10 ぜひウチの監督に
「し、正野く~ん・・・・・・」
その声に振りかえると、ネット越しに泣きそうな顔をした下積先生が立っていた。
俺は扉を開けて通路に出て、そんな下積先生に言った。
「先生、その顔を見れば大体わかりますけど、彼女に話しかける事はできましたか?」
すると下積先生は首を横に振って言った。
「ダメだった。恥ずかしくて顔もまともに見られなかった・・・・・・」
「はぁ~・・・・・・」
そんな下積先生に俺は深いため息をつき、頭をかきながらこう言った。
「まあ、そんな事やろうと思いましたけどね。でも俺は、あの人と少し話をしましたよ」
「ほ、ホントに⁉名前とか聞いたの⁉」
「はい、遠川沙夜っていう名前でした」
「遠川沙夜。いい名前だなぁ・・・・・・」
「で、去年まで超名門の大学の野球部に所属していたらしいです」
「へぇ、じゃあやっぱり野球の経験者なんだ」
「はい。しかも野球の指導もうまそうなんで、
ウチの監督になってくれればいいなぁとも思います」
「ええっ⁉もしそうなれば、毎日あの人に会えるって事⁉」
「まあ、そうなりますね」
「それはいい!ぜひあの人に、
ウチの野球部の監督になってもらおう!そうしよう!」
すっかり盛り上がった下積先生は、
そう言って俺の肩をガックンガックンゆさぶった。
それに対して俺は肩をガックンガックンゆさぶられながらこう返す。
「ま、まだなってもらえると決まった訳じゃないですよ!
そうなればいいっていうだけで」
「そ、そうか。どうすればあの人に、ウチの監督になってもらえるかな?」
「とりあえず直接お願いするしかないんじゃないですか?
遠川さんは去年大学を卒業して、今は事情があってブラブラしてるみたいなんで、
もしかしたら引き受けてくれるかもしれません」
「そうか!いや~そうなると、僕も俄然張り切っちゃうな~」
「いや、だからまだ監督になってもらえると決まった訳じゃあ・・・・・・」
「ありがとう正野君!君が野球部に入ってくれて本当によかった!」
「いや、だからね?」




