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第97話 特別講義2日目その⑦

お読みいただきありがとうございます。

毎日投稿7日目。


誤字訂正ありがとうございます。


Sideアルカナ


どうにか訓練を及第点でクリアしたケルクを休憩できる集合場所においてから俺はイシュワルトのもとへと向かう。あとはレイアに任せよう。

ケルクはあの訓練の仕組みにも気が付いたようだし、森へと踏み入れる勇気を出した。俺が見てあいつは一つ壁を超えたと考えている。

合宿にも耐えられるだろうとは思っているが、戦闘において最低でもゴブリンかコボルト程度は倒せるようにはなってもらいたい。ほとんどの特例冒険者でもそれくらいはできるものだからな。


さて、特別講義も終わりに近づいてきたわけだが、イシュワルトはどうしているかね。

俺が与えたヒントを参考にして気が付いたことを実践しているのなら心配はないと思う。まあ、あとはどこまで完成に近づいてるかってところか。一番最初に教えたわけだから、考える時間と実践する時間は十分あったわけだしな。


イシュワルトは俺がさっき見たときにはどうやっても同時発動になることはあり得ない状態だった。まあ、王族だけあって基本はできているみたいなので、教育係か何かに魔導士がいたんだろう。しかし、魔法剣士としてはそれじゃだめだな。


魔法と剣術ってのには大きな違いがある。もちろん剣を振るのと魔法を撃つのでは消費する物も違うし得手不得手なんかも違いはする。

しかし、中でも今回重要な違いは、剣術には準備も何もなく(・・・・・・・)振るうことができるが、魔法には魔力を属性に変化させたり形状を変化させたりと準備が必要(・・・・・)となるということである。


俺はスキルを持っていないので魔法を使うわけではないし、唯一魔法に似ている〔獣王の息吹(キングスブレス)〕でも根本が人間の使う魔法とは違うので、俺の持つ魔法や魔術に関する情報はレイアに聞いたり、依頼で一緒になった魔導士に聞いたりした情報になる。

まあ、それでも、好奇心というか興味が湧いたからそこらのヘボ魔導士よりかは豊富な知識を有しているという自負や自信がある。


それらをまとめると、魔法には、①魔力を練る、②属性を変換、③形状の変換、④発動、という大まかに分けて4つの発動プロセスがある。この魔力を練ったり、属性を変換したり、形状の変換をしたり、という部分が詠唱に当たるようなのだが、たとえ無詠唱や詠唱破棄などの技術でもそれを省略することはできない。魔術となるとまた少し違うのだが、魔術を使える学生などいるわけないので割愛する。


さっきイシュワルトが剣術と魔法の同時発動のために使っていた魔法《ライトボール》の例でも同じことだ。

イシュワルトは詠唱破棄で発動させていたが、それでも準備に時間が必要になる。それがどれだけ早くても、だ。

つまり、剣を振るタイミングで魔法の準備を開始したら、その時点で同じ瞬間に両方を発動するということはできない。


イシュワルトは、さきほど俺と話していた時点で、「ほとんど(・・・・)誤差は無い」と言ったので、何がだめかということに気づきかけていたのは間違いない。低い可能性ではあるが、もうできているかもしれないな。

まあ、そんなにすぐにできるようになるのならば、世の中に魔法剣士が大量発生すること間違いなしだけどさ。


ただ、もしそうなったら、明日は何を教えようか。


***


俺がイシュワルトの訓練している場所まで着くと、周囲の地面がぼこぼこになるほどに魔法を連発したようで、目を閉じ汗だくでへたり込んでいる王子サマがいた。

しかし、血筋もあるんだろうが、こんなに汗やほこりで汚れているのにイケメンだなぁ。まだ13,4なのにここまでイケメンだと将来的にモテそうだ。まあ、今もモテモテなんだろうが。


「うぃーす。また来たぞ~。ずいぶん疲れているみたいだが、そろそろできたかー?」


俺の問かけで目を開けたイシュワルトは慌てて立ち上がろうとするが、俺はその肩を上から抑えて止める。疲れ切った人間を無理に立たせるほどの鬼教官というわけでもないし、もう時間としても無いので無理をして明日の講義に影響するようなことにならないように休ませる。

そのイシュワルトの様子を見る限りでは、まだ剣術と魔法の同時発動は完成していないということだろうが、その顔が悔しそうにしているのを見ると、あともう少しというところかね。はっきりとゴールが見えているのに手が届かなくて無性に悔しいといった顔をしている。


まあ、明日の講義で何をさせるかってのはいらん考えだったわな。さすがの王子様でもすぐに習得するのは難しかったか。とりあえず今日は終わりでいいだろう。この調子なら明日で間違いなくものにできるだろうから、心配はいらなそうだ。

ただ一平民としての俺が心配するのは、イシュワルト=メル=ベルフォードという一国の王子としてここまでうす汚れてしまっているのはいいのかなってことよ。


とりあえず感覚的にどこまで至ったか確認しておくか。


「その様子だと、まだ無理か。でももう見えちゃいるんだろ?あと何歩ってところだ?」

「ええ、感覚としてはもう一歩です。魔力の練りや属性の変換は安定するのですが、形状の変換部分の時間がバラバラで。」

「なるほどなぁ。」


ふむ、イシュワルトが悩んでいるのは、剣術と魔法の発動の時間を合わせることのようだ。まあ、そこが一番重要だが一番難しいところでもある。イシュワルトはおそらく一般の魔導士同様に魔法の形状をその都度決定しているから時間に差ができるのだろう。


国に仕える魔導士や冒険者の中でもパーティーの後衛など魔法のみの役割の者などは、それ以外に集中することがないのでそれでも問題は起きない。

しかし、イシュワルトのような魔法剣士型の場合は武器を振るのと魔法を同時に処理しなくてはならないので専門の者よりも一つずつに時間がかかるし難易度も上がる。


イシュワルトは前者の方法で魔法を構築するのでただでさえ大変な魔法をさらに難易度を上げてやっているようなものだ。

それなら俺が知っている対処法を教えてやれば改善、というか時間の固定化に繫がるだろう。


「なぁ、イシュワルトは冒険者をしている魔法剣士がどうやって魔法を使っていると思う?」

「冒険者の魔法剣士、ですか。えと、この訓練のように魔法の発動のタイミングを自在に変えているということですか?準備の時間を前後させて剣に合わせたりわざとずらしたり、などのように。」

「あー、そうじゃなくてな。魔法だけで考えてくれ。魔法発動までに行う準備段階で専業魔導士とは違うことを行ってるんだが、なんだと思う?」


俺が伝えるべきは魔法を発動するうえでの魔法の準備時間の固定化だ。魔法全体とは言わないでも、魔法剣士は各プロセスでの時間を一定の時間でできるようになれば十分だ。


イシュワルトは少し考えたが答えは見つからなかったようでギブアップした。まあ、〔魔力探知〕があれば実物を見りゃ一発で分かるんだが、今魔法剣士はいないからな。


「ふむ......いや、分かりませんね。実際に見てみないと何とも言えません。」

「まあ、そうか。とりあえず答えはな。形状の変換に使う時間を固めてるかどうかってことだ。魔力を練ることや属性の変換はそもそも同じことをやるわけだから問題ない。イシュワルトもそこはできているだろ?ただ専業魔導士と魔法剣士では形状の変換のとらえ方が違う。

専業魔導士は、場面によって形状を変化させることで魔法をどんなことにも対応できるようにしている。ただ、これだと発動までに拘って時間がかかるため前衛などの盾役を用意する必要がある。魔法の発動準備中の魔導士なんてただの的だからな。

それに対して魔法剣士は形状を変化させずに固定することで発動までの時間を一定にするんだ。自分で身を守れるんだからと言っても魔法は隙ができやすい、それを少しでも軽減するために早い発動、決められた発動を目指す。


つまりな、今のお前さんは前者のやり方で、目指すべきは後者だ。まあ、必ずしもそうだというわけじゃないが、そうすることが近道ではある。

どうだ、わかったか?」

「はい。魔法を撃つだけならば、前者。剣も振るなら後者ということですね。」

「そゆこと。」


大分雑にした俺の説明でかなり理解してくれたようなので、明日には問題なく解決するだろう。イシュワルトの魔力は尽きかけているため、今は休んでもらうしかないのでそのまま集合地点まで戻ってもらう。

俺はまだ、他のやつらの訓練を見に行かなければならないから向こうでレイアに回復してもらってくれ。


「んじゃ、今は十分に休むように。明日もあるんだから、焦んなよ。ケガなんてしたら元も子もないぞ。」

「はい、それじゃ、集合場所で休憩させてもらいます。」


こうして特別講義二日目イシュワルトの分は終了した。明日もあるわけだし、それでだいたい完成まで行けるだろうから訓練が終了したって感じだな。




ふぅ。これで2人目の訓練は終了だな。次は後の3人の内誰のところに行くかって話なんだが...まあ、探知系のスキルの習得を目指すアルフレッドとミーチェ達は後だな。ていうか、終わり次第、勝手に集合場所に戻ってくるように魔道具の稼働時間を調整したわけだから、俺がわざわざ行かないでもいいか。


となると、メイリーンのところに行けばいいのか。彼女は新しいスキルの習得のような難しい訓練をしているのではないため全体として急ぎじゃないわけだが、アルフレッドやミーチェ達が感覚遮断中であることを考えると他に行くところが無くなってしまう。それならば、メイリーンを優先してそれ以外は集合場所で指導するのが最善だろう。


さてさて、武器を決めたかな。


***


メイリーンのところに行くと、そこには俺が用意した武器種の中からいくつかをピックアップして別の場所に分けている彼女がいた。俺の予想通りなら弓を選択しているはずだが、まだ、そこまで決まったというわけじゃないようだ。


今、別の場所に分けられている武器は、3種類。

1つは俺の予想というか希望通りの弓。正確に言うと複合弓、所謂コンポジットボウという奴だ。これは和弓や長弓のような大きいものではなく、馬上や森の中でも使用可能なサイズだ。

多くのエルフが使う弓と同じ型で、たまたま覗いた武器屋で見つけて物珍しさに負けて手に入れたものだ。俺は近中遠距離と大鎌だけで使えるため、特に使いどころなく死蔵することになった。

ただ、エルフが使うだけあって威力や取り回しやすさは申し分ないものだからハーフであるメイリーンも使いやすいと感じたのだろう。


次に2つ目は俺も予想外であったわけだが、蛇腹剣だった。これは俺がルグラにいたころに旅商人が“竜の金鎚”でドヴァルに泣きついて買い取ってもらったという代物だ。明らかな浪漫武器過ぎて扱いに困ったドヴァルが飲み屋で俺に売りつけてきた。

当時は俺も鎌だけではなく他の武器も使ってみるか程度には思っていたのと金にも困らなくなった時期とタイミングがよかった。そして酒の勢いもあってついつい引き取ってしまったわけだな。

ただ、使い手を選ぶというだけで、武器自体は良い物だ。特性を持った武器というのはそれだけで貴重だから、〔伸縮〕という見るからにどういう武器かわかるこれも本来なら貴族やらが買い取ってもおかしくない。

ならなぜ俺の手元にあって俺が使っていないかというと、それは行商人が商売下手だったのと俺が使うには諸すぎるというに他ならない。

どうやら個人向けにしか商売をしていなかったようで、貴族まで話が通らず金額的に平民が買えるものではなかったらしい。

一応伸びた状態で振れば鞭のように使えるので、ミーチェに勧めてみようかな、とか思ってたんだけどね。


最後は、クロスボウだ。いろいろと別名はあるが購入した時の札にこう書いてあったのだからこれはクロスボウだ。

弓と似たものなのでこれもエルフにはいいのかと思っていたが、スキルとしては〔弓術〕ではなく〔弩術〕に分類されるため、エルフが得意な弓とは別物だったようだ。

クロスボウは弓よりも弦が短い分、同レベルの威力を出すには余計に腕力が必要で威力も弓には劣るため、筋力に乏しいエルフには向いていなくハーフエルフであるメイリーンも同様だ。

〔身体強化〕を使うのが前提になるので、飛距離が短い分敵に近づけば近づくほどに〔魔力探知〕で見つかるリスクが高くなる。

そういった点ではクロスボウはお勧めできない。


他にも手裏剣や苦無などもあったので、一つに絞るつもりはないのかもしれないが、だとしてもオーソドックスから奇抜なものまで選ぶ当たり、メイリーンの考えが気になるところだ。


真剣に悩むメイリーンに驚かせないように注意しながら話しかける。俺やレイアは〔探知〕をほとんど常時展開しているから不意を打たれることは少ないが、学生はそうではないので気をつけた。


「おーい。そろそろ講義も終わりに近づいてきたわけだが、遠距離武器は決まったか?」

「あら、先生。ちょうど最終候補まで絞ったところですわ。ただ、どれにするかが難しくて。皆さんのところへはもう回られましたの?」

「ああ。イシュワルトとケルクはもう集合場所まで行ったよ。あとはメイリーンを含めた三人だな。ただ、アルフレッドやミーチェは講義終了直前に魔道具が止まるから 実質あとはメイリーンだけなんだ。」

「そうでしたの。わたくし、まだどれにするか決めていないので、できれば今日中に決定したいんですが、ご助言よろしくて?」

「ああ。何が聞きたい?」


メイリーンが聞いてくれるなら遠慮なくアドバイスできるしありがたい。今選ばれている3つは俺にとっては特に思い入れもない武器なので贔屓も何もない評価ができる。

とりあえずは聞きたいことを言ってもらわなきゃ教えることもできない。


「わたくしが聞きたいのはこれらの武器のメリットとデメリットですわ。わたくしが使う場合もお願いします。」

「なるほど。了解。これらは俺もスキルは持っちゃいないが出来るだけ分かりやすく教えよう。

まず、系統がちがうところから行くと、蛇腹剣だな。こいつは普通の剣とは違ってこんな感じに剣身がバラバラになって中を通したワイヤーでつながる。そんで〔解除〕、こうすると自発的にバラけるわけだ。

使ってみればわかるが、使用感としてはほとんど鞭に似ているな。完全に同じというわけじゃないのは理解してくれ。でもな、こいつのすごい所はそれじゃないんだ。関連しているっちゃしているが、こいつはな、伸び縮みすんだ。すごいだろ?

〔伸びろ〕。こうやってワイヤーを伸ばせば遠距離として使える。それで〔縮め〕。これでもと通り。剣として使える。〔伸縮〕の特性を持たない蛇腹剣は頑張っても近中距離がせいぜいだが、こいつなら遠距離までカバーできる。これがメリットだな。


んで、デメリットは、ワイヤーが伸びた分だけ扱いが難しいという点と、ワイヤーを斬られたら修復できないってことだな。

ただ、剣は鋼鉄製の一般的なものではあるが、ワイヤー部分はミスリルでできている特殊なワイヤーだからそう簡単には斬られないとは思う。高位の魔物相手じゃ使い物にはならないけどな。

あー、あとこれはこの蛇腹剣に限っての話だけど〔伸縮〕の効果範囲はワイヤーに限定されるから、遠くを攻撃するときはワイヤーの先に剣が付いているような形になるから気をつけろってくらいか。」

「〔伸縮〕というのは一気に伸びるんですの?射出して攻撃するという感じでしょうか?また、重さは?」

「そういう使い方もできるな。もちろん徐々に延ばすこともできるぞ。一応魔力を消費して発動するわけだから、使う魔力の量と瞬発力でそれくらいは可能だ。重さは伸びた分だけ重くなるだろうが、そもそもミスリル部分しか伸びないからな、伸ばす長さにもよるが持てなくなるほどじゃないと思うぞ。」

「そうですのね。わたくし、棍棒を片手で持っているので片手だと持てるかわかりませんでしたわ。」


たしかに殴るのが好きなメイリーンは棍棒を別の武器に持ち帰るつもりはないようなので、蛇腹剣を持つのなら必然的に片手で棍棒逆の手に蛇腹剣、というような形になるんだろう。

その見た目はどうやっても貴族令嬢には見えない。

まあ、浪漫武器だけあって、蛇腹剣は扱いも難しいので、棍棒を使うというならあまりお勧めできないな。


「まあ、蛇腹剣はこんなところだ。俺としては二刀流に向いた武器じゃないからおすすめはできないな。

次の武器を説明するがいいか?」

「ええ。よろしくお願いしますわ。」

「よし、次の二つの系統は似たようなものだから、まずは源流の弓のほうから説明しようか。まあ、ハーフエルフのメイリーンには釈迦に説法かもしれないが聞いてくれ。」

「?シャカニセッポー?というのがよくわかりませんが、説明よろしくお願いします。」


やべ、釈迦に説法はふつうに通じないか。特に意識してなかったからつるっと口が滑っちまった。まあ、どうにかスルーしてくれた様なので説明で押し切ってしまおう。


「そんじゃ、弓、と言ってもそこにあるのはコンポジットボウと言われる複合弓だ。エルフ族に人気の弓だが、森の中や馬を代表する騎獣の上での使用に秀でた弓だ。サイズが小さくても素材の性質から長弓にも負けない威力と飛距離を出す。

俺が所有しているその弓は、主軸となる部分にトレントの木材が使われ、それに何かの魔物の角を合成したものだ。かなり古いものなので何の魔物かは調べてもわからなかったがかなり丈夫なのでどれだけ乱暴に扱っても壊れないという優れものだ。

これには特別な特性は無いが、コンポジットボウの特徴として同じくらいの大きさの他の種類の弓よりか威力、飛距離共に上回る。しかし、その分、弦が硬くて引くのに相当な力が必要だ。

まあ、メイリーンには〔身体強化〕があるわけだから、問題ないな。

正直弓は得意じゃないし、ただただ武器を集めるのも趣味みたいなもんだからいろいろ持っているが自分で使うつもりはないんだよなぁ。

弓についてはこんなところかな。あとはお母上にでも聞いてくれ。」

「そうですわね。お母様も他のエルフ同様、弓は得意ですので、今度聞いて見ますわ。」


正直なところ、俺には武器の知識などほとんどない。

ただ、依頼で訪れた町やルグラでこれはと思った武器を集めるのが趣味ってだけで、在庫は大量にある。これでもかなりの速さで昇級するために依頼をこなしまくったので金はあったから散財しまくった結果だな。


話は逸れたが、自分が得意じゃない武器種のことはほとんど語れないのが実情だな。蛇腹剣みたいな浪漫武器は趣味の延長で詳しくなるが、コンポジットボウやクロスボウはどうしても興味が薄いから説明が薄い。


それでもメイリーンが納得して聞いてくれるので、少し安心した。

俺のにわか知識じゃ納得できないかもしれないと不安だったから、メイリーンにはバレないように心の中でホッと胸をなでおろす。


「そんじゃ最後はクロスボウだな。これは弓よりも扱いとしては単純だ。ボルトと呼ばれる短い矢をセットして引き金を引くだけ。これだけの操作で攻撃に移れるわけだが、それをするにも最低限の腕力が必要で、非力なエルフが使うのなら〔身体強化〕は必須で、熟練度もかなり高いものが要求される。弦の強さによって必要な腕力が変わるが、より高威力より高飛距離となると、必要な腕力も比例するように高く要求される。

つまりこいつは人を選ぶ武器だということだ。メイリーンは〔身体強化〕も高水準で使えるわけだから、候補の一つとしてはいいんじゃないか?」

「そうですわね。わたくし、どうしても近接戦闘を仕掛けることが多いんですの。クロスボウなら牽制にも使えると思ったんですが、そこはどうなのでしょう?」


あーそっか。戦闘中は常に〔身体強化〕バチバチなわけだから、非力になる瞬間がほとんどないわけか。それならクロスボウが一番向いている気がするな。牽制っていう点では連射できるような構造のものを手に入れれば結構有効じゃないか?

なんつったっけか。機械弓?だか言うんだっけ?今度探してみるかね。


「世の中には連射に優れたクロスボウもあるはずだから、牽制に使うのはありかもな。片手で使えるかはわからんけど。」

「まあ!それは探してみるのがいいかもしれませんわね。幸い、我が領地は魔の森に接しているおかげで武器は集まるので探してみます。」

「そうしてくれ。とりあえずはその反応的には、クロスボウということでいいのか?」

「はい!」


いい返事だ。こうしてメイリーンが使う遠距離武器はクロスボウに落ち着いたわけだが、どこまで行っても魔物をぶん殴ることに主軸を置いていることを再認識したよ。

武器を決めるのだけで今日の講義は終了かなとも思ったけど、意外に早く決まったことで時間が余った。それなら少しだけスキルの習得を目指してみるか。


「メイリーン。想定よりも早く武器が決まったから、講義終了までスキル習得を目指して訓練してみるか?」

「そうですわね。他のクラスメイトのところへは?」

「イシュワルトとケルクは休憩場所、アルフレッドとミーチェは魔道具で絶賛スキル習得訓練中。俺が行くべき学生は今いないんだよ。」

「それでしたらお願いしますわ。すぐにものにしたいと思ってましたの。」


やる気があるのは良いが、それは明日までの目標、だよな?この後自主練でってことだとしたらかなり無茶を言っているぞ?


俺の困惑をよそにクロスボウとボルトを手にしたメイリーンが〔身体強化〕を発動せずにボルトをセットする。正確にはセットしようとする。

まあ、腕力が圧倒的に足りないので少しも動かない。そもそも俺が引くことを想定したくらいには硬い弦なのだから、素のメイリーンに引けたらドン引きだ。


引けないことに業を煮やしたメイリーンが今度は〔身体強化〕を発動させてリトライする。どれだけ硬くてもメイリーンの強化倍率であれば大丈夫だとわかってはいるが、見た目華奢な女の子が強弓を引く姿は正直びっくりするくらいアンバランスだ。


俺の気持ちはこの際置いといてとりあえず的を取りだそうか。〔骨壺〕にあるのはダーツで使えるような的しかないので、野営で使う薪にしようと思っていた木材を地面につきたててそれに掛ける。そして外した時用に木材の後ろの土を壁になるように盛り上げる。もちろん魔道具を使って、だ。


「さて、これで的の準備はできたわけだが、クロスボウに関係するスキルはわかってるか?」

「はい!弓に似ているので、〔弓術〕ですよね?あとは、〔狙撃〕や〔速射〕などでしょうか。」


エルフの母親に聞いたのだろうか。〔狙撃〕や〔速射〕なんて珍しいスキルを知っていたのは意外だった。しかし、〔弓術〕は間違いだ。


「ブッブー。不正解。クロスボウに対応するスキルは正しくは〔弩術〕だ。〔弓術〕もすこしは影響があるらしいが、〔弩術〕ほどじゃない。これは武器屋の親父に俺が直接聞いた話だから間違っちゃいないと思うぞ。」

「なるほど、それなら両方習得するのが一番ですね。影響はゼロじゃないのですから。」

「まあ、そりゃそうだが、今は〔弩術〕の習得を目指してくれ。的は用意したから、遠慮なくバスンとやってくれ。最初の内は的には当たらないかと思うが、めげずに時間いっぱいやってくれ。」

「分かりましたわ。よ~く狙って撃ちますわ。」


メイリーンって所々一般的とは言えないが、一応お貴族様のご令嬢だよな?根性がありすぎだろ。

普通の令嬢って、「魔物とか怖いですわー」とか「冒険者とか野蛮ですわー」とか「努力ってなんですの?」っていう感じでしょ?

どう考えても普通の枠から外れているわけだが、こっちの方が俺は好ましいと思うね。


メイリーンは25m程度離れてから的に向かってクロスボウを構える。ちなみにメイリーンに渡す前に俺用に整備してあった弦を緩めてメイリーンでも引けるくらいに変更した。

いくら〔身体強化〕が得意と言っても、獅子王面リオウマスク着用での使用を前提としたクロスボウを引けるほどの膂力を出すことは不可能なので、当然の措置だ。


そんなことを考えていると、メイリーンが第一射目を発射した。

バスンッ

という音が響いて、風を切る音と共にボルトが進み、的から右に少し外れたところを通って後ろにある土壁にズンッと着弾する。

クロスボウのボルトは小さいので土壁を貫通することもなく止まった。


まあ、最初の一発は特に想定内だったな。

悔しそうにしているメイリーンには悪いが、そんなに簡単に当たるようなものでもないので、気にしないで頑張ってほしい。


「当たりませんでしたわ!」

「残念だったな。でも結構惜しいところまで行ったんじゃないか?初めて撃ったにしては上出来だろ。」

「そうですわね。でも、次こそは当てて見せますわ!」


そう言って第二射目を番える。第一射目にはあった矢を番える際のもたつきが少し改善されてクロスボウを構えて狙いをつけるまでが早くなっている。

どうやら今度は先ほど右に逸れたことから、左に少し照準を調整して狙いをつけるようだ。一回で準備のコツを掴んだり、照準を調整できる当たり、才能があるのだろうな。もしかしたらエルフってのは弓だけじゃなくて遠距離武器全般に適性があるのかもな。


バスンッという第二射目の音がして余計なことに割いていた思考を的に集中させ、第二射目の結果を確認する。するとカツンという音がした後に先ほどと同じズンッという音がする。

どうやら的の左寄りの上部に掠った後に後ろの土壁に着弾したようだ。二発目で的に当てるとは、さすがに驚いた。

しかし、驚いて言葉が出ない俺とは別にメイリーンはまたもや悔しそうだ。


「十分すごいと思うぞー?」

「いいえ!これでもエルフの血を引くわたくしが射撃で惜しいところで満足してはいけませんわ!お母様に怒られてしまいます。次は絶対に当てますわ!」

「いや、当たってはいるから。」


決意が固いメイリーンには俺の声は聞こえないようで、すぐに次のボルトを用意してセットした。まあ、あの調整で掠るところまで行ったと考えると次にあてるというのも間違いじゃないだろう。

そろそろ、講義の時間も終了なので次が最後の一射になる。心して掛かってもらおう。


「一応、次が最後なー。」

「分かりましたわ!次で当てますので、問題ないですわ!」

バスンッ


そう言ってクロスボウを構えて狙い撃つ。構えてから引き金を引くまでほぼ間を置かずに発射された第三射はまっすぐに的へと飛んで行きガツンと音がして止まる。

音からも分かるがしっかりと的をとらえているボルトに俺は拍手する。パチパチと手をたたく音で我に返ったメイリーンは少し照れくさそうにしながらも片づけを始める。


「これで終了ですものね。こちらお返ししますわ。」

「いや、それは預けておくよ。合宿の終了時に返却してくれればいいから。ボルトも消耗品だから気にせず使ってくれ。」

「それは...ありがとうございます。大事に使わせていただきますわ。」


これで終わりと的と土壁を片づける。メイリーンには集合場所で休憩しているように指示を出し、片づけ終了後俺も向かう。

広げてある武器と的を回収するだけなので、特に時間はかけずに終わった。


さてこれで集合地点まで行くわけだが、アルフレッドとミーチェも戻ってきているはずなので、訓練の成果を確認させてもらおうかな。





次はアルフレッドとミーチェの訓練の成果を確認しましょう。

明日も投稿します。


拙作を読んでいただきありがとうございます.


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