第89話 学園長の依頼
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学園長がとりだしたのは卵だった。
見た目は普通の思い浮かべる卵とは違い、緑系統の迷彩柄とでもいえばいいのか、要は草むらで保護色の役割を持ちそうな色合いだ。大きさも小型犬サイズはある。
「これは?何かの卵みたいだけど。」
レイアにもわからないのなら俺が知っているわけもなく、学園長が何かを教えてくれるのを待つしかない。
変に溜めてから言うようなら手が出てしまうかもと思ったが、学園長も早く話したかったようで、すぐにぺらぺらと話し始める。
「よくぞ聞いてくれた!これはね今回、我が国王陛下の依頼で出かけた先で手に入れた魔物の卵なんだ。
実は今回の依頼は、ある貴族の領地に居座る魔物を排除するというものだったんだ。その魔物自体は退治してもテイムして配下に加えてもいいとのことだったので、遠慮なく配下に加えさせてもらったんだ。
でもその時にわかったことなんだけど、そいつは子供を孵すためにそこにいたみたいで卵を四つ抱えていたんだよ。」
テイムしたあたりの話を詳しく聞かせてもらいたいものだが、学園長は早くこれの話に行きたいようで、うずうずしているのか止まることなく話し続ける。
「それでね、その卵も我の所有物として持って帰っていいってことになったんだ。
そもそもその領地は帝国との国境に近いところでね。ムリニール伯爵家のごたごたに巻き込まれる形で、国から監査が入った辺境伯爵家だったんだけど、あ、もちろん潔白だったよ?
国を他国から守る辺境伯爵家が、帝国とつながっているただの伯爵家なんかと仲がいいわけないから、形式的な監査だけだったんだ。
その後には国側として監査する側に回ったみたい。その功績で没落した貴族家の領地を貰ったりしたんだけど、魔物が居座っていることが判明してね。与える領地に魔物が居座っているというのも良くないって国王陛下が我にご依頼なさったんだ。
いざ、現場に行ったらその魔物が、まさかの飛竜でね。しかも珍しく体の大きな個体だったから予定通りテイムしたんだ。
それで見つけたのがこの卵他3つってこと。飛竜があんな草原で卵を抱えていることが珍しいのに、さらにそれに加えて珍しいことに飛竜だけじゃなかったんだよ、その卵!」
そういって今度は色だけは白い普通の卵と同じで大きさがこれもまた小型犬程の卵を3つ取りだした。大2、中1って感じだ、
話の流れ的にどちらかが飛竜で、どちらかがそうじゃないんだろうが、そこら辺の知識が乏しい俺にはどちらがどちらか全くわからない。
「飛竜が3つも卵を産んだことにも驚きだけど、それ以外にも別の種類の卵を抱えているのはさらに驚いたわね。」
そっか。レイアは最初の卵の正体はわからなくても飛竜の卵は知っているみたいだ。これらの卵の違いは色合いの一点のみだけどそれが大きな違いだもんな。
「そうなんだよ、さすがにレイア君はわかってるね。我もそれには驚愕としか言えなかったよ。我も飛竜は何頭か配下にいるが、2つ以上の卵を産んだ個体は初めてだった。
で、本題なんだけど、アルカナくんかレイアくん、この卵、育ててみないかい?」
「「は?」」
二人して少し唖然としてしまったが、それもしょうがないだろう。まさか、卵を育てないかと提案されるとは思わなかった。
レイアも同じで、何を言われたか理解に苦しんでいるようだ。
「もちろん、この卵はそのままあげるし、この卵を育てないほうには、飛竜の卵をあげてもいいよ。......実はね、飛竜の卵は2つはテイムした飛竜のものなんだけど、この緑の卵とこれはどうやら、たまたま巣にした場所にあったみたいなんだ。」
中サイズの飛竜の卵を触りながら話す学園長はどこか楽しそうだ。
「そんな偶然があるとは信じがたいけど、あったからね。親飛竜を移動させたら、再び温めるつもりはないって言われちゃってね。自分の卵だけで十分だってさ。
だから、引き取ってくれるとありがたいんだよね。緑の卵に関しては我でもテイムすることができないしね。」
そんな事情があるとは。現実にそんなことがあるんだなぁ、と考えていた俺とは反対にレイアはその話の違和感に気が付いたようだ。
「親飛竜が育てないと言っているのはわかったけど、あなたが卵の状態でテイムできないというのは納得できないわ。」
「あ、そっか。」
レイアは学園長が実力のあるテイマーであることを知っているからテイムができないことに違和感を感じているようだ。
俺も気になったけど、たぶんこういうことだろうというのが分かったから特に疑問に思わなかったな。
学園長も自分の失態に気が付き、何が面白かったのか、含み笑いを堪えながら訂正する。
「プクク...カカッ、っと悪いね。そう言えばレイア君には我が配下を見せたことがなかったかもしれないね。見せても数種類、それじゃ気づかないのもしょうがないな。いい機会だし教えてあげよう。教えてしまっても問題ないことだからね。
実は我の〔従魔術〕は特殊な進化をしていてね。〔万能従魔術〕というスキルになったんだ。
これの良い所はテイムに適性が必要なくなるということなんだ。理論上はどんな魔物でもテイムができる。ずいぶん素晴らしいスキルだと思うだろ?ところがそうじゃない。
良いところがある反面、悪いところもあるのさ。それはね、テイムができない種類が存在するんだよ。理論は理論ってことさ。
例えば、我がよく感覚共有しているステルスクロウと土竜の違いが分かるかい?ステルスクロウはテイムできて、土竜はできないんだけど。」
学園長が出した選択肢は、俺とレイアが出会ったことがある魔物を選んでくれた様で、容易に想像ができる。
ただ、それでもレイアはわかっていないようで頭を悩ませている。このまま分かるまで待ってもずっと時間が経過するだけなので、早々に俺が答えを言ってしまう。
「因子の数だろ?」
「そう!大正解だよ、アルカナくん!いやぁ、よくわかったね。〔万能従魔術〕では2つ以上の因子を持つ魔物のテイムはできないんだ。まあ、因子が何かって言う肝心なことはわかってないんだけどね。
例に出したステルスクロウは鳥系の因子が1つで、土竜は獣系と竜系の因子が2つの魔物なんだ。僕は前者はテイム可能だけど後者は不可能。
これでわかったかい?」
「なるほど、よくわかったわ。それにしてもアル、よくわかったわね。」
「ああ、うん。ガンバッタ。」
俺がわかったのは学園長のステータスをがっつり覗いたからなんだがな。レイアにはばれているみたいだけど。
とにもかくにもこれで学園長が俺たちに卵を譲る理由がわかったわけだ。
「これで納得してくれたかな。ほんとは我がテイムできるならそのまましてしまいたかったんだが、現実はそうはいかない。それなら我が学園で教鞭を取ってくれる特別講師に追加の報酬として挙げてもいいかなぁと思ってね。
ああ、飛竜の卵に関しては、一人では不公平だからってだけだよ。他に意味はない。」
「それじゃあ、遠慮なくって、その前に結局なんの卵なんだ?」
「ん?ああ、忘れていたよ。それは僕にはわからない。わかるのは因子だけさ。」
「鑑定してもらったんじゃないの?」
「我は鑑定はしない主義なのさ。卵ってのは生まれるまでわからないからこそ、面白いのさ。君たちに飛竜の卵を譲るのも何が生まれるかわかってしまっているというのも理由の一つだね。」
面倒な主義だな。人に譲る分くらいしておけよ。
それなら俺が見てみるかとやってみても、卵の段階では戦力扱いされないらしく、反応しなかった。
レイアの表情も諦めているような色が見えるので、これ以上はどうしようもないか。
もらえるものはもらう主義だし、このままもらうのは確定だと思うけど、どうやって従魔にするんだろうか。俺もレイアも〔従魔術〕は持ってないぞ。
「わかったわ。もらえるならもらうし、礼を言うけど、どうやってその卵を従魔にするのよ。私たちは〔従魔術〕なんて持ってないわよ?」
良かった。レイアも俺と同じ疑問を持っていたようだ。俺が無知なわけじゃなかったみたいでホッとしたわ。
「カッカッカ、安心したまえ。我が〔契約魔術〕を所持している。この魔術なら他者同士の契約を代行できる。まあ、その場合代行してもらったものは従魔契約を追加するときは我が再度契約を結び直さないといけないがね。」
そう言えば学園長はそんなの持ってたね。忘れてたわ。
これで、この卵を従魔にすることが可能だとわかったわけだが、どちらがこの緑の卵で、どちらが飛竜か決めなければいけないわけだ。
「そっか。――――じゃ、どうするよ、レイア?飛竜かこの緑か。ちなみに学園長、そのわかっている因子ってなんなんだ?学園長がテイムできないなら、複数持っているんだろ?」
「そうね、飛竜と比較するにしてもこっちの情報がないもんね。」
「そう言えば教えるのを忘れていたな。我としたことが失礼した。ふむ、この緑色の卵の持つ系統因子も、うむ、獣系統と竜系統だな。いや、これは龍系統か?ともかくそういう感じだ。」
「ありがとうな。」
獣と竜か。んー、迷うな。これはレイアに先に決めてもらったほうがいいかもしれない。俺はこういうの一生悩んでいられる人間だったかもしれない。
「レイアが決めていいぞ。俺が考えてたら文字通り日が暮れちまう。どうせ選んだとしても隣の芝が青いのは変わらんと思うし。」
「そう?それなら遠慮なく決めさせてもらおうかな。私の屋敷はランク相応に広い庭を持っているしニウさんに言って厩舎を作れば管理まで彼らがやってくれるから2匹とも貰うでいいと思うけど、どうしようかしら。」
確かに広い庭を持っているが、庭の管理をしているニウさんに従魔の管理まで任せるつもりか。......いや待てよ、もしかしてそっち方面もイケるとか?だとしたらすごいな樹人。
「こちらは飛竜が確定している分、空を飛ぶのが確定でしょ?移動が楽になるわね。正直なところニピッドでユーゴーが飛んで行った時、羨ましかったのよね。さすがの私でも飛ぶのはできないから。」
レイアさん......あの時あなたはそんなことを思ってたのかい!
あの時はあなた、何も感じてないような顔してたじゃないすか。空飛びたいなら、大型の鳥系魔物ひっ捕らえてマスク化して飛びますやん。言ってくださいよ。
「それで、こっちは、何が出るかわからない。けど、獣と4つ足の竜もしくは蛇みたいな龍の因子を持つ魔物である、と。4つ足か蛇か、形態は分からないわね。
うーん、実は私、蛇のような長いやつ苦手なのよね。対峙するのは別にすぐに始末できるから平気なんだけど、冒険者が従魔にしているのでぎりぎりアウトだから龍だとするとちょっとねぇ。」
へぇ、そうなんだ。レイアにも苦手なものがあると知れて何よりですわ。でも対峙しても平気なのに味方だとだめってずいぶん殺伐とした残念なものですな。
てか、レイアの言葉から察するにもはや決まってない?
「決めたわ!飛竜にするわ。やっぱり蛇の可能性があるならこっちの緑のは遠慮するわ。アルが従魔にするといいわ。あ、蛇系だったら王都では馬屋に預けてね。あそこは大きい従魔の預かりサービスもやってるから。」
「お、おう。」
無事に決まったのはいいんだが、どうか蛇みたいなのでないことを願おう。せっかくの従魔が離れ離れとかさすがに辛いわ。
よし、竜であれと念を送るぞ!
竜~、竜~、あそれっ竜~。
「て、ことで、決まったわ、学園長。」
「見ていたけど、アルカナくんはしっかり居候しているんだね。」
俺が念を送っている間にレイアが学園長に話しかけるが、学園長!それはいったいどういう意味なのかね!?もしや、立場が弱いことを指してますかな?ええ!そりゃもう激弱ですよ。何か問題でも?
まあ、レイアは俺の意見も聞いてくれますし?普段時間があるときに屋敷内でお手伝いするくらいで許してもらってますので文句はありませんよ?
「.........なにか?」
「いや、何でもないよ。それじゃあ、契約を始めようか。」
なんか含みがあるような気がしないでもないが、無事決まったのでいいでしょう。
さて、これも普通にレイアの卵の方からやってもらおう。どっちからでもいいけど、何と契約するかわかっていたほうがいいだろう。
「さて、それじゃあ、レイア君。君とこの卵の契約を行うわけだが、契約したからといってすぐに孵化するわけではない。ここから君の魔力を少しずつ吸うことで孵化までに君をパートナーだと理解するようになる。では行くよ?」
「ええ。」
学園長が魔力を解放した状態でレイアの肩と卵に触れて言葉を紡ぐ。レイアも卵に触れており、恐らくその腕を魔力のパスとして契約に移るんだろう。
「<我はアーノルド=スクルボスの名で、レイア=ブラッドレイと汝の契約を代行するもの也。レイア=ブラッドレイが捧ぐは魔力、汝が求むるも魔力。双方の意思はここに締結せん。従属せよ、《契約》」
これで完了か?と思っていたらどうやらそうではなく何かをしろとレイアに伝えようとしている。事前に伝え忘れたんだな。
たぶんあれだろ。
「レイア!魔力流せってことじゃないか?」
「!そうね。うん。そうみたい。流すわね。」
しきりに頷く学園長は俺のほうを見て何度も頷いてくる。忘れたのはしょうがないから、一回やめてもう一度やればいいのにな。
まあ、レイアが魔力を流したことによって魔力のパスがつながりこれで完了したようだ。レイアと卵が発光し、実にまぶしい。
光が晴れると、どこかホッとした様子の学園長と満足そうなレイア、そして色が変わった卵がいた。
卵は黒い殻になり、どこか先ほどまでよりも存在感が増している。
「いやぁ、悪い悪い。工程を教えておくのを忘れていたよ。でもうまく行って良かった。アルカナくん、ナイス!」
「ナイス!って一度中断すればよかったんじゃないか?」
「あー、一回中断すると、同じ相手とは従属契約ってできなくなるのだよ。」
ピキ
?あっ。一瞬だけ卵が孵化するのかと思ったわ。ただ学園長のすっとぼけ発言にレイアが切れただけか。額に青筋が浮かんでるわ。
一気に部屋の温度が下がったような気がするが、気のせいじゃないな。退避退避。
「ちょっと、覚悟しなさい?」
「いやぁー、ちょっと待ってくれないかね?特別講義の報酬増やすから、許してくれないかな?!」
「それだけ?」
「あー、冒険者ギルドには内緒で従魔の餌の魔石を1年分届けるよ。」
「......厩舎立てて」
どさくさに紛れてずいぶんな要求したな。厩舎を立てろって最初の報酬を増やしたので立てろって意味じゃないか。
「あの、報酬増やしてそちらを使ってく「あ?」だ...いえ。わかったよ。」
「ほんと?ありがとね♪」
ほらね。ってか折れたわ。学園長もあのレイアには勝てないか。そんでまた、レイアのあの移り変わりが恐ろしさを増幅させるな。
まあいいや。とにかくこれで今度は俺の番だ。
従魔というか、騎獣がほしくて馬屋には絶対行こうと思ってたから、思わぬところで手に入ることになってワクワクが止まらない。
ただ願わくばにょろにょろとした見た目だけは回避してほしい。
ま、孵化までは当分先のようだから今は気にしなくていいか。
「おほん、うむ。それでは気を取り直して次はアルカナくんの契約をすましてしまいましょう。飛竜はそれだけでBランク程の魔物だが、この卵の方は正直に言ってどれだけの物が出てくるか予測できない。
竜の因子を持っているのであれば、あまり戦闘向きじゃないのが出ることはないと思うが、万が一ということもある。戦闘に不向きだとしても大事にしてやってくれ。」
「ああ、もちろんさ。」
たとえ戦闘が苦手で依頼に連れていくことができないとしても自分が庇護することが決まった時点で仲間だ。しっかりかわいがってやるさ。
俺は魔物の系統の中で苦手なものはないし、なんでもどーんと来いってもんだ。
「さ、早くやろう、学園長。」
「ははは、待ってくれたまえよ。先ほどのレイア君の契約で魔力をかなり使った。魔力回復ポーションを飲むから待ってくれ。」
「確かになぁ。ずいぶん魔力があふれてたし、しょうがないか。」
ぐびぐびとポーションを飲む学園長を尻目に俺は最後のお祈りタイムだ。
レイアが苦手だからという理由でニョロニョロはNGになってしまった。どうにかしてレイアも平気な見た目をお願いします!
先ほど同様手を合わせて心の中で、竜を呼ぶ祈りをささげる。
竜~、竜~、あそれっ竜~。竜~、竜~、あそれっ竜~。
...............
............
.........
......
...
何度同じ言葉を連ねたかわからなくなった頃に学園長がポーションを飲み終わる。今更ながら、元気そうにしているし実際に元気だとしてもすでにじじいの学園長にポーションを一気飲みさせたのは、ひどかったかもしれない。
年寄りはいたわらなきゃ。
「よし、これで我の準備は完了だ。アルカナくんも祈りは済んだようだし、やろうか。こちらへ来てこの卵に触れてくれ。あとはさっきと同じだよ。」
「了解っと、これでいいか?」
「うん。それじゃあ、お静かに。」
先ほどと同じように今度は俺の肩と卵に手を当てて言葉を紡ぐ。今度は先ほどとは違って魔力を流すタイミングはわかっているので下手なミスはしないだろう。
「<我はアーノルド=スクルボスの名で、アルカナと汝の契約を代行するもの也。アルカナが捧ぐは魔力、汝が求むるも魔力。双方の意思はここに締結せん。従属せよ、《契約》」
こちらを見る学園長。ここが魔力を流すタイミングか。良し、やるぞ。
せーの
「ぶえっっくしょいっ!!」
あ、やべ。
卵の無事を確かめましょう
拙作を読んでいただきありがとうございます.
「面白い」「続きが読みたい」「人外モノっていいよねb」
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