11 元バッテリーとの再会
その日の夕方、下積先生と別れた俺は、電車に乗って地元の張金駅へ向かっていた。
空いた座席にドカッと腰をおろし、窓から差し込む夕日をぼんやりと眺める。
今日はごっつい疲れた。
下積先生ってホンマに奥手なんやなぁ。
もう歳いくつや?
あの調子じゃあいつまで経っても彼女なんかでけへんぞ。
まあでもあの遠川さんっちゅう人が、
ホンマにウチの監督になってくれたらええのになぁ。
そうなればウチのチームももっとレベルアップできるはずや。
でもあの人、何か事情があってブラブラしてるとか言うとったけど、
一体何の事情なんやろう?
ただ単に就職浪人って事かいな?
そんな事を考えているうちに電車は張金駅に着き、
俺は電車を降りて改札を出た。
そして駅前の商店街を抜けてスタスタ歩いて行くと、
やがて俺の家が見えてきた。
するとそれと同時に、俺の家の前に二人の人物が立っているのが見えた。
一人はウチの近所に住む俺の幼なじみにして片思いの相手の小白井伊予美で、
もう一人はスラッと背が高く、キリッと引き締まった端正な顔立ちの男やった。
ちなみに俺はその男の事を知っている。
なので俺はその男の近くまで歩み寄り、背後から声をかけた。
「よう、久しぶりやな宗太」
すると宗太と呼ばれたその男は、振り向きながら俺に言った。
「ああ、久しぶりだな昌也」
この男の名前は荒藤宗太。
実はこいつも俺や伊予美の幼なじみで、
中学までは同じチームでバッテリーを組んでいた。
家もすぐ近くにあったんやけど、
中学を卒業すると同時に宗太は親の都合で引っ越す事になり、
高校も別々になったので、それ以来会っていなかった。
こうして会うのは三カ月ぶりくらいやけど、
何でいきなりここに現れたんや?
そして伊予美と二人で何をコソコソ話してたんだコノヤロウと思っていると、
宗太の傍らに居た伊予美がニコニコしながら言った。
「こうやって三人で会うのはホンマに久しぶりやねぇ。
買い物に行こうと思って家を出たら宗太君が居るんやもん。びっくりしたわ」
「驚かせてゴメンね、伊予美ちゃん」
「ううん、ええよ。久しぶりに宗太君に会えて嬉しいし」
宗太の言葉に伊予美はそう言ってニッコリと笑った。
それに対して宗太も爽やかな微笑みを返す。
そんな二人のいい感じの雰囲気にムッとした俺は、ややトゲのある声で口をはさんだ。
「ところで宗太君、君は一体どういう用事でここに来たのかね?」
それに対して宗太もトゲのある声で俺にこう返す。
「ああ、ちょっとお前に大事な話があったから、
部活を休ませてもらってここに来たんだ」
「俺に大事な話?一体何や?」
「それは・・・・・・」
俺の問いかけに、宗太はそう言って口をつぐんだ。
するとそれを察した伊予美は、
「あ、じゃあウチは買い物があるからもう行くね。
また三人で会える機会があったら、昔みたいに三人で遊ぼうね!」
と言い、俺達に手を振りながら駆けて行った。
う~ん、そういう気遣いをしてくれる所も伊予美のええところや。
それはともかく、俺は改めて宗太に尋ねた。
「で、俺に話しって何や?」
それに対して宗太。
「ここじゃ何だし、近所の公園に行こう」
「ん?それやったらウチに上がっていけや。母ちゃんも喜ぶやろうし」
「いや、これは他の人には聞かれたくない話だから、公園の方がいい」
「さよか」




