第90話 やっちまった契約
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ブックマーク、誤字報告ありがとうございます。
活動報告にも書きましたが、実は8/31から特別講義の2日目が開始するんですが、そこから合宿の終わりまでは毎日一話投稿しようと思います。
91話からスタートして100話を通過しても続きますので、お楽しみください。
やっちまったー!!!
緊張しすぎてついくしゃみが我慢できなかった!!さっきのレイアの数倍の魔力を流してしまったが大丈夫か!?
俺は恐る恐る学園長の顔色を窺う。これじゃまずいってなったらどうしようか。いや、まだ希望がある。
そうして見えた学園長の顔は、思い切り笑いを堪えている顔だった。
「いやぁ、おもしろいことをするな、君ってやつは。まさかあのタイミングでくしゃみって。ほら見てみろ。卵の方も驚いて契約が完了してないぞ。我の手からはすでに離れたから喋っているが、卵が承諾するまではアルカナくんはしゃべってはならんぞ。」
マジか、イレギュラーすぎねぇか?おーい、卵よ。早く承諾してはくれないか。
そう思いながら卵につけている手とは逆の手でコンコンとノックする。これで反応が無かったらどうしようかと思ったら、突如として卵と俺自身が光りを放ちだす。
これはさっき見たやつだ!と感動していると視界がはっきりとして自分と卵の発光が収まった。
これで完了かな?と学園長の方をみるとうなづいてくれたので、これで声を出してもいいのだろう。
「成功したようでよかったわ。私の時もこんなに光ったのかしら?目を瞑ってたから気づかなかったわ。」
「もちろん同じように光っていたさ。君たちの契約の光は今まで見たことないほどに強かったよ。まあ、なんにしても無事に終わってよかったじゃないか。おめでとう。」
「ありがとう。」
レイアの卵は発光が収まった時には色が白から黒へと変化していたのだが、俺の卵は見た目の変化は無く、いったいどうしてだろうか。
「ん?ああ、卵の色かい?それは契約者の属性が関係しているんだ。すでに幼体以上の場合はこんなことはないんだけど、卵の状態で契約すると主人側の魔力を契約に使うからかその色に染まるんだ。
レイア君は確か〔全属性魔法〕を持っていたはずだね?全属性ってのは混ぜると黒になるんだよ。飛竜の場合は殻の色でだいたい鱗の色が決まるから。おそらく黒飛竜が生まれると思う。」
「黒飛竜って闇属性なのか?」
黒って闇っぽいよな?全属性の魔力なのに闇が一番前なのか?
「ああ、よく勘違いされるんだけど、闇属性竜は紫色で、黒というのは全属性を示すんだ。だから黒い鱗の竜は珍しいとされている。レイア君も賊には気をつけてくれ。」
「なるほど。」
「ええ、気をつけるわ。」
じゃあ、俺の方はどうなってるんだろう。全く色の変化が無いんだけど。俺は獅子王面を装備していないときは属性が無属性ってことだろうか。学園長に聞いてみるか。
「アルカナくんの場合は確かに無属性のようだ。無属性って言うのは珍しいけど、いないわけじゃない。この国じゃないけどSSSランク冒険者にもいたはずだし、身体強化などの体内循環系の魔法が向いている属性だ。」
確かに〔身体強化〕が得意ではある。他の魔法はマスクを使えば使えなくはないが、生身じゃ使えない。つまりはそういうことだな。
無属性だから、卵も変化は無い。それでいいや。
「もちろん契約時のメリットは無属性にもあるよ。属性アリの場合は従属側も属性の影響を受ける。だけど、無属性の場合は魔力を増強するんだ。正確には増強した魔力で強い身体を作るというのが正しいんだけどね。」
「なら、今の時点で魔力を多く与えたのは間違いじゃないってことか?」
さっきの俺のミスはミスじゃなかったかもしれないぞ?
しかしそんな俺の期待はすぐに打ち砕かれた。学園長はその答えを知っていたようで、俺にとどめを刺しに来た。
「いいや、アレは正直普通だったらミスと言わざるを得ないよ。あのタイミングで消費する魔力が今後の契約を維持するのに毎日使われる魔力なんだ。これから毎日同じだけあげなきゃいけないよ?
あんなに多くの魔力では普通だったら賄えないよ。ただ、アルカナくんは見たところ魔力も豊富だし、問題は無いだろう。それなら考えている通り従属側の強化に使えるよ。」
まあ、小難しいことはおいといて、強化できるならいいや。魔力も最悪、本体が使いきっても獅子王面で補えばいいし。
とりあえず今わかっているのは、体が丈夫な獣因子と竜か龍の因子を持った魔物が生まれるということだけ。それで十分だし、楽しみに待つさ。
「とにかくこれで我からの願いは完了だ。欲を言うのであれば卵が孵ったら報告してくれるとありがたいってことくらいか。まあ、時間ができたらきてくれよ。」
「もちろん寄らせてもらうが、どれくらいで孵るかわかっているのか?それによっては依頼先まで持っていくことになると思うんだが。」
「そうね、さすがにこのサイズを持って歩くのは難しいわ。ひと月ふた月なら王都近辺でごまかしながら依頼を受けることができると思うけど、それ以上となると遠出しなくてはならない案件も出るかもしれないのよ。」
俺たちは今は誕生祭や授与式、学園での特別講義と王都の外に出るようなことをしていないが、本来は、いろいろな場所へと動き回るSSSランク冒険者とその居候だ。
ずっとここにいるわけにもいかない。
「安心してくれ。孵化まではそうかからないはずだよ。君達であるなら大丈夫だと考えて、通常では考えられないほどの魔力を契約時に使ってもらったからね。さらにそれより流されたのは驚いたが、まあ、長くてひと月といったところかな。
アルカナくんにいたっては一週間から十日ってところじゃないかと思うよ。」
込めた魔力の差で考えたら、俺の方が倍以上に早いのか。まあ、一体に集中できると考えればそう悪いことじゃないのかもしれないな。
レイアも同じ考えの様で、頷いてくれた。
「普段は屋敷にでも置いておいて魔力を朝か夜に込める感じでいいさ。孵化は前兆があるから気が付くと思うよ。」
「それから調整しても良いわけか。それなら何とかなりそうだ。」
「そうね。手間もかからないようでよかったわね。」
これで本当に学園長との話し合いは終了だ。これ以上は特に話すことがないので次に対面することになるのは合宿が終了した後の報告とその翌日の誕生祭だから、4日か5日は会うことがないはずだ。
それまでに孵ることはないだろうが、イレギュラーを起こしてしまった手前ちょっとだけ心配だ。
ただレイアは気にしていないのでこれ以上は言わないほうがいいな。俺だけが心配し続けるというのも、ね。
「それじゃ、お暇しましょうか。明日も講義があるわけだし、準備もお互いにあるでしょう?」
「そうだな。」
「ああ。気をつけて帰ってくれたまえ。ビャクエンくん二人を門まで送っていってあげなさい。」
「ウキィ!」
先ほどまで黙って待機というか、遊んでいたエロ猿、元い、ビャクエンがこちらにきて敬礼する。
調子がいいことこの上ないが、正直な話、ここでいろいろあったおかげでここまで来る道のりを全く覚えていないので、この道案内はありがたい。
ビャクエンもずっと暇だったのか役目を与えられてどことなく嬉しそうだ。
「ウキキィ!」
「それじゃ。」
「失礼するわ。」
最後に軽く挨拶した後に俺たちは研究室を退出し門に向かって猿について行く。すでに時間はかなり経過していて、日が落ちてしまっている。
学園の中は魔道具の光があるため問題ないが、外は暗いはずだ。
さすがに真っ暗な中歩いていたら余計なトラブルを引き寄せかねないので光を灯す魔道具の準備をしておく。
門までは特に問題なく到着したので、ビャクエンに別れを言って夜間用に作られた人間サイズの扉をくぐり門の外に出る。
***
しかし、門の外で俺を待っていたのは、予想に反して明るい大通りの賑わいだった。
これだけ明るいというなら教えてくれればいいのに、とレイアの方を向くと、まるでいたずらが成功したかのように良い笑顔で俺を迎える。
「どう?すごい賑わいでしょ?城下祭に向けての準備は夜遅くまで行われるから、運営本部が各所に光の魔道具を設置してくれるから、この時期は王都が通常よりも明るいのよ。」
確かに。こりゃあ、すごいや。
昼間見た賑わいもすごかったがこっちもすごいな。昼間の賑わいはいろいろな場所で城下祭で使われる仮説の建物や舞台など、さらには屋台などの飲食系の準備が行われ、全体的に賑わっていた。
しかし、夜は夜でその賑わい方も一味違く、辺りが暗いことからも光の魔道具に群がるように人が集中して一か所ずつ賑わいながら作業しているようだ。
どうやら夜の部は準備と並行して屋台などの予行が行われているようで、準備をしながらも食事を楽しんだり酒を飲んだりと楽しげだ。
これで問題が起きたりはしないのだろうか。酒を飲むと人間は気が大きくなり普段では考えられないようなことを口走ったり、暴力的になったりとすることがある。そんな人間が暴れたりしたら危険じゃないか?
「何か買って帰りましょ?屋台で食べていってもいいし、屋敷の使用人たちにもお土産を買っていきましょうか。それに必要になるかも。」
「了解。」
レイアはそんなことお構いなしに屋台の方へと向かっていく。まあ、俺らに突っかかって来る様なやつはいても特に問題は無いか。
SS(S)ランクとSランクの組み合わせに突撃するなんてよほどの馬鹿しかいないだろうしな。
必要になるってのはどういうことかわからないが、置いてかれない様に急ごう。
城下祭の準備段階だというのに結構な数の屋台が出店していることに驚きながらも冷やかして行く。
いや、冷やかしているのは俺だけか。レイアは見る屋台すべてでそれなりの量を購入しているのだが。
まあ、俺たちは収納系のスキルがあるのでそれでもいいのだろうが、正直なところ俺はそれをしたくない。だって、俺の〔骨壺〕はマスクに加工してあるとは言えど死体が入ってるんだぜ?そんなところに一緒に入っていた食べ物を積極的に食べたいと思うか?
「どうしたの?依頼の最中に食べるには持って来いなのよ、屋台飯って。ここで確保しておけば、長期の依頼でそこそこの距離を旅しなければいけない時でも補給を最低限にできるから、おすすめよ。」
そんな風に進めてくるわけだが、俺が乗り気じゃないと気が付いて理由を聞いてくる。俺が素直に理由を話すとレイアは盛大に笑い飛ばす。
「アハハハハ、アルってば意外に繊細なのね。私なんてそんなの気にしなくなってかなり経つわよ?それだったら私なんて、〔血液棺桶〕、ほら血液の箱よ?」
「確かに、言われてみれば俺よりも直接的だったわ。ふむ、気にしすぎだったかもしれないな。」
「そうよ。さ、物資補給よ!」
「おう!」
気にしていたことが小さいことだったと気づかされた俺のその後の行動は決まっていたようなものだった。
レイアと一緒になって屋台飯を買いあさる。
俺も忘れていたことだが、〔骨壺〕は実は種類ごとの個数制限というものがなく、1魔力で1種類という超コスパがいいスキルだったみたいだ。俺の魔力はどんどん増えているため、もはや制限がないのと同じだと気が付いた時は雷に打たれたような衝撃が走った。
もしかしたら、転生してから得たスキルの中でも〔骨壺〕が一番のチートだったかもしれないな。
ここからはレイアとは二手に分かれて屋敷で半分こにすることになった。
「あいらっしゃい!」
「今あるだけ全部ちょうだい。」
「あいよ!...あいよ?!本当にいいんですかい?結構な量になっちまいやすぜ?」
「大丈夫。チャリン」
「!!?あいよ!」
俺のいきなりの大量注文に驚きつつも懐から金貨(100000円相当)を数枚見せることでどの店主も即座に対応してくれる。
屋台であるだけ全部、なんて言う注文をする客は普通はいないんだろう。俺がそう言うと大体の店主が聞き返してくるからね。
客がそうやって注文しているんだから聞き返すなとも思うが、実際それで用意して対価が払えないとなったら店側が損するわけだからしょうがないか。
「あい、お待ち!えっと、お代は、5000セルだよ!」
「ほい、大銀貨5枚ね。」
「えー、あい!ちょうど頂きやした。またのお越しを!」
どの屋台でも100個から150個くらいのストックが置いてあって、それらを買い取るのはどこも大体、大銀貨5枚。大した出費じゃないけど、すでに20件くらいは買い占めているので、総額で言ったら金貨10枚ってところか。
これくらいでいいか。
よし、レイアと集合して帰りましょうか。実は俺たちは研究室を出てからずっと卵を抱えている状態なので、この夜の人込みの中ではずいぶん目立つ。
先ほどから俺の卵をかっぱらおうとスリや強盗などが寄ってきているためそれを交わしながらもレイアを探していく。こんな形で魔物の卵が貴重だと思い知ることになるとはね。
〔気配探知〕で大きな気配を探っていくと、昼間見たのぼりの前で、大きな気配を見つける。遠目から確認するとそれはレイアではなく、一人の大男だった。
その男が見ているのぼりは、
『ガンツ様ようこそ、そしておめでとう』
と書いてあるので、十中八九本人だろう。ずいぶんいかつい顔からは想像できないだろうが、そののぼりを見て涙を流している。
孤児たちが作っているところを想像して泣いているのだろうか。体格や顔に似合わず優しい男なのかもな。そんな男は放っておいた方がいいだろうと来た道を引き返し、レイアを探す。
あいつのほかに大きな気配はもう一つしかないのでそれがレイアだろうと確信を持って向かう。
本当にレイアであったのだが、レイアは器用に卵を抱えた状態で、さらにたくさんの屋台飯を抱えている。収納してしまえばいいのにと思うのだが、どうやらそうしたいが卵が邪魔でできないようだ。こちらを見て寄ってくる。
「アル、ちょっとしまうから、卵を持っていてちょうだい。仕舞ったら帰りましょう。」
「あ、ああ。それにしてもどうしてそんな状態に?」
「時間がもったいないと思って、たのむだけ頼んで、回収して回っていたら、仕舞う暇がないくらいに立て続けに渡されてね。困ったわ。」
アホだ、アホがここにいる。
考えればどうなるかくらい予想が付くだろうに天然なやっちゃ。知り合ってから結構な期間一緒にいるけど、完璧美女ってわけでもないんだよな。
さて帰りますか。
あ、屋敷に帰ってからの品物の交換会は圧倒的に俺の品数が少なくて最終的に恵んでもらう形になっちゃいました。
いくらかは使用人にも配ったけど、相当な量の屋台飯の確保に成功した。
さ、明日の準備して寝よ寝よ。
Zzz…zzz…
Zzz...
特別講義2日目でしょう。
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