6 鹿島さんに聞きたい事
すると佐渡先輩はようやく俺の首から両手を離し、
「フン!命拾いしたな!」
と捨て台詞を吐いて去って行った。
一方やっと解放された俺は、その場にひざまづいてむせかえった。
「ちょっと、大丈夫?」
鹿島さんはそう言いながら俺の背中をさすってくれた。
少しして落ち着いた俺は、立ち上がりながら鹿島さんにお礼を言った。
「ありがとうございます、おかげで助かりました」
「さっきの人って、ソフト部の部長やろ?一体何があったん?」
「いやぁ、ちょっとしたいざこざがあって、でも大した事じゃないんで、もう大丈夫ですよ」
「ホンマに?何か尋常やない雰囲気やったけど」
「だ、大丈夫です。もうあんな事はしてこないと思うんで。多分」
「まあそれならええけど。じゃああたしはもう行くね」
「あ、ちょっと待ってください」
踵を返して立ち去ろうとした鹿島さんを、俺は慌てて呼び止めた。
「え?何?」
立ち止まって振り返る鹿島さん。その鹿島さんに俺は言った。
「ちょっと、お聞きしたい事があるんですが」
場所は変わって校舎の裏庭。
鹿島さんについてきてもらった俺は、裏庭にあるベンチに並んで腰かけた。
「で、あたしに話って何?もしかしてデートのお誘い?」
そう言っていたずらっぽい笑みを浮かべる鹿島さん。
それに対して俺は両手を横に振りながら言った。
「ち、違いますよ!そうやなくて、俺は野球部の顧問の先生の事について聞きたいんです!」
「へ?野球部の、顧問?」
「はい。俺、野球部に入部してからまだ一度も会った事がなくて」
「正野君はまだ下積先生に会った事がないんや」
「野球部の顧問って、下積先生っていうんですか?」
「うん。下積タケル先生。担当教科は英語。三十五歳の独身男性で、現在彼女無し」
「さ、さすが新聞部の人は詳しいですね」
「これくらいあの先生を知ってる人やったら誰でも知ってるよ。
で、下積先生について何が聞きたいの?」
「それが先輩達の話によると、最近学校に来てないらしくて」
「え?ホンマに?ああ、でもそう言われれば最近見てないなぁ」
「で、その事について調べてこいって言われたんですけど、
鹿島さんなら何か知ってるかなと思って」
「いや、それはあたしも知らんわ。職員室で他の先生に聞いた方がええんとちゃう?」
「そう、ですか」




