8 とにかくお金を入れさせようとするシステム
「君、なかなかいいセンスしてるなぁ」
と、隣の打席から声をかけられた。
そしてその声に振り向くと、ネット越しに下積先生の片思いの彼女が、
俺に向かって微笑みかけていた。
「あ・・・・・・」
予期せぬ事態に声を詰まらせる俺。
そういえばこの人が隣の打席に居ったんや。
バッティングに夢中になっててすっかり忘れてた。
しかし何で俺なんかに声をかけてきたんや?
と半ばパニックになる俺に構わず、彼女は続けて言った。
「君は、高校生?」
「あ、はい」
「野球部なのか?」
「はい、そうです」
「高校は何処?」
「えと、張金高校です」
「張金?聞いた事がないなぁ。私は高校野球には結構詳しいつもりなんだけど」
「ええ、まだ(・・)弱小チームなもので」
「へぇ、そうなのか。君ならもっと強い学校でも通用すると思うけどな。
ねぇ君、名前は何て言うの?」
「しょ、正野昌也っていいます」
「正野昌也君か。私は遠川沙夜。よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
「ところで正野君、さっきから君のバッティングを見せてもらったんだけど、
ひとつだけ気になる点がある」
「へ?気になる点、ですか?」
「そうだ。君はバットを振った時、右の膝がほんのわずかだが沈むクセがある。
そのせいでスイングの軸がブレて、バットの力がボールに伝わりきっていない」
「あ、そうなんですか。そんな事初めて言われました」
「理屈でわかろうとするより身体で理解した方が早いよ。
試しに今私が言った事を意識してボールを打ってごらん?」
「わ、わかりました」
彼女、遠川さんにそう言われた俺は、
とりあえず言われたとおりに打ってみようと機械に百円だけ入れた。
するとさっきのおっちゃんの声でまたアナウンスが流れた。
『ケチケチせんともっと入れてぇや』
「だからそれは俺の勝手やろうがい!」
俺は機械に声を荒げ、再び打席に立った。




