちゅううううううっ♡×2
「ぎゃああああっ!」
と、いうところで、俺は(・)目を(・)覚ました(・・・・)。
そう、今までのアレは夢やったんや。
「はぁ~っ、夢かぁあああ・・・・・・」
一度上半身を起こした俺は、そう呟いて再び枕に顔を突っ伏した。
首筋から背中にかけてビッショリと嫌な感じの汗をかいている。
アレが夢でよかったという安堵感より、あの夢の感触が妙にリアルでゾワゾワする。
俺、ホンマにホモとかとちゃうのに、
何で最近あんな夢ばっかり見るんやろう?
まあ、その原因はハッキリしてるんやけど。
そんな事を考えながらポリポリ頭をかいていると、
窓の外から俺のよく知った声が聞こえてきた。
「まーさーやーくーん!一緒に学校行こ♡」
その声の主は碇やった。
あの夢を見てからあいつの顔を見るのはかなり嫌やけど、まあしゃあない。
あいつはウチの野球部が甲子園に行くために絶対に必要な奴やからな。
そして甲子園に出場した暁に、胸を張って伊予美に告白するんや!
よぉし!今日も頑張るでぇっ!
俺は気を取り直し、勢いよくベッドから飛び起きた。
俺の恋と甲子園への挑戦の日々が、再び始まるのやった!