1 鹿島さんは大体居る
「それ、どんな人なんや?」
翌日の昼休み、野球部の部室で弁当を食べながらキャプテンは言った。
俺が昨日ウチの監督になって欲しい人を見つけたと話したら、
興味津津でそう聞いてきた。
それに対して俺は、頬張っていたカレーパンを飲みこんで言った。
「何でも去年まであのナニ体大の野球部に所属していたらしくて、
野球の腕前はもちろん、教えるのもうまいんですよ」
「何やて⁉あのナニ体大に!
そんな人が監督になってくれたら百人力や!
で、その人は今何の仕事をしてるんや?」
「それが、ある事情があって今はブラブラしてるらしいんですけど、
それがどういう事情なのかは、まだ聞いてません」
「まあでも仕事とかをしてないんやったら、
頼めば監督になってくれるかも知らんな!」
「はい、なので今度会ったらダメ元でお願いしようと思ってて、
一応キャプテンに報告しとこうと」
「俺は大歓迎やぞ。
下積先生はやる気はあるけど野球の指導はまるっきり素人やからな。
これから本格的に甲子園を目指すためにも、
ちゃんとした野球経験者に指導してもらった方がええ」
「そうですか。じゃあ今度会ったときにお願いしてみます」
「頼んだで」
等と俺とキャプテンで話していると、
それを傍らで聞いていた新聞部の鹿島さんが、
メモ帳にペンを走らせながら言った。
「いや~、張高野球部もだいぶと部活らしくなってきたねぇ」
それに対してキャプテンは呆れた顔で言う。
「ていうかお前、何でそんなしょっちゅう野球部の部室に来んねん?
お前は新聞部の人間やろうが?」
しかし鹿島さんは何ら悪びれる様子もなくこう返す。
「だから、あたしは新聞部の人間として野球部に取材に来てるんやないの。
あたしのおかげで野球部は女子生徒にも注目されるようになったんやで?」
確かに、野球部の練習を女子生徒が見に来るようになったのは、
鹿島さんが書いた野球部の記事によるところが大きかった。
(女子生徒の目当ては碇と小暮やけどな!)
ちなみに鹿島さんがここに来る本当の理由は他にあるんやけど、
ここではあえて触れないでおこう。
実は鹿島さんはキャプテンに片思いをしているとかは言わないでおこう。




