第82話 模擬戦その②
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俺と対峙するアルフレッド少年はその眼で俺の一挙一動を見逃すまいと睨みつけるようだ。
しかし、アルフレッド少年はやはりというべきか、構えも様になっているし、年齢にしては上背もあるため大人用の剣を持っていても振り回されそうな印象は受けない。
「アルフレッド少年、君にはその剣は大きすぎじゃねーか?今なら子供への貸し出し用の剣に変えてきてもいいけど?」
「いや、俺はこれでいい。です。これが俺にはあっているんだ、ます。よろしく頼む、です。」
軽いジャブのつもりで挑発してみたがアルフレッド少年はずいぶんと落ち着いて返してきた。相変わらず変な言葉になっているが、これは追々だろう。今は安い挑発に乗らなかっただけで数日前の彼とは別人に見えてしまう。
それ以上に話すこともないので模擬戦の開始位置まで移動して、レイアが近づいてくるのを待つ。レイアが来ると、どこからかとりだした旗を俺たちの前に垂らし静止する。
「両者ともに準備はいいかしら?よさそうね。それじゃ......はじめ!」
「はぁああああああああああ!」
レイアの始めの合図とともにアルフレッド少年がとびかかってくる。
アルフレッド少年の持つスキルで戦闘に関わるものは〔火魔法〕〔剣術〕〔身体強化〕の3つだ。ステータスも純粋な戦士寄りなので〔火魔法〕はギルドで見たのが限界くらいの程度だろう。
〔剣術〕〔身体強化〕も戦士としては持っているのが当たり前と言ってもいいほどの必須スキルなので脅威にはなり得ないというか、目に見えないものなので気にしてもしょうがない。
つまりスキルにはSクラスでも珍しく特に警戒の必要があるものはないが、裏を返せば特別なスキルが無くてもSクラスにいることができるということだ。
レイアに聞いた話だが、進級時のクラス決定は学力だけではなく戦闘能力も評価にされているようなので、アルフレッド少年はそれだけで努力を怠っていないということがわかる。
模擬戦開始からここまでの様子を見て、アルフレッド少年の剣はよく言えばまっすぐ、悪く言えば単調だった。フェイントもなく振り下ろして薙ぎ払う。これなら視線でどこに打ちこむつもりかまるわかりだし、今のところ魔法をねじ込むということができていない。
〔火魔法〕はイシュワルトの〔風魔法〕や〔光魔法〕とは違い、あまり至近距離で使うと自身にまで被害が出る可能性がある諸刃の剣だ。つまり、魔法剣士として剣術と魔法を両立させる意味はない。近接で攻撃できない剣士はそんなの剣士じゃないからな。
「クソッ、はぁあああ、セイッ!」
「ほらほら、まだ俺は一歩も動いていないぞ。」
「クソが!動かしてやる!」
〔剣術〕〔身体強化〕だけでの攻撃ではどうしても威力が足りず俺を押し込むには圧倒的に力が足りない。獅子王面を外した俺でも筋力は50000を超えるし、学生の素の力じゃ、土台無理な話だろう。
まあ、ここは俺から動いてみようか。そもそもこれは彼の足りないところを気づかせるための模擬戦なわけだしね。
「お言葉に甘えて、動かせてもらいますよ。〔超強体〕〔温情〕」
「は?どこだ!?......!?ぐぁあ!」
俺はアルフレッド少年の背後に回り木製大鎌で背中を打ち付ける。敏捷も50000はあるため、〔超強体〕で強化すればアルフレッドの目にも止まらぬ速さで動くのが可能になる。
アルフレッド少年には俺が突然目の前から消えたように感じただろうが、ただ彼を飛び越えて後ろに回っただけだ。
ここで俺が彼に気づいてほしいのは探知系のスキルの戦闘における有用性だ。これは〔気配探知〕、〔魔力探知〕、〔生命探知〕のどれでも良いが戦闘時に使うことで得られる効果を理解させたいということで今回のアルフレッドに身に着けさせることでもある。
「な、なんで後ろに突然?いや、早く動いただけか。次こそは。」
「それには気づくのか。やっぱり戦闘のセンスはいいな。だけどな。」
俺は再び同じ手を使って今度は消えた後一周まわってもう一度同じ場所に出現する。
アルフレッド少年は俺がまた消えたことで後ろを取られることを恐れて、後ろを向いたのだから、今度は場所が変わっていない俺に再び背中を打たれる。
こんな感じで何度もアルフレッド少年の背中を打った後に俺は今度は立ち止まり、アルフレッド少年に話しかける。
「さあ、アルフレッド少年、これまでは俺が攻撃したわけだが、次は少年がやってみるかい?そうだな、俺はハンデとして目を瞑ろうじゃないか。いっそ耳も塞いでもいいが......どうする?」
「............両方で。」
背中の痛みに耐えながらも俺に剣を向けるアルフレッド少年は俺が言った内容に耐えがたい屈辱を感じているようだが、それでも考えた末にハンデを受け入れるあたり、何をしてでも勝つという執念ともいえる覚悟を感じる。
俺の提案はもちろんこの試合を見ている他の学生たちも聞いているので、いったいどういうことなのかと困惑していると共に試合内容に驚いている。
まあ、この中でもおそらく戦闘に関しては上位だったんだろう。そんな人物が為す術もなくやられているのは信じられないんじゃなかろうか。
「レイア先生?どうしてアルカナ先生はあんなにアルフレッド様を痛めつけた後にハンデなんて言い出したんですの?」
「うん、いい質問ね、メイリーンちゃん。アルはあれで学生のことを考えているみたいだから、アルフレッド君にも今後役に立つ技術なりスキルなりを教えるためにまずは体感させるつもりなのだと思うわよ?
まあ、思うところがあってやり過ぎとも言えるかもしれないけどね。」
まあ、ギルドでの一件はもう終わったことなので別に思うところは無いんだが、やりすぎたかなぁ。これくらいはできると思ったからやったんだけど。実際、アルフレッド少年も立ちあがっているわけだし。
「さあ、外野が何か言っているが、どうせ聞こえていないだろう。ほら、これで俺は目隠しと耳栓をするから、準備ができたら攻撃して来い。よいしょっと、って、うおっと。」
「チッ」
「不意打ちはよくないなぁ。って、試合中だしそれでいいけどよ。さ、こいよ。」
アルフレッド少年は俺が目隠しした瞬間に狙ってきたが、その時にはすでに〔探知〕を発動していたので近づいてきているのを気配で読んで回避を実行する。
そして、ここからは耳栓もしてアルフレッド少年の攻撃を受けるだけだ。受けると言っても当てられるつもりはない。せいぜい探知系の強みを理解してもらおう。
そんなわけでアルフレッド少年の気配を読みつつ攻撃を避けたり木製大鎌を差し出して待つようにして当てていく。
アルフレッド少年の声は聞こえないが、木製の大鎌には当たった感覚がしっかりとあるためだんだんと正面からではなく、回り込んだりフェイントを入れたりと、一撃ごとに工夫をするようになっていく。
「ほらほら、どうしたよ?俺はこれだけのハンデを背負ってんだから、一撃ぐらい当てたらどうだ?」
俺の挑発ともとれる発言はアルフレド少年にはしっかりと届いているはずだが、一方でアルフレッド少年の声はこちらには一切届かない。
気配的にはもはやアルフレッド少年はぶちぎれと言ってもいいくらいには苛立ちが募っているようだ。
さあ、次はどういった手で来るのかね?もう俺が探知系のスキルを使っていることくらいは戦闘勘の良いアルフレッド少年のことだから気が付いているだろう。それが気配を呼んでいることもわかっているかもしれない。
ん?俺からアルフレッド少年が離れていく。今までは俺の大鎌での攻撃範囲の外ぎりぎりのところにいたが、今は遠く離れている。
これは、何かしてくるのかな?まあ、普通に考えて魔法だよな。
〔魔力探知〕でアルフレッド少年の魔力が巡り手を介して魔法へと変換される。ギルドでも見た《ファイアーボール》だろう。あの時の魔法は俺にダメージといえるものはなかったが、今回は当てるのが目的のようだからダメージは二の次なのだろう。
まあいい、さあ来い。
しかし放たれた魔法は俺の予想を超えて意外にも高速で飛んできた。
多少は驚いたが、魔力の動き自体は見えているので俺に着弾するまでに対処すればいいだけだ。とりあえず大鎌で叩き落とす。ただ今の大鎌は木製なため〔火魔法〕を叩くには向いていないので魔力でコーティングするようにしてから振り抜く。
「ふむ、《ファイアーバレット》か。元々使えたのか、それとも覚えたかは知らないが、いい攻撃だったぞ。当たらなかったがな。まあ、こんなもんか。」
とりあえずこれで、何をしても意味がないことはわかったはずなので目隠しと耳栓を取って〔骨壺〕へ仕舞う。
目に入ってきたアルフレッド少年は、想像よりも俺の攻撃を良い所に食らっていたようで、俺の感覚よりも倍くらいボロボロだった。
「やりすぎちまったかな?すまん。とりあえずこれも試合だから、終わりにしようか。」
「チックソが。一発当ててやる!」
俺が歩きだしたところにアルフレッド少年の魔法が次々と放たれる。《ファイアーボール》だけでなく《ファイアーバレット》を混ぜるあたり、やはり戦闘センスが良いと言える。
まあ、すべてを叩き落としているわけだから特に厄介だとは思わないが。
そして、魔法の弾幕が晴れた瞬間に一瞬でアルフレッド少年の後ろに回りこんで首に大鎌を回して肩をたたく。
「やあ。」
「チッ、はぁはぁ、降参する、ます。」
「うん、お疲れさま。いやぁ、少年は強くなるだろう。それに自分でも何が足りないか十分に実感できたんじゃないか。そしてそれの有用性も。」
納得こそいっていないだろうが、事実として負けたアルフレッド少年はこの悔しさをバネにすることができるだろう。強くなることに貪欲であるように感じたので頑張ってもらいたいものだ。
とりあえずこんな感じで、彼には伝わったか確認しなくては。
「何が足りないかわかったかい?」
「...はい。俺には敵を視認する以外で補足する術がない。それではさっきのように素早い相手に死角を取られても反応することすらできずにやられてしまうと感じた、です。
俺に足りないことは、敵を見失った時に見つける、いや、見失わないためのスキルか技術ってわけだ、ですね。」
「正解。とりあえず、これ飲みなよ。」
正直やりすぎた自覚があるので、アルフレッド少年にポーションを渡しておく。アルフレッド少年が自分の足りないことに気が付いた褒美とでもしておこうか。
彼がポーションを飲んでいる間に一応の補足をしておこう。これは全員に向かってだ。
「アルフレッド少年の考えている通り、俺が彼に知ってほしかったのは探知系のスキルの有用性だ。他のみんなも一つは持っているように、どれか一つ持っているだけでも戦闘では有利になるし、複数持っていればもっと有利になる。
さっきの俺は〔気配探知〕で少年の位置を把握して来るだろう場所に武器を向けて待ち構えていただけだが、そこに強力な攻撃を合わせることもできなくはない。要はカウンターにも使えるってことだな。
他にも冒険者は森の中での野営などの警戒が必要な場所で見張りを立てることがある。そう言った場合にも探知系のスキルは使えるわけだ。」
「つまり、できるだけ探知系は覚えたほうがいいということですね?」
「そうだ、イシュワルト。お前は〔気配探知〕を持っていたな。それなら次は〔魔力探知〕に挑戦してみるのもいいだろう。」
「はい。」
とりあえず、こんなところか。アルフレッド少年は自分でも理解しているようだから、特にいうことがない。しかし、それでも一応先生として、彼に言葉をかけることはしたほうがいいか。
「ポーションを飲み終わった少年。君は冒険者になってどうなりたい?」
「いきなりどうした、ですか。」
「いいから。これも大事なことなんだよ。」
俺の質問に少年は考える。
「わからねぇ、です。俺は三男だし、次男が王立騎士団にいるから人脈を広げる上でも同じ場所にはいけない。それでも俺は戦えるから、冒険者になろうと決めた......です。」
「魔導師でもよかったんじゃないか?この学園にも学科があるだろう?」
「俺は剣を振るのが好きだ。魔法も嫌いじゃねぇ、けど、やっぱり剣を振りたいと思った。魔導士科のやつらとは反りも合わねぇし。」
まあ、今日学園を回ってみた感じ、魔導士科の連中は研究肌といった様子で体を動かしたいというアルフレッド少年とは合わないだろうな。
まあ、要は。
「特にどうなりたいということはないってことか。」
アルフレッド少年はウッとうなる。まあ、痛いところを突かれたとでも思ったんだろうな。しかしそうじゃないんだよ。
「そ、そうだよ!悪かったな。目標もなく冒険者目指してよ!」
「いいや?それのどこが悪いって言うのさ。目標がある人間の方が世の中多くない。ここだけの話だが、俺は冒険者になったは良いが目標なんて今もないしこれからも作るつもりはない。やりたいことだけやって気ままな暮らしが性に合っているから、冒険者をしているだけだ。
少年だって似たようなものだろう?ただ戦いたいだけ。それでいいじゃないか。そういう冒険者がいたって悪くないだろ?」
「アルカナ......」
「こら。先生だろ?」
最後の最後で呼び捨てにしやがったが、俺の言葉が彼に響いてくれたらいいと思う。ただでさえ生きるのは大変なんだ。少しくらい楽な考え方をしたところで罰は当たらないだろう。
とりあえず、まあ。終了の合図を忘れているレイアに目配せして終了を催促する。一応区切りだからな。
「終了ね。忘れてたけど。」
「よし、アルフレッド少年。次はスキルを覚えた後だな。探知系に関しては、俺かレイア先生、ケルクが詳しいからな。ケルクが一番聞きやすいだろうから気になるなら聞いてみてくれ。」
「ひっ」
「わかった
――――――――――――先生」
ケルクの小さい悲鳴は無視して次の模擬戦に進もうとしたところで、アルフレッドが態度を変えた。完全に変わったわけじゃないが、先ほどまでのどこかツンとした雰囲気ではなく、教えを乞うといった態度になったのだろう。
良いことだ。
「さて次は、悲鳴を上げた。ケルク、やってみようか。君は少し特殊だが、俺に考えがある。とりあえずこちらへ。」
「は、はい。」
ケルクは戦闘に向いていないことも理解しているので、模擬戦もそれに合わせて行う。
こいつはギルドも特例ランクをつけることになるはずだが、〔闇魔法〕でのデバッファーの道もあるだろう。〔支援魔法〕辺りを身につければ、その隠密性と探索能力も相まって優秀な冒険者になるだろう。
さあ、やるかね。
次の模擬戦に行きましょう
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