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第82話 模擬戦その①

お読みいただきありがとうございます。


雲一つない青空が広がり、露店がひしめく大通りに人が溢れ返るほどの賑わいの王都ベルフォリアでは、一週間後に行われる現国王陛下の誕生祭に向けた準備や王国各地から訪れる貴族や高位の冒険者を歓迎するための準備がそこかしこで執り行われていた。


国王の誕生祭や高位冒険者の授与式の開催場所はこの国の一番権威ある王城で行われる。

しかし、その国に住む者として祝わずにはいられないとして、ずいぶん昔にできた風習が、王城での誕生祭や授与式と同時に開始する一週間のベルフォード王国城下町祝賀祭、通称:城下祭である。

王国の王都から離れた場所では王都祭とも呼ばれるこの催しには王国各地、さらには諸外国からも人が訪れる一大イベントとなっている。


これの運営には国を担う貴族家の嫡男や各局の次世代などが関わり、運営の練習という面でも活用されているようだ。

王城で開かれる誕生祭と授与式は1日で終了することが多いため、そのあと城下にお忍びで向かう者も少なくないそうだ。

運営がまだ未熟な者ということもあって雰囲気は重厚とはならず、陽気な祭りとなるらしい。



どうしてこんな話をしているかと言うと、まあ、端的に言って――――――――暇だからだ。


俺とレイアは今日の予定としては学園での特別講義を行う講師として埋まっている。しかし、特別講義があるのは午後なので午前中は二人とも暇。さらに俺は座学を行ったレイアの次に戦闘技能の講義をすることになっているため、レイアよりも長い時間暇になるのだ。

午前中の待ち時間はレイアと二人で学園の中をふらふらと見学していたので特に退屈ということもなかったが、午後になりレイアが自身の講義をしに教室に向かってしまった時点でやることが尽きた。

今日は初日ということで早めに来たのが完全に裏目に出たな。正直王立の学園は広いので見るところはたくさんあるだろうと高をくくっていたのもあるが、そのほとんどが部外者の立ち入りを完全に禁止していて、どこにでも入る権利があるのは学園長ただ一人とのことだった。


学園長はどの分野においても従魔を通して見識があるんだってよ。


そんなわけで、暇な俺は今学園の壁をよじ登り王都の中を見まわしている。これがなかなかどうして見晴らしがいいのだ。王都の中にある広大な学園はその壁も高く場所も王都の端にあることからほぼ全体が一望できる。

王都の街並みは石造りの家や木造の屋敷など、一貫性は無いが、まとまりとしてみると良い纏まり方をしているように感じるので見ているだけでも十分に暇を潰せる。

それに人々の笑顔も印象的だ。性別、種族、レベル、多くのことが違っても幸せだと感じることができるいい環境だという証拠だろう。多種族国家を象徴する都市でもあるのがこの王都ということだろう。


そこでふと俺の視界の端に写る子供たちが立てる一つのぼりが見えた。

それは、おそらくだが王都の門付近にある孤児院の子供が立てているのだろう。だれかの名前が書かれた少し不格好なのぼりだった。

それは全部で3種類あり、そこには。


『アルカナ様ようこそ、そしておめでとう』

『ガンツ様ようこそ、そしておめでとう』

『キャンシー様ようこそ、そしておめでとう』


と書かれていた。ふとした拍子に見えた自分の名前に一瞬混乱したが、それ以外に見えた名前には見覚えがあったのでなるほどと納得する。確か俺と同様に授与式でSランクを授与される冒険者だったはずだ。

ルグラにいた頃に俺より先にSランクになったというのを聞いた気がする2人だ。たしか、王都の冒険者と王国でも北の方の都市の冒険者だったな。土竜の件では別件で動いていたというのを聞いているので面識はないがその内会うだろう。


ということで、つまりあれは俺たち授与式に出席する新しいSランク冒険者を歓迎するために孤児院の者たちが作ってくれたのぼりなのだろう。こういった形で歓迎してもらえるというのは予想外だったが、冒険者のような信用が大事な職業においてありがたいことなので、自然と口角が上がってしまう。きっと一生懸命作ってくれたんだろうなぁ。


それからも少しの間、王都の様子を高みの見物と洒落込んでいた俺の耳にキーンコーンカーンコーンという明らかに世界観ぶち壊しの音が聞こえてきた。

その音から察するに、どうやら講義が終わったようなので、次は俺の講義、戦闘訓練の時間だ。前の顔合わせの時に会って以来、会うことはなかったわけだが、この短期間で何かを取得している可能性は低いと思うので、この間の時のプラン通り講義をしようと思う。


さて、行きますか。



***



こうして目的の場所まで行く道すがら、学園の中を歩きまわっていると自分が教える学園生たちが優秀であるということを理解する。

いろいろな場所を覗いて回っていたからってのもあるが、教室に向かうこの間にもそこそこの人数の学園生を見ることができた。


そのどれもが騎士だとか魔導士だとかを目指すものであることからしてもただの子供とは違うのだが、この間顔合わせの時に見たSクラスの子供たちと比べると見劣りしてしまうのはしょうがないかね。

どうやら、彼らの様に既にある程度完成しているような学生はほとんどいないみたいだが、騎士科や魔導士科にもあるSクラスはどうなんだろうな。


観察しながら進んでいたおかげで時間がかかったが、授業間の休憩兼次の準備時間の間に何とか教室に着いた。

教室といっても俺の担当するのは戦闘技能の全編実技だ。机にかじりついてやるものではないため場所も騎士科や魔導士科が戦闘訓練する訓練場を使う。


俺たちが受けた依頼は3日講義の3日合宿、講義は午後の2コマだけと与えられた時間は短く、教えることもできる限り効率的に行かなければならない。そのため俺は1回目を模擬戦という形にしてそこで何を彼らに教えるべきかの最終決定を行うつもりだった。


訓練場に入るとすでに講義を行っていた教室から移動して準備運動をしていたSクラスのメンバー5人と先ほどまで講義を行っていただろうレイアが待っていた。

レイアはいつもの白い軍服ではなく、赤色のジャージのような動きやすそうな恰好をしている。

他の5人も色の違いこそあるが、ジャージのような運動着と言えるそれを着用していた。


「アル、こっちよ。もうすぐ始業の鐘が鳴るから、もう始めちゃっていいわよ?みんな準備できているみたいだし。」

「おう!ってあれ?レイアもいるよな。」

「まあ、初日くらいはね?明日からはさっさと帰るから安心してちょうだい。方針とかが気になっただけだから。」

「明日以降もいていいんだよ?」


なるほど、俺がめちゃくちゃやらないようにって意味か。明日もお願いしたいけど、帰ってからかな。あと怪我のことなら心配ないと思うけどな。俺にはとっておきのスキルがある。

これまでほとんど使ったことがないが、何かの時に手に入れた〔温情〕というスキルだ。


〔温情〕:相手を生かした状態で無力化する。


このスキルは〔骨の王〕にいつの間にか吸収されてしまっているので影が薄いが、これを発動させることで圧倒的な力の差があっても殺してしまわないという素敵なスキルなのだ。

まあ、ステータスは下げる努力はしているが。


「そう言えば今日は髪色が黒なのね。白じゃ強すぎるし良いと思うわよ。」

「ああ、もちろん。白だと加減が難しいからな。」


そう。レイアが指摘したように俺の髪色は黒。獅子王面を外して素の〔人化〕である。これだけで、"〔着用者〕込みで骨の王"足る俺の戦力は大幅減少だ。これに〔温情〕で完璧だろう。


「さて、これから戦闘技能の特別講義を始める。」

「「「「「はい!よろしくお願いします!!」」」」」


お?アルフレッド少年もいい返事だ。この間の説得(脅し)が効いたのかね。まあ、支障が無いしむしろ良いことだからこのまま進めようか。

ん?何かいるな。...ああ、あれか。邪魔しないならいいか。

よし。


「良い返事だ。始める前に、俺は君たちのことをほとんど知らない。この前の自己紹介で得ただけの情報しか持っていない。逆に君たちもそうだろうが、まあ、俺のことは知らんでいい。

とりあえず、今日は君たちに何を教えるべきかここで模擬戦を行い判断させてもらう。」


今日やることは模擬戦であることは決定だが、個人でやるか集団でやるかは決めてなかったな。

うーん、どうしようか?


「レイア、模擬戦したいんだけど一人ずつの方がいいよな?集団でもいいんだけど。」

「そうね、この子たちには連携も何もないし、個人でいいんじゃない?合宿でいやというほど集団戦は学んでもらうわ。」

「そっか。んじゃ個人戦で決定。誰からやる?」


合宿は王都の外でのサバイバルなので、俺たちはついて行くとしても手を出すことは少ない。講義で教えた内容に限らず、すべての実力を発揮してもらわなければならないので大人は見守るしかないのだ。


レイアの言葉にちょっとビビってしまっているが、これも経験なので甘んじて受け入れてもらおう。

とりあえず俺の相手をしてもらわないといけないので、だれか手を上げてくれよ。と思っていると、さすが王子、イシュワルトが手を上げてくれた。


「おっいいね。それじゃイシュワルトお前さんからだな。そら、他のやつらは訓練場の端まで下がっておけ。何が起きるかわからんからな。」

「「「「わかりました。」」」」

「よろしくお願いします、アルカナ先生。」

「応、よろしく。全力でいいからな。」


もちろん、全力でやっていいのは学生だけだが、こちらも様子を見る程度には本気を出す。どこまで耐えられるかというのも今後の指導に必要なことで調べておいて損はないはずだ。

さて、それじゃ、始めよう。


「それじゃ、今日のところは私が開始の合図をやってあげる。いいわね、それでは行くわよ?―――――はじめ!」


レイアの合図により俺とイシュワルトの模擬戦が開始する。

イシュワルトは剣術と魔法を使う魔法剣士タイプの戦闘スタイルだったはずなので魔法に気をつけながら対処しなければならない。


模擬戦に使うのは普通の真剣だ。自前のものでいいことにしている。まあ、どんな物でも俺に傷がつくことは万に一つもないのだから、刃引きやら木剣やら、そういった対策の必要はない。

もちろん俺は傷つけないようにする必要があるため、ちょっと長めの棒の先端に直角にもう一本の棒をつけた訓練用の木製大鎌である。

イシュガルの〔開放〕や〔解除〕の様な機能が無い分、本領は発揮できないわけだが、ただの棒よりましなので昨日トンテンカンとやっておいたのよ。


「〔光神の衣〕!はぁあああああああ、光球よ、《ライトボール》!」

「フンッ!甘いぞ。魔法を単独で使うのも良いが、もっと剣に混ぜた方がいい。そら、次はこっちからだ。」


一番最初の魔法は身体強化の効果と光魔法の補助が主な効果だったはずだ。俺が知っている光魔法の初級ライトボールよりも大玉ではあった。

しかしそれだけだ。木製大鎌で弾き、今度はこっちから仕掛ける。


「ほら、守ってるだけじゃ、意味ないぞぉ。〔光神の衣〕だっけ?その魔法は魔法こそ防ぐようだが、物理攻撃には無意味みたいだからな。」

「くっ、それなら、《ウィンド》はぁあああ」


今度は風魔法か。詠唱破棄ができることには驚いたし、それで発動したのは戦闘においては良いことづくめなんだが、それよりもここは訓練場が土の床であることを利用していることをほめるべきだろう。

《ウィンド》はただ風を吹かすだけの魔法であるが、工夫次第では便利な魔法だ。俺がこれまで出会った冒険者の中でも〔風魔法〕使いは何人かいたが、そのほとんどが《ウィンド》を工夫して用いていた。

ある者はイシュワルトと同様に土埃を巻き上げて相手の目つぶしをし、ある者は魔力を多く使い突風ともいえる風を吹かせて疑似的な真空を作りだしたり、はたまたある者は〔火魔法〕と組み合わせて大規模な殲滅魔法に昇華させた。


属性魔法の最初級魔法の中でも攻撃力が極端に低い〔風魔法〕でも使い方次第でこれだけの工夫ができるわけだ。その工夫の初歩をできているイシュワルトはしっかりと学んでいる証を示せたのだ。

ただ、それと同じように剣術と魔法の組み合わせもすればいいのにと思う。


「はぁあああああ、セイ!ヤァアア!!《ライトバレット》」

「ふむ。」


カン、シュンッ、コン


イシュワルトの攻撃をすべて防ぎ避けつつも考察を進める。

ここまで見ていてわかったことは、イシュワルトは無意識のうちに『魔法と剣術は別々のもの』と思いすぎているということか。

確かに別物ではあるが、はっきり180度違うということでもないのだ。

ふむ、これでこいつに何を教えてやるかが決まったな。


俺は模擬戦を切り上げるべく、イシュワルトに告げる。


「さて、これで終わりにしよう。お前に足りないことがわかったぞ?」

「ハァハァ、足りないこと?なんですかそれは?」

「まぁまぁ、とりあえず決着だ。それ。」


俺は足で砂埃を巻き上げ、イシュワルトが驚いてまばたきで目を瞑った一瞬の隙をついて、木製大鎌で足をすくいあげる。それだけでイシュワルトは後ろに尻もちをついて盛大にコケる。

どれだけ鍛えていても足が地面に着いていなければ体感も何もあったものじゃないからな。

こけた拍子に武器を手放してしまったイシュワルトにはすでに為す術もないので首に木製大鎌を当てるようにかけて。


「ゲームセットだ。お疲れさん。」

「そこまで!頑張ったわね、二人とも」


レイアの終了の合図とねぎらいを受けてイシュワルトの首から木製大鎌を外して手を差し出す。イシュワルトを引っ張り上げるようにして立たせてから、尋ねる。これは自分で気づけないことかもしれないが、気づこうとさせるのも一つの指導だろう。


「何が足りないか、分かるか?今の模擬戦にいくらか出てたと思うが、どうだ?」

「足りないこと、ですか......わかりませんね。」

「そっか。まあ、もしかしたら、外から見ていたほうがわかるかもな。」


そう言って見ていた他の学生の方を見やる。まあ、学生プラス他一名だが、その他一名がキレイに手を上げているのは無視すべきか。

はぁ。


「えっと、レイアさん?一応これも講義の一部だから、学生に考えさせてあげて?」

「あ、そうね。他の人の講義を受けるのは初めてだったから、つい手を上げてしまったわ。ごめんなさいね。ほらみんな考えなさい。」


レイアに促されて考える学生たち。イシュワルトも考えているが答えは出ていないのだろう。顎に手を当て頭をひねってしまっている。

そんな中で、一人の学生が手を上げた。アルフレッド少年だ。


「はい、アルフレッド少年。わかったか?」

「えっと、はい、たぶんだが、ですが、俺分かったと思う、ます。殿下とアルカナ、先生の模擬戦を見ていて、殿下の攻撃はなんというか一つ一つが独立している感じがした、ました。」


ほぉ~。アルフレッド少年は思っていたよりも見る目があるようだ。さすがにSクラスということだろう。この際不自然な言葉には目を瞑ろう。

アルフレッド少年の言にイシュワルトも気が付いたようだ。


「なるほど。そういうことですか。」

「そう!アルフレッド少年大正解!イシュワルトの魔法や剣術は冒険者でも駆け出しレベルは疾うに超えているし、Cランク程度の実力はあるだろう。だけどそれだけだ。一つ一つは高レベルの技術を持っていても、うまく使えなければそれ以上、上にはいけない。

もうわかっているだろうが、さっきの模擬戦でいえば、一つ一つは十分な威力や規模があり、魔法にいたっては詠唱破棄までやってのけたのには驚いたぞ。その年で大したものだ。

ただな、模擬戦の中でも言ったが単独ではなく混ぜるといい。みんなもわかったか?」

「はい。」

「はーい。でも先生?イシュー君はそれを言われた後に剣に風魔法を合わせてたと思うんだけど、それとは違うの?」


俺の説明を聞いたイシュワルトは若干納得がいかないようだったが、ミーチェの質問を聞いて頷いていることから、同じことを思っていたんだろう。

まあ、言った直後に〔風魔法〕を混ぜていたことを考えれば、うまく混ぜたと思ったのかもしれない。


「ああ、混ぜるってのはただ魔法を使って剣を使ってというのとはちょっと違う。さっきの〔風魔法〕の使い方は悪くはなかったが、まだ足りないという感じだな。」

「え~、どういうことかわかんないよ~。」

「まぁ、説明してやるからちょっと待て。えっとな、要はさっきの模擬戦の中でイシュワルトは剣を振って魔法を放ち、また剣を振ってまた魔法を放つというサイクルを崩すことがなかったってことだ。〔風魔法〕を放ったタイミングも同様で、剣を振って魔法で巻き上げまた剣を振る、ほら同じサイクルだろう?

これではさっきのように目を潰せなかった場合に意味がない一手になっちまう。さっきの模擬戦であの〔風魔法〕を有効に使うなら、巻き上げたと同時に切りつけるかするべきだ。

あれでは妨害にもなりえないからな。」


先ほどの模擬戦でイシュワルトがやった手は素早い剣術を使える者でもなければ特に意味をなさない。目つぶしがうまく行けばそこまでの早さはいらないが、うまく行かなかった場合はむしろ自分の視界まで遮られることから逆にピンチになりかねない。

あの戦法で叩くなら巻き上げた瞬間だ。相手の位置もわかっているし、自分の位置を悟らせにくい。


「要は、イシュワルトにこれからの講義で教えるのは剣での戦闘と同時に魔法の発動だな。剣術と同時に魔法が使えるというのはそれだけで高度な技術だ。できて損はない。これから頑張ろうな。」

「はい、ありがとうございました。アルカナ先生。」

「ふ~ん、頑張ってねイシュー君」


のんきなミーチェには毒気が抜かれるが、イシュワルトにはユーゴーという前例がいるため強くなれる可能性もビジョンも一番はっきり見えているのも間違いないので頑張ってもらいたい。


さて、


「次、アルフレッド少年、君にしようか。先ほどの気付きは君の戦闘センスが良いことを証明している。楽しみにしているぞ。さあ、こちらへ。」


アルフレッド少年との出会いは最悪だったと言わざるを得ないが、それもここまでで改善されたと考えてもいいかもしれない。

まあ、彼は何を教えるべきか決まってしまっているため、合宿を含めて地獄を見るのは確定だが。


さあ、やろう。





アルフレッド少年と模擬戦しましょう


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