第87話 総評からの
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そして、お気づきの方もいらっしゃると思いますが、サブタイトルの仕様を変更しました。
少し離れた場所に待機していた他のみんなに集まってもらったところで、レイアの方をちらりと見るとミーチェの従魔たちに光魔術による回復を行っている。模擬戦では血を流す様な攻撃はしていないので、せいぜいが打ち身やねん挫と言ったところだが、レイアのように回復できる者がいるのであれば回復させない理由が無い。
この場にいるほとんどが貴族か貴族の関係者だからな。下手に傷を残すのはいらない軋轢を残すことになりかねない。
レイアが最後に今回模擬戦をした中では一番軽傷だったイチの治療を終えてこちらへとやってくる。ミーチェの従魔たちも考える頭があるわけだから、俺の話を聞いておいて損はない。まあ、俺の話を聞ける範囲にはいたわけだけど。
「よし、みんな揃ったところで、俺の今日の講義の最後の締めくくりとして総合的な評価をしておこうと思う。」
「「「「「はい」」」」」
「ウォン」
学生たちはもちろんいい返事を返してくれたし、イチも軍隊狼を代表して一鳴きしてくれたので話し始める。
「よし、それじゃあ総評として今のお前らに言うべきことを伝えよう。
――――――お前らは、弱い!」
「「「え!?」」」
「は?」
「はい」
「「「「「「「「「「クゥーン」」」」」」」」」」
俺が彼らに伝えたいのは、彼ら全員がまだまだ弱いということだ。
これを聞いた学生たちは各々の反応を見せたが、驚いている3人と若干いら立つ1名、素直に受け付ける1名、うなだれる10頭とわかれた。
驚いたのは、ミーチェ、メイリーン、イシュワルトの3人。彼らは自分に自信があったのか、そんなことを言われたことがなかったのかもしれない。
言われて数秒した今も納得がいかないのか、ただ目を瞑り次の言葉を待ったり、首をかしげて考え込んだり、イチたちを撫でたりと三者三様の反応である。
撫でられているイチやサンらもシュンとしてしまって、軍隊狼の精悍な顔つきはナリを潜めて、叱られた柴犬のようだ。かっこいい寄りだった顔つきがかわいく見えるのだから不思議なものだな。
また似たような感じで自信があって驚きよりも怒りが感情として表に出たのはアルフレッドだ。
すこしは俺のことを先生と認めてくれたようだが、だからと言って甘やかす様な俺ではないので、事実は事実として告げさせてもらう。
今もにらんできているが、別に怖くもなんともないので、無視だ無視。もう少し貫禄と実力をつけてから出直して来い。
最後に予想外の反応というか、逆に予想通りというべきか悩むのがケルクだ。こいつは俺の発言をもっともだとして受け入れやがった。
この年齢で自分が弱いと断言されることを受け入れるというのはそれなりに難しいことのはずなんだがな。今もしきりに頷くように首を上下させ俺の次の言葉を待っている。
確かにこの場にいる学生の中ではケルクが一番自分の実力というものを理解しているように感じた。というのも探知能力が飛びぬけて優秀であることがその理由だろうと思う。
一般的には多くの人が〔鑑定〕を持っていないわけだが、そんな中で気配の大きさや魔力の多さ、生命力の大きさなどから、この場の誰よりも自分が劣っているということを理解してしまっているのだろう。
それ自体は事実だが、レベルの関係もあるのでそこまで悲観するようなことではない。
どうせ合宿ではそれなりの戦闘経験を積ませるつもりだから、レベル差も埋まっていくだろうし。
「驚いたり、怒ったり、納得したりと様々な反応をありがとう。お前らは、この学園のこの学年のこのクラス以外を知らないだろう?それなのにどうして自分が強いと思うことができるんだ?
世界は広いんだぞ?イシュワルト、お前には優秀な兄がいる。あいつは紛れもない強者だが、お前はあいつに勝てるか?無理だろう。他にも心当たりがあるものがいるんじゃないか?
ユーゴー第二王子、スクルボス学園長、そのまま俺、誰でも良いが思い浮かべれば自分よりも強いと思う、実感する人物に心当たりがあるだろう。
一人でも自分に勝てる人物に心当たりがあった時点で自分が強いと思うのはやめておけ。万が一その人物が敵に回ったら死ぬのはお前らだ。
おっと、あり得ないなんてしょうもないこと言うなよ?それこそあり得ない。」
俺の言葉は彼らに届いただろうか。これは俺にも言えることではある。俺はダンジョンの外では負けるということを経験したことはないし、危機に陥ったこともほとんどない。
だが、レベルの上昇や進化を経てもなお、今のリオウと戦って勝てるイメージが一切持てない。それだけの差がある相手がいることで俺は慢心することはないし、リオウに並び追い抜こうとレベルも上げるしスキルも磨く。
成長するには“自分が強い”などという自らが勝手に作り出す天井は彼らにとっての邪魔ものでしかない。
「井の中の蛙でいたければそれで良いが、お前らはそれで十分じゃないだろう?
イシュワルト、お前は最初の自己紹介の時点で、ユーゴーに教えてもらっているから剣術と光魔法をそれなりに使える、と言ったな?それなりじゃだめだ。そもそもユーゴーのまねをするだけではだめだな。目標とするのは良い。でもな、それを超えるつもりでなければ意味がないぞ。」
「......はい。」
「ミーチェ、お前も同じだ。お前も自己紹介の時に“学園長程上手にできない”と言っていたが、そうじゃないんだよ。確かに学園長は〔従魔術〕の分野では右に出るものはいないと言われている様だが、それを気にして後ろをついて行くことしか考えないのでは、成長を阻害する要素にしかならないぞ。
どんなに大きな壁でも乗り越えるくらいの気概が無ければ、それは無駄な努力だろ?
お前には家族だっている。見てみろ、イチ達だって成長するんだ。お前が自分の限界を決めているようでは家族に置いていかれてしまうぞ?」
「うん...そうだね。」
「「「「「「「「「「ウォン!」」」」」」」」」」
「アルフレッド、お前は弱いと言われたのがムカつくんだろうが、その時点で驕っているようなもんだ。現にお前は冒険者ギルドでも、今日の模擬戦でも、俺に手も足も出ないで敗北したことを忘れたわけじゃあるまいよ。
お前はこれまで小さな世界で満足していただけだ。取り巻きには下のクラスを侍らせて、親父の権力と家の格で威張ってただけのお山の大将ってとこだな。
今日の時点で少しはましになったが、自分がまだまだ弱いことを自覚がないのはよくないな。合宿で鍛え直してやる。」
「...チッ...わかったよ。」
「メイリーン、お前もまだまだ弱い。それは理解したか?うん、よし。お前の自己紹介から予想するに思い浮かべたのはお前さんの母親だろう?魔法も調薬も母が師匠だって言ってたもんな。
師匠として敬うのは良いし当たり前だが、弟子なら弟子で師匠を超えるくらいの気概を見せような?模擬戦を見る限りではまだまだ伸びしろもあるしな。」
「はい、精進いたしますわ。」
「最後は、ケルク。君は俺が弱いといったことに納得した。それは俺を基準にしているからか?自己紹介の時もビビりまくってたもんな。だけどな、その探知能力は自信を持っていいんだよ。少しビビりすぎだとは思うが。
君はこのままいけば直接的な戦闘力は考慮されない特例冒険者を目指すことになるだろうが、その時、その探知能力は役に立つ。
他のみんなとは目指すところが違うのは自分でも理解していると思うが、それは問題じゃない。お前は最高の特例冒険者になれる素質がある。合宿ではそれに加えて自衛できるくらいは鍛えてやるからな。
あ、戦闘力も向上させたいって言うなら、遠慮するなよ。稽古位つけてやるさ。」
「はい!お願いします。でも、戦闘はちょっと。」
「ははは、いいさ。その気になったらって話だよ。」
最後のケルク以外にはただの説教の様になってしまったわけだが、実際に今の時点で自分が強いと思っているようでは、この先彼らに成長は見込めないし、彼らを鍛える意味も理由もないようなものだ。
それなら、彼らの今の天井をぶっ壊して新しい天井を作ってやることも間違いなく重要な特別講師の役目なのではないかと思う。
レイアも俺の考えは賛成してくれるようで、今の俺の考えを聞いて、説教を聞いて賛同するようにうなづいてくれている。
「みんなには厳しいことを言ったように聞こえたかもしれないけど、私もアルも滅多に会うことが叶わない高ランクの冒険者なの。冒険者を目指すなら、そんな私たちの指導を受けることは、一生の財産になると思うわ。ううん、財産にしてみせる。
みんなの座学は私がこれまで冒険者として培ってきたものを出し惜しみなく教えてあげるから、戦闘に関してはアルに喰らいついて行くのよ?
あなたたちならできる。そう信じているからこそ私も指導するし、アルだって厳しいことを言うんだって、理解してちょうだい。」
「「「「「はい!」」」」」
「「「「「「「「「「ウォン!」」」」」」」」」」
俺の話の後の返事よりもみんなの返事が良いのはしょうがないか。
レイアが俺を使っての飴と鞭をしたって感じだろうが、俺は別に鞭を振ったつもりは全然ないので釈然とせんな。
まあ、とりあえずレイアのおかげで、最終的な着地は成功したと考えてもいいな。
さて、これで俺の講義は終わりだが、この後は初日ということもあって学園長に呼ばれている。
この王立学園の学園長であるスクルボス侯爵は俺からしたら格上の貴族だ。Sランク冒険者は男爵相当。無視して帰るのはさすがに問題なのだ。
その点レイアはいいよなぁ。
「まあ、これで俺の今日の講義は終了だ。これを踏まえて明日から二日間戦闘技能の講義を行う。レイアの座学の後だから忘れるなよ?
よし、それじゃあ、解散。俺たちは学園長に呼ばれているからこれで帰るが、この訓練場は騎士科と魔導士科に許可取ってあと一時間分は使えるようにしたから。
満足するだけ自主練してもいいし、模擬戦の感想戦でもしながら一緒にやるでもいいし、好きに使ってくれ。そんじゃな。」
「じゃあねぇ~。」
「ありがとうございました。」
「「「「ありがとうございました。」」」」
これで俺とレイアは訓練場を出て学舎内の学園長室に向かう。一度行ったことがあるので迷うこともないだろう。
*****
はぁ、またあのカラスに会うことになるのか。
あの従魔は後で調べたら、学園長の代名詞というか、あれと同じ魔物を群れ単位で従えているらしい。
あのカラスの時点で相当強いはずなので群れとなると想像もできないほどの戦力だ。いざというときになれば学生を守らなくてはいけない立場の学園長というのはそれだけに貴族を黙らせることができるほどの地位と守るだけの力が必要なのだ。
あと、これはレイアに聞いた話だが、あの学園長も冒険者としての実績があるようでランクはSSらしい。俺よりもランクが高いのな。
だからといって負けることはないが。
そんな感じでカラスがまたいるかもしれないことにうんざりとしながら学園長室まで行くと、部屋の前には猿がいた。
...うん、猿だ。俺がダンジョンで見たデスモンキーとは違い、体毛は白く短い。手と足、尻尾が長く、イメージで言うと母を訪ねる少年のペットの手足尻尾の長いver.ってところか。
まあ、見るからにただの猿じゃないのでこれも学園長の従魔だろう。今日はこいつが担当しているのかと首をかしげるが、レイアにそれは否定される。
「あのカラスじゃないと学園長の声をこちらに届けることができないから、あの猿はただの案内係だと思うわ。」
とのことだ。つまり俺たちはこれから学園長室以外のどこかに案内されるということが確定したようだ。
俺もレイアもてっきり学園長室で話を聞くだけだと思っていたため、これには面倒だという気持ちが完全に表情に出てしまったようだ。目の前の猿が顔色を窺って慌て始めたので自覚した。ずいぶん賢い猿だな。
「そんなに慌てなくていいわよ、おさるくん。どうせ学園長の指示なんでしょう?私たちを連れて来いって?」
コクコク
レイアの質問に首を縦に振って肯定する猿。さらにうれしかったのかレイアに抱きつく。
どうやらオスの様でそれに優しく対応したレイアに頬を染めている。
「…エロ猿が。」
俺がぼそっと言った言葉を器用にも拾ったようでムキーッ!とこちらに飛びかかってくる。俺は事実を言っただけなんだが、飛びかかってくるとはいい度胸じゃないか。
俺はさっきまで使っていた木製大鎌を取りだして、振り下ろす。ここは廊下なので振り回すには向かないが他種族もいる関係で天井が高いので、振り下ろしは可能なのだ。
飛びかかってきた猿を打ち下ろして追撃しようとしたところで、レイアから一撃が届く。
ゴチンゴチンと音がする。
「こんなところで戦っちゃだめでしょ?」
レイアが鞘に入れたままの武器を腰に戻して言う。
わかったか?俺がたたかれたのはしょうがないが、地に落ちた猿も一発もらってんだぜ?
ざまぁ。
学園長に会いましょう。part2
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