10 下積先生
そんなこんなで何とか下積先生のアパートにたどり着いた俺と碇。
そのアパートはいかにも古そうな二階建てのボロアパートで、
鉄製の階段は半分くらい塗装がハゲてさびつき、
それぞれの部屋の前で光る電球が、頼りない明りを灯している。
何か、いかにも一人暮らしの寂しい中年男性が住んでますという雰囲気や。
「さて、下積先生の部屋は何処やろうか?」
と言いながら、一階から下積先生の部屋を探した。すると、
「あ、あの部屋じゃない?」
と碇が指差した部屋の扉に、下積と書かれたプレートが貼り付けられていた。
「ここか」
俺はそう言って扉の横のインターホンを鳴らした。
するとピンポーンというよく通る呼び出し音が響いたが、
中から返事はなかった。
もう一回鳴らしてみるが、やはり返事はない。
「おっかしいなぁ、どっか出かけてるんか?」
俺がポリポリ頭をかきながらそう言うと、碇がボソッと言った。
「もしかして、もう部屋の中で首を吊っちゃったとか・・・・・・」
「なっ⁉」
その言葉にぶったまげる俺。
「え、縁起でもない事言うなや!この状況でそんな事言うたら妙に生々しいやろ!」
「で、でも最近、教師の自殺も多いらしいし・・・・・・」
「う、う~ん・・・・・・」
何かホンマに不安になってきたぞ。
でも碇の言う事が万が一正しかったら、下積先生はもうこの中で・・・・。
「念のために、調べた方がええんか?」
「その方が、いいんじゃない?」
俺の言葉に碇がそう言って頷いたので、俺は目の前のドアノブに手をかけた。
が、鍵がかかっているので扉は開かなかった。
「くそっ!この部屋鍵がかかってるやないか!」
「ど、どうしよう⁉やっぱり警察に通報した方がいいかな⁉」
と、俺と碇がパニックになっていたその時、
「あのぉ、僕の部屋の前で何やってるの?」
という声が背後から聞こえた。
その声に俺と碇はピタッと動きを止め、声がした方にゆっくりと振り向いた。
するとそこに、俺より少し背が高い、メガネをかけた細身の男性が立っていた。
歳は三十過ぎくらいやろうか?
右手には色々入ったビニール袋を持ち、俺と碇の事を目を丸くしながら眺めていた。
ていうかこの人、さっき僕の部屋って言うたよな?
という事は、この人が下積先生なんか?
そう思った俺は、恐る恐るその男性に尋ねた。
「あ、あの、あなたが下積タケル先生ですか?」
「え?そうだけど、君達は一体・・・・・・」
と言いながら下積先生は俺と碇が着ていたユニフォームを交互に見やり、
大きく目を見開いてこう言った。
「あぁ!君達は張高野球部の子か!」
「そうです。今年張高野球部に入部した一年の正野昌也っていいます。
で、こっちは同じく新入部員の松山碇」
「松山です、はじめまして」
驚きの声を上げる下積先生に、俺と碇はそう言って頭を下げた。
すると下積先生は、ずれたメガネを元に戻しながら言った。
「ぼ、僕は張高の英語教師で、野球部の顧問も務める下積タケルです。
と言っても、最近ずっと学校を休んじゃってるんだけど・・・・・・
ちなみに、君達はどうしてこんな所に?」
「下積先生が一週間くらい学校を休んでるって聞いて、
キャプテンに様子を見てこいと言われました」
俺がそう答えると、下積先生は苦笑いしながら頭をかいて言った。
「いやあ、心配かけちゃってゴメンね。とりあえず中に入ってよ」




