1 小暮からの呼び出し
風が、少し強く吹いていた。
日はすっかり傾き、赤く染まった夕日が空を照らしている。
そんなある日、俺は張金高校の屋上へ向かい、そこへ続く階段を上がっていた。
この日の放課後、俺はある人物に呼び出されていたのや。
その人物の名は、小暮双菜。
中学時代に全国大会で(俺の居たチームを負かして)
優勝したチームのセカンドを守っていた。
足が速く、バッティングも勝負強くて、守備も一級品。
まさに三拍子揃った万能タイプの選手や。
そんな凄い奴が何故か弱小の張金高校に入学し、
ついこの前わが張高野球部に入部してくれる事になった。
ちなみに言うとくけど、
小暮は『双菜』という名前からもわかるように、性別は女や。
まあでも見た目も性格も男勝りな奴やから、
男だらけの野球部に居っても全然違和感はないんやけど。
で、そんな小暮が俺を屋上に呼び出したんやけど、一体何の用やろうか?
そんな事を考えているうちに、俺は屋上にたどり着いた。
そして屋上への扉をあけると、少し強めの風が校舎の中に吹き込んできた。
その風に一瞬目をつむる俺。
そしてゆっくりと目を開けると、屋上の金網のフェンスの前に、小暮の姿があった。
ところでさっきも言うたけど、小暮の性別は女や。
でもあそこに居る小暮は女子のセーラー服ではなく、
男子の学ランを身にまとっていた。
まあそっちの方が似合っているので、それについては何も言わない事にしよう。
とりあえず俺は、小暮に声をかけた。
「よう小暮、待たしたな」
すると小暮は「お、おう」と言いながら俺の方に振り向いた。
その様子はどこかぎこちなく、目もそこはかとなく泳いでいる。
そんな小暮に俺は尋ねた。