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第98話 特別講義2日目その⑧

お読みいただきありがとうございます。

毎日投稿8日目。


予定していた集合場所へ行くとそこにはしっかり時間通りにみんな戻ってきていた。最初に返したケルクとその次のイシュワルトはすでに息を整えて体力も回復しているようだ。〔魔力探知〕で見ると魔力はまだまだ底に近いが、動く分には問題ないのだろう。

それに加えて今戻ったであろうメイリーンが残った体力と魔力を使い切るように棍棒をブンブンと振り回している。その様は素振りというよりはもはや奇怪な踊りの様だった。なんでだろう。


そんな彼らが大なり小なり気にしているのは、残りの二人のクラスメイトだ。しっかりと時間通りに魔道具が稼働停止したようで、二人と十匹は魔道具を持った状態で集合場所へと戻ってきたみたいだった。

片づけまでしっかりと熟してくれるのはありがたいが、とりあえずその魔道具は合宿の前に返してもらうつもりなので、今は持っていてもらう。


それにしても、

「おつかれさん。ブフッしっかり食らったみたいだなぁ。」

「うるせぇ!わかっててあの訓練を選んだのはわかってんだよ!ミーチェに聞いたからてめぇが俺に使った魔道具の数が格段に多いってことはわかってんだ!どういうつもりだコラ!」

「そうだよ、先生!わたしもアルフレッドくんみたいな訓練がよかったよ!」

「「「......ワフッ」」」


その泥だらけの姿についつい耐えきれずに笑ってしまったが、まあ、アレはアレで訓練としてはかなり贅沢な方法だったわけだから許してほしい。一つ一つがそれなりに高価な魔道具をたくさん使う訓練は普通に考えて、学生の訓練の費用ではあり得ない。

それを考えると、実はミーチェの主張の方が正しい反応だったりする。


まあ、軍隊狼アーミーウルフには文句はないようだけどな。


さて、それじゃあ、俺が把握できていない二人の訓練について、感じたことや達成できたこと、明日の達成目標に関して教えてもらおうかな。


まず、俺が考える各々の達成目標はそれぞれ、アルフレッドが気配、魔力、生命力のいずれかの探知を習得するということだった。これはあくまで「今日のところは」という話なので、合宿中にも習得にはチャレンジしてもらいたい。合宿は実際に魔物が出るのでそれだけ緊張感も生まれて習得も近づくだろうしな。


「俺の今日の達成目標は探知系統のスキルの習得だ。悔しいが模擬戦であんたに手も足も出ずに負けたことで俺もそれまでの考えを改めた。冒険者なら戦えればそれだけで上に行けると考えていたが、それだけじゃだめだ。いや、上に行けば行くほど力だけじゃだめなんだ。あんたにやられたように絡め手ともいえるような手段も重要になってくる。

俺は、あんたが知っているように探知系統のスキルの中でも〔気配探知〕の習得を目指した。目指した理由は、これもあんたが知っているように魔物だけでなく害獣までも対象になるからだ。どこまで行っても冒険者は戦える便利屋だからな。」


ふむ、ほとんど知っている情報だったが、貴族であるこいつの口から冒険者の本質を聞くことになるとはな。

確かに冒険者には「戦える便利屋」と言った側面があることは事実だし、低ランクの冒険者にいたってはそちらの方が強い印象だ。

高位になれば戦いに重心が傾くことは事実だが、それでも採取活動を続ける冒険者もいる。なんにしても腕っぷしだけでやれるほど冒険者は甘くないことを理解してくれた様で俺としては嬉しい限りだ。


「スキルは習得できたのか?細かい訓練経過を教えてくれ。それで何に気が付いたかも。」

「ああ。まず、スキルに関してはまだ習得までは至っていない。あんたから借りた魔道具で、この有様だということからも分かると思うがな。

気配を読み取るというのは俺がこれまでやってきた訓練とは勝手が全く違うということを実感させられた。何でもできなきゃいけない冒険者が騎士や魔導士と肩を並べて学科として成立している意味が理解できたよ。

ただ、完全に手ごたえがゼロということではない。訓練中は感覚が無くなることで浮遊しているような錯覚に陥るが、自分の意思で動かないことは可能だ。

俺はまずは自分の内にある筋肉の動きを感じ取ろうと考えた。何かに触れているかわからずとも筋肉の動きで自分にどういった外的な要因が加わっているかは予想が付くからな。

それによると定期的に俺の体に何かがぶつかっているということがわかったんだ。

ここで問題なのはそれがあんたが言っていた、気配を持った何かだということだ。何も感じていない今の段階では一切気配を感じ取れていない証拠になってしまったわけだから。〔気配探知〕の訓練はこれを完全に避け切ることなのだとはわかっていたので、とにかく何かを感じ取れないか必死に集中し続けた。できるだけ動かずにできるだけ動かされずに。そしたら集中を続けている先に何かが見えた気がしたんだ。」


ふむ、要はどうにか得た手ごたえというのは、その先に見えた何かということか。これは十中八九スキル習得の兆し何だろうな。俺は訓練という形で新しいスキルを得た決定的な瞬間に立ち会ったことがないので何とも言えないが、間違いないだろう。

そう考えれば、アルフレッドの訓練は十分な効果があるということがわかったわけだ。それだけでも十分な成果だが、まだ話の続きがあるようだ。


「その先に見えたものが何かはわからないが、それがスキルの習得なんじゃないかと思った俺は、ここに来るまでに実家から貸与されているステータス測定の魔道具を使ってスキルが増えたかの確認を行ったところ、何度確認したところで結果は、“新規習得スキル無し”だった。

これが今日の講義時間での出来事の話だ。俺のこの泥だらけの姿には思うところがあるが、それでも魔道具を貸してくれたことやスキルの習得の環境を整えてくれたことには感謝している。俺のこの泥だらけの姿には思うところがあるが。」


2回言ったぞこいつ。

いろいろと言いたいこと聞きたいことはあるが、とりあえずは良いことしたような気分になったよ。

まあ、依頼なわけだから感謝されることじゃないとはわかっちゃいるんだけどな。


あとは、気になるのはステータス測定の魔道具か。そんなもの一学生に渡すとか。エイライゾ公爵家って想像以上に金を持っていることになるな。限定的とは言え〔鑑定〕と同じことができる魔道具は売値が付けられないくらいには高価なはずだしな。


はあ、これで報告は終了だから。あとは明日の講義の達成目標だな。今日の時点でもう少しと感じているんだから、スキルの習得までは確定だろう。しかし、それ以上を求めるかどうかがわからん。正直俺としては一つで十分だと考えているので、習得したらそのスキルを集中的に鍛えるでもいいだろう。


さてアルフレッドはどうするつもりだか。んで、泥に関してはスルーだ。


「礼はいらん。それで?」

「ああ。明日はこの調子なら間違いなくスキルの習得は叶うだろう。しかし、これはどんなスキルでも同じだが習得しただけでは、持っていればマシ程度だ。訓練して実戦レベルで使えるようにならなくちゃならない。だから、あんたには悪いがスキルを習得した後ももう少しだけ借りて訓練させてもらうぞ。

もしなんなら、俺がこの魔道具を買い取っても良い。見たところ新品だし、あんたにとって重要な魔道具だとも思えねぇ。どうせ、今日のために買い込んだんだろ?おそらく俺のだけではなくミーチェの魔道具もそうだと思うが、高位の冒険者とはいえたかだかSランクの懐事情じゃ、ここまでの魔道具の購入はそれなりに打撃を与えたはずだ。どうだ?」


さりげなく『この貧乏人が!』と言われているような気がしたが、その前に言っていたスキル習得とその後の訓練による熟練度重要性に関しては、間違ったことを言っていないので、叱りつけることはせず、大人な対応を見せる。

まあ、さすがに、そろそろ相手を見て物を言うことを覚えてほしいが、それもアルフレッドの個性なのだろう。幼少期からの癖だとしたら直すことも難しいのは理解できる。

そういうところもあるから冒険者科なのだろうしな。


「いいや、それには及ばんよ。これでも俺は稼いでるんだ。つい数日前も白金貨五枚の依頼を完了させたところだしな。他にも直に払われるはずだから俺の懐事情なんぞ気にすんな。まあ、払われなかったとしても特に困るこたぁねぇけどな。」

「白金貨五枚だと!?それはまたとんでもないな。ただ者ではないとはわかっていたが、そこまでの依頼を達成するのか.........すごいな(ボソッ)。」

「すごいなぁ、アルカナ先生は!わたしもこの子たちとそんなすごい冒険者になりたいなぁ。」

「ウォン!(なろう!)」

「うん!そうだね、イチ!」


アルフレッドの最後の言葉はバッチリ聴き取れたが、どうも依頼報酬額というのは一種の指標にもなっているようだ。そう言えばレイアの講義でも依頼の難易度を説明するときに報酬額も言っていた気がするな。

うーん、軽率だったかもな。レイアはできるだけ口を出さないようにしていたせいか声は出していないが、あちゃあと言いたげに額に手を当てている。うん、ごめんね。


まあ、失敗をめげてもしょうがないし、悪いことばかりではなかったようだ。明らかにアルフレッドがこちらに向ける感情に敬意が見えるようになった。これまではどこか認めないような感じだったのに、今では目をキラキラさせているあたりアルフレッドも子供だったということだな。他の面々も大なり小なり尊敬の眼差しが増えた気がするが、それで何か変わるわけじゃないので放置だ、放置。


「ごほん、そんな俺の懐事情はさておき、アルフレッド、今日の訓練はお疲れさんってことだな。お前さんにはスキルの習得さえしてしまえれば冒険者として活動するのに不足ないだろう。まあ、言わんでも分かると思うが、仲間との連携なども学ばなきゃいけないけどな?」

「はい!」


今までで一番いい返事。悪くない。


「それじゃ、アルフレッドの明日の目標も聞けたところで、次はミーチェ達だな。詳しくは言わんが、俺はイチたちの言葉も分かるので、ミーチェはミーチェ、その後代表してイチが報告してくれ。

もし、他の四人はイチが何を言うか知りたかったらミーチェに通訳してもらえ。」


俺の狼の言葉がわかる宣言には多少驚いたSクラスの面々だったが、一瞬怯んですぐに立て直したようだ。なんだかんだとこいつら打たれ強いよな。貴族や商人のボンボンばかりなのに。


「それじゃ、ミーチェ、よろしく。」

「はーい!えっとね、わたしもアルフレッドくんと同じように魔道具を使った訓練をしました!アルフレッドくんとは違って一人一つだったけど、それでも体験したことのない感覚ですっごい修行!って感じがしたよ!わたしはテイマーだから家族のスキルにも気を配らなきゃいけないって教えてもらったから、〔気配探知〕でみんなの様子を見ながら訓練をしたんだぁ。

アルカナ先生が〔気配探知〕を持っているわたしたちは〔魔力探知〕を習得する訓練だって行ったから、気配を探るときと同じように集中して魔力を探したけどあんまりうまく行かなかったよ。でもね、いろいろ試してみたら、離れた隣にいるイチの魔力を感じたから不思議だなぁって思って手を伸ばしてみたんだけど、手は届かなくておかしいの。手が届く範囲にイチの魔力が感じられた気がしたのにね。

それから同じようにイチに触れようとしていたら、今度はサンの魔力を感じたんだぁ。やっぱり離れた場所にいるはずのサンにも触れなくて、どういうことかわからなかったよ。

そんな感じで、魔道具が止まるまでやってたんだけど、〔魔力探知〕ってどうやったらできていることになるのか知らなかったことに気づいたよ。」


ミーチェの説明はまだ幼い思考としゃべり口調が邪魔して大したことない風に聞こえるが、俺は驚愕していた。あの訓練方法での〔魔力探知〕の習得は予想では一番簡単な自分の近くの生物の魔力に反応する訓練で飛んでくる魔力球をそれに見立てているわけだ。

実際の生物は体を持つからその分魔力を感じるのにも抵抗感がある。それを飛び越えてイチの魔力を感じ取れたというのだからミーチェは〔魔力探知〕のセンスが良いのかもしれない。

俺と同じようにミーチェの説明を聞いていた軍隊狼もそんなことがあったか?と首をかしげている。魔物の中でも連携を得意とする関係で感覚の鋭い軍隊狼ができないことをやるのだから、そのすごさは推して知るべしだ。


それでもっと驚いたのはサンの魔力を感じたという点だ。それは紛れもなく魔力を見つけていたことの証に他ならない。俺が並べたミーチェ達の距離はスキルがない状態では同やっても二つ隣の魔力は感じ取れないだろう距離を開けていた。


まあ、このことからわかるように、おそらくだがミーチェはスキルを習得できているのだろう。てか、よく考えれば、自分の方に伸びてきたイチの魔力を感じている時点で〔魔力探知〕をしていたようなもんか。

ミーチェには魔道具いらなかったかもな。


よし、〔戦力把握〕で見てみるか。どれどれ。


ミーチェのスキルにはしっかりと〔魔力探知〕が生えていた。習得は成功したようで何よりだ。しかしそれだけじゃないのがミーチェのすごいところなのだろうな。

ミーチェは〔魔力探知〕だけではなくもう一つスキルを覚えていたのだから。


ミーチェがもう一つ覚えたスキルは〔指揮〕。これは〔統率〕と組み合わせることで効果を発揮するスキルだ。どうも指示出しが的確にスムーズになるもののようだ。これに関しては学園長も持っているスキルなのでテイマーには適したスキルなのだろう。


兎にも角にもミーチェは才能が豊かということがわかったわけだが、さらにここで学園長の人を見る目が確かだったことが証明されたな。

今日の訓練の中でスキルを習得までに至ったのがミーチェだけとはいえ、存在したというのは正直なところ、予想よりも訓練の進みが早い。

本来、俺が立てた予想では、早くても3日目、遅かったら合宿の最中くらいがスキル習得の頃合いだった。しかし、予想に反して学生たちのほとんどが俺が与えた課題をクリアするのは3日目だろう。

イシュワルトは確実に明日、ケルクはすでに及第点で明日にはさらに根性が付くだろう。メイリーンはとりあえず武器は決まりその扱いも明日にはものにする。アルフレッドも先程の感じからして明日にはスキル習得、ミーチェに至っては今日の時点でスキルの習得、と普通に考えて天才児ばかりだ。


それだけ優秀な子供たちが集まったのが、王立学園のSクラスということかね。本当に末恐ろしいほどのお子様たちである。


ま、わかったことをミーチェに教えてやるか。スキルの習得が成ったことを知ればどう使えばいいかは普通にわかるようになるだろうし、自分のスキルを知っていて損はない。


「ミーチェ、〔魔力探知〕のやり方がわからないってことだが、どうやらお前はもう習得できているみたいだぞ?元から魔力を感じることができたことからも下地があったんだろうな。

触れられないイチとサンの魔力ってそれは、その二人とも〔魔力探知〕の訓練中だったから体外に魔力が漏れ出ていたのを感じ取ったんじゃないか?それで説明はつくと思う。

おそらくだが、従魔と触れ合う内に無意識に感じ取ったりしていたからここまで早い習得になったのかもな。」

「へー、そうなんだ!みんなも私のことを感じ取れるようになっているのかなぁ?あ、そうなんだ。」

「俺はミーチェに先を越されたのか...。」


ミーチェは自分が〔魔力探知〕を習得していたことよりも家族との触れ合いの結果だということがうれしかったようで、イチやサンをしきりにモフっている。どうやらイチやサンも同じように感じ取れるというわけではないので、天才なのはミーチェということだろう。


そして、アルフレッドよ。お前は〔気配探知〕でミーチェは〔魔力探知〕だ。すでにスタートラインが違うんだから気にすんな。どうやっても最初から負けていたレースをいちいち気にしていたら一生打ちひしがれることになるぞ。


「アルフレッドは気にしなさんな。どうせ始まりが違うんだ。それにもっと言うとミーチェは〔魔力探知〕だけじゃないぞ。もう一つスキルが生えていた。どうやら〔指揮〕というスキルが使えるようだぞ。」

「な!?なん...だと?もう一つのスキルだなんて...。」

「その〔指揮〕って学園長先生の言ってたスキルかな?なんか集団戦において自分の配下への指示が通りやすくなって、指示を出す側のイメージが間違えないで伝わるスキルなんだって。」


うん、強くなれ、アルフレッド少年。


そんで、学園長は弟子というだけあってしっかりスキルの有用性などを伝えているようだな。

どうやらミーチェの説明を聞く限りでは指示出し用のスキルらしいが、それだけじゃないな。今の説明からして集団戦、それも大規模なものに有効なのだろう。

配下の数が多くなると指示を出す際に隊長クラスなどの指揮官に指示を出すことになる。それをさらに下に伝えるわけだが、その際どうしてもイメージが多少なりとも変化してしまうのが人間だ。

分かりやすく言うのであれば、伝言ゲームが妥当だろうか。伝言ゲームではどうしても人数を重ねるたびに内容が原型から変化してしまうことは往々にしてある。

集団戦において指示は下へと行くに連れてその指示内容も変化してしまうことが作戦における不備をもたらすことがある。どれだけ徹底しても起こるそれは戦場において永遠のテーマである。

そんなときにこのスキルがあれば、自分が率いる集団であれば自分の指示を正確に伝えることができるわけだ。

もはや、戦略級のスキルと言っても過言ではない。


ますます、テイマーには有用なわけだな。学園長の弟子は伊達じゃないってことだな。


「まあ、とにかくミーチェには驚かされたよ。ここまで早くスキルの習得をできるとは思わなかったさ。どれだけ頑張ってもスキルが身につかない人もいる中ですごいじゃないか。」

「え―そうですか?」

「そうさ!隣を見てみろ、衝撃が強すぎて真白になってるアルフレッドを。ここまで追い打ちかけたのはミーチェだぞ?

それだけスキルっていうのは習得に個人差があるんだ。」


よくわかっていないミーチェにアルフレッド少年がかわいそうに思えてくるが、まあ、個人の素質に関することだから気を強く持てとしか言えないわ。


まあ、これ以上は特に今日の分の報告は無いだろうから、次は明日の訓練で何を目標にするかを聞いておかないとな。他のクラスメイト同様にまだスキルを習得できていないというなら簡単な話なんだが、ミーチェは今回の時点での自信の目標である〔魔力探知〕を習得してしまったわけで、どうするつもりだろうか。

俺が彼女に課した目標は『家族がいるよ』だから、彼女自身の目標というわけでもない。これを忠実に守るのであれば、明日の時点では従魔たちがスキルの習得するのを見守るくらいになるのだろう。


そんな俺の予想はいい意味で裏切られた。俺が思っていたよりもミーチェはストイックな性分なのかもしれない。


「ところでミーチェ、明日はどうするつもりだ?お前に課した課題は元からお前がメインではなく従魔の扱いの見直しをメインとしたものだったんだし。お前次第だが出来るだけ希望に沿うぞ?」

「うーんとね、わたしはみんなの訓練を見ながらわたし自身の訓練も続けるよ。訓練はいくらやっても足りないんだって模擬戦で思い知ったし、まだ強くなれる余地があるなら頑張るよ。次は〔生命探知〕だね!」


こんな感じでぬるっとミーチェの〔生命探知〕の訓練が決まったわけだが、まあ、実を言うと〔生命探知〕ってのは今日やった訓練に一つ魔道具を追加するだけだから手間じゃないので望むところだ。

その魔道具っていうのが、魔力を感じることができなくする魔道具だ。ただ、これまでいろいろ魔道具を出してきたが、これは他の魔道具よりも値が張る代物だ。これだけは使い道がはっきりとあるわけだから、当たり前か。


ミーチェのストイックな面を見れたところで話題は従魔たちに移る。

どれだけミーチェが頑張っても従魔がパッとしないのでは冒険者として頭打ちが来る。それはミーチェもわかっているはずであるし、そこらの阿呆よりもずっと賢くて人間とずっと暮らしてきたイチたちも理解していないはずがない。

そんな彼らを鍛えるために俺がみんながランニングしているときに教えてやった生物としての格の違いからくる威圧感に慣れて克服する訓練は大いに役立つことだろう。

どこまで言っても魔物は実力社会だ。それが従魔であっても変わらない。しかし、従魔には頼ることができる存在があり、それは夕に魔物との実力差をひっくり返すことに成り得る力だ。是非とも強くなってもらいたいね。


まあ、魔物にはその生物としての格を押し上げる“進化”っつー反則級の手段があるわけだけど。


「よし、ここからはミーチェに翻訳してもらいながらみんなは聞いていてくれ。お前ら、ひとのことだと思って気を抜くのはよくないからな。人に教えるのも訓練の内だからよ。」

「「はい。」」

「ああ。」

「ええ。」

「わかったー。」


返事は良いよなこいつら。本当に聞いてんのかわからんけど。


「それじゃまあ、代表してイチ。お前がみんなの話をまとめて報告してくれ。」

「ガウガウ

(分かった。皆の意見は先ほど聞いておいたので、人間の分かりやすいように伝えよう。これでも私たちは賢き魔物なのだ。任せてくれ。)」

「ああ。期待しているよ。」


「ガウガウガウガウ

(私たちは人間によって齎された生物としての圧倒的な格の違いによる威圧感に耐える訓練をした後、ミーチェの訓練に付き合う形で〔魔力探知〕と〔気配探知〕の訓練をすることになった。)

ガウガウガウガウ

(魔道具というのは初めて使うため不思議な感覚であると皆も感じたようだが、私も同様だ。慎重にと思いつつもミーチェが躊躇せずに起動したので、四の五の言ってられずに後を追った。)

ガウガウガウガウガウガウ

(私たちは狼系の魔物ということもあって野生であれば探知系統は自ずと身につけるスキルだ。私を含めたニー、サン、シー、イツ、ムーは野生での生活の経験や私の様にミーチェのような従魔術師と共に活動した経験があるので、〔気配探知〕はどちらかと言えば得意だった。)

ガウ、ガウガウガウ

(しかし、ナナ、ハチ、クー、ジューはこの学園で生まれてミーチェの群れに入った者だからそうはいかない。それは人間も理解していたからこそ、我らとあの子らを〔魔力探知〕と〔気配探知〕で分けたのだろう?)

ガウガウガウガウガウガウガウ

(それで結論だが、あの何も感じなくなる不可思議な空間での訓練で我らは最初こそ魔力を感じることはできなかったが、コツと近いものを感じられたというのが今日の我らの成果だろう。先ほどまでの小僧や小娘の話や様子を見聞きした限りでは、我らももう一度訓練すればスキルが身につくと考えて間違いないだろう。)

ガウガウガウガウ

(しかしこれは我ら年長組だけの話。年少組である子らは〔気配探知〕の訓練は我らが想像するよりも素晴らしかった。どうやらこの訓練の最中に無事にスキルの習得に成功したようだ。)」


こいつらの従魔としての経歴は知らなかったが、どうやら皆が学園出身、皆が野生出身というわけではなかったようだ。まあ、ミーチェに付き従って学園に来たイチもある意味特殊な礼だから、特に驚きはなかったけどな。


そんで、最後の話だが、言われるまで確認していなかったので、成長度合いを確認するうえでも必要なことであると考えて確認を行う。やっぱり他人のステータスを覗ける〔戦力把握〕ってずるいよなぁ。

どれどれ...お!本当だ!あれだけの訓練ですぐに〔気配探知〕を身につける当たり軍隊狼たちも優秀なんだな。

言われてみれば、子狼たちはアルフレッドよりも泥汚れが少ない気がするな。

あ、ミーチェが翻訳したことでアルフレッドがまた崩れ落ちた。どうにか復活したところだったのにすまんな。


俺がそんなことを考えていると、それは違うと言うようにイチからの訂正が入る。人の表情まで読めるのかこのオオカミは。


「ガウガウ

(なぜだか子らに感心しているところ水を差す様で悪いが、おそらく人間が考えているのよりは少し話が違うぞ?)」

「?どういうことだ。子狼たちは優秀ではないってことか?」

「ガウガウガウガウガウ

(うむ、阿呆ではないが飛び切りの優秀というわけでもない。言うなれば普通よりだな。先ほどの訓練で素晴らしい結果を招いたのはおそらく人間のおかげと言ってもいいのだろう。なんでかわかるか?)」


イチが何やら俺のおかげだと言い出したが、いまいちよくわからない。子狼たちが訓練をしている間は、俺はケルク、イシュワルト、メイリーン、とそちらにかかりきりだったので構うことは一切していない。魔道具こそ貸したがそれを身につけたのには各自の努力ということではないのか?


「ガウガウガウガウガウガウガウ

(どうやらわかっていないようなので説明させてもらうが、子らの〔気配探知〕習得における一番の要因は最初に行った格上に歯向かうための根性をつけるという訓練だと思うぞ。あれだけの威圧は我らでも耐えられないのだ。それを子らが受ければ狼特有の危機察知能力で自分以外の気配に敏感になってもおかしくないだろう。まあ、要は人間の訓練の副産物というわけだな。)」

「なるほど、それならやってよかったというべきなんだろうな。――――うん。厳しく訓練させてよかったよかった。」


突然降ってわいた、危機察知能力をスキル習得レベルまで刺激するような威圧をした件。ランニングしていた学生らは俺のほうを見て何とも言えないような表情をしている。もはやドン引きと言っても過言ではない表情だが、俺だって強くしてやろうと思っただけなんだよ。


そんな俺の心情など理解してくれるわけもなく学生たちの冷たい視線にさらされ続ける。そんなときに助け舟を出してくれたのは、ここまで黙って事の成り行きを見守っていたレイアだった。


「はいはい!ちょっと、みんな聞いてちょうだい。みんなの気持ちも分からなくもないけれど、アルだって初めて受け持った特別講義でみんなを少しでも強くしようと頑張っただけなのよ。」


これ以上ない助け舟は、学生の視線を集め、俺への視線はすべてが途切れた。俺はレイアの方に向かって両手を合わせて口パクで礼を言う。

レイアはそれで終わりではないようで少しだけ話し続ける。


「アルも私も冒険者として活動してきて、他の冒険者がなくなるという場面に何度も立ちあっているの。それこそ前日に酒場で仲良く飲んだ人が物言わぬ骸になった場面にもね。それだからこそアルもみんなを鍛えるのに妥協はしたくはないのよ。分かってあげて?」


「「「「「・・・・・・」」」」」

「「「「......ウォフ」」」」


レイアの話にはさすがに言葉もないようだったが、すべて事実なので否定はできない。

俺だって数か月の冒険者生活で何度も見知った顔を亡くしている。もちろんそのすべてが親しいわけでは無かったが、親しくなくとも見知った顔が死ねば悲しい。それが自分が少しでも教えた生徒であれば、きっと尚更だろう。

だから俺はこいつらに厳しくもするし、魔道具などの高価な訓練道具も提供する。死なせないための訓練だと思えば、安いものだ。


「ありがとう、レイア。――――さて、なんだかしんみりした最後になっちまったが、これで二日目の特別講義は終了だ。各々が俺が出した課題に真摯に取り組んでくれてありがとうな。まだ、あと一日訓練をしてからの合宿となるが、頑張ろうな。」

「「「「「はいっ!」」」」」


いい返事だ。


こうして特別講義2日目は幕を閉じた。これで帰路につく俺とレイアだったが、その二人の間にいつものような会話は無かった。


きっと二人して過去に亡くなった友を思い出しているんだろう。

なんとも言えない最後となったが、どうやら俺の面目は保たれたようなので良い一日だった。と締めくくろう。







特別講義3日目でしょう。

明日も投稿します。


拙作を読んでいただきありがとうございます.


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