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第79話 「戻ってきました、王都ベルフォリア」

お読みいただきありがとうございます。


「んぅ~ん、アァァァ、着いたか。本当に一瞬だな。やっぱり便利だな、転移魔法陣。」


光が収まり俺の視界に入ってきたのは、サンヨウ砦に行く前の転移陣の部屋。ほんの数日前にここには来たのに、かなり久しぶりな気がする。

どうやら、俺がこちらであらかじめ貯めた魔力に関しては、レイアが往復するのに使ってしまったようで魔法陣の光は失われ、魔力が不足した状態になっている。


まあ、なんだかんだで、問題もなく...戻ってきました、王都ベルフォリア!!

滞在してからまだ一週間しか経っていないというのにいろいろとあったもんだ。まあ、半分近く外にいたんだけどな。公的には外に出たことになっていないからノーカンだろう。


転移陣の部屋には、俺たちのほかに一人、おそらく役人がいた。何がおそらくかと言うと法務官の制服に似ているが少し違う制服を着用しているからだ。戦えるような雰囲気もないしな。


「レイア様、アルカナ様、本日は王国の国境砦の防衛、感謝いたします。国王陛下より『誕生祭では会えることを楽しみにしている』とのお言葉です。一週間後の誕生祭及びSランク以上の冒険者の授与式には、王城より馬車の手配をいたしますのでレイア様のお屋敷にてお待ちくださいませ。」

「わかったわ。ご苦労様。じゃあね。」

「失礼します。」


こういう役人などへの対応はすべてレイアにお任せしてしまっているが、俺が下手なことをするよりは数倍数十倍良いのでお願いしている。

偉い人に対する敬語とかもあまり得意じゃないしな。


これで俺たちの役目は終了し、報酬もすでにレイアが受け取っているので、とりあえず法務局を出たわけだけど、これからどうするかね。


「礼服と儀礼剣を受け取りに行くんだったと思うんだけど、どっちから先に行く?俺だけで行ってくるのがいいか?」

「うーん、そうね、礼剣チャンにはそうしてちょうだい。特に困ることもないでしょう。大通りに近い場所の鍛冶屋だからどうやっても迷いようがないし、ね?

ただ、フェアリーズには私もドレスのことがあって一緒に行きたいから、先にそちらにしましょう。代金はすでにギルドカードの口座から支払ってるし、手ぶらで行けばいいわ。」

「了解。そんじゃ行きますか。」


フェアリーズに行くのは王都に来た時以来だと考えると一週間の時間が開いているが、エミィさんのキャラのおかげかそこまで時間が開いたという感覚ではない。

エミィさんも男には見えないくらいにキレイだから、男としては楽しみになるのはしょうが無いと思う。まあ、目の保養ってところだな。


前回来た時に会員証をもらったので、前のように結界を通っていく必要はないらしく、今回は直接王城裏のフェアリーズに向かう。レイアに聞いた話だが、前の時に使った道順は途中で転移陣のようなものを使うので、あんな人気のない道を通ったらしい。


レイアについて行く形で歩いて行くと王城の正門から見て真反対のあたりで何か魔力的な膜を潜ったような感覚を覚える。これが人払いの結界ってことなのかな。それを潜った時から人を見なくなった。


そして見えてきたのはあのファンシーなピンクの建物だ。でかでかとフェアリーズと書かれた看板は一回見たら忘れるやつもいないだろう。

現に二度目の俺は完全に記憶にこびりついた。


「相変わらずキャピキャピしてるわね。 ......入るわよ。」

「お、おう。お邪魔しまーす。」


前来た時と同じようにカロンコロンと音を鳴らしてドアを開ける。中には真剣な表情で服を縫うエミィさんがいた。その雰囲気は真剣そのもので、近寄ることも難しいほどの気迫が感じられる。


こんな感じで、レイア以外のSSSランク冒険者の気迫を感じることになるとは思わなかったが、すさまじいものを感じる。

巨大土竜よりも強い気迫からして素の俺じゃ勝てないかもしれない。やっぱりあの時エミィさんがいたほうが楽だったろうなぁ。

ハッ、いかんいかん、終わったことだったわ。


意味の無いことに思考が逸れたので頭を振って切り替える。レイアもエミィさんの作業が終わるまで、静かに待っているつもりの様で俺も待つことにする。

ただ、エミィさんの作業スピードは信じられないくらい早く、強化も何もしていない俺ではぎりぎりで追える程度の速さだった。敏捷の無駄遣いって言ったら怒られるかね。


数分の作業を終えて一枚のドレスができたのか、エミィさんは針を置いてこちらを見る。


「待たせてしまってごめんなさいね。お得意様のお嬢様のドレスを仕上げてしまいたかったの。いつも私のドレスを注文してくれる方々だから、他のより優先して仕上げたわ。

あ、もちろん、あなたのは仕上がっているわ。この前から少しだけ改良したわよ。アル君の礼服も完成してるわ。」

「さすがの服飾の腕前ね。あの速度で正確に針をさせるのは王国広しと言えどあなただけでしょう?私のができているなら文句もないわよ。エミィが仕立て仕事で失敗しないのはわかっているし。

とりあえず、アルの試着と微調整くらいは先にやっておきましょうか。アル!って何を呆けた顔をしているのよ。」

「ああ、って、え?......え?」


レイアとエミィさんがずいぶんと普通に話しているもんだから、俺も少し流してしまいそうだったが、いや、少しも流せていなかったが、驚いてしまったよ。


いやね、だってさ、エミィさんって男って話だったよな?前にあった時は男の声だったし、見た目は確かにthe美女って感じだったけど、間違いなく男だって話だったじゃん。


それがどうして...声まで女性になってんの!?もうただの美女じゃん。いや、どういうことよ?のどぼとけ無理矢理上げたんですか!?女性にしては低めの声ではあるけど、むしろセクシーって感じの声だし、どういうことなん?


「レイア?あなた私の作業中のことアル君には言っていなかったのかしら?彼、そういう反応だと思うんだけど。」

「あ!そうね、一切話してなかったわ。エミィがそうなるのは私の中では常識みたいなものだったから忘れていたわ。ごめんなさい。私の落ち度よ。」

「まあ、いいわ。アル君はどちらでも女性として話してくれるし、私が説明しましょうか。」


説明とはいったい何のことだ。何についての説明が必要かはわかっているが、何をどうしたらこうなるかを教えてほしい。もちろん、話せないことであれば無理にとは言わないが、話してくれそうなので黙って聞くとしよう。


「えッとね、結論から言うとあたしは女なの。」

「は!?」

「ちょっとまてぃ!!」ズバン


レイアの手刀がエミィさんの頭にキレイにはいる。前の時もやった流れだが、エミィさんは今回も頭を押さえて悶絶している。

今回は完全に見た目も声も女性だから、女性の見た目の男性が悶え苦しんで転げまわるよりも、余計シュールな光景に見える。


「いきなり嘘から入るってどういうつもりなのよ!?」

「いたた、いやだ、ちょっとしたかわいい嘘って話じゃない。」

「あ?」

「ひうっ!わかったわよ。あたしが悪かったわ。ここからは真面目に話すから、ね?」

「本当に?」


ぎろりと睨むレイアにブンブンと頭を縦に振るエミィさん。レイアが手刀を振り上げているというのもあるんだろうが、こちらとしても早く話してくれるとありがたい。さっきのを不覚にも信じかけてしまった。


「もちろんよ。それでね、アルくん。あたしは、まあ、本当は男なんだけど、こうやって女になることも可能なの。」

「へぇ、自由にできるのか、スキルなのか聞いていい?」


俺の〔人化〕や〔縮小化〕〔巨大化〕のように形や大きさを変化させるスキルが存在しているのは理解している。それなら性別を変化または反転させるというのもスキルでできてもおかしくないと思った。

エミィさん程の実力者だったら、それだけのことができる下地もあるし、そんなスキルを見つけるのも不可能じゃないだろう。


「残念だけどスキルじゃないわ。そんなスキルは私も聞いたことないし。私のこれは魔道具よ。」

「魔道具?」

「ええ、それも人が作ったものじゃなくて、ダンジョンで手に入るような特殊な魔道具。誰が作ったかわからないそんな代物よ。安全性は鑑定に出して知らべたから大丈夫。」


そんな魔道具があるのか。ダンジョンは神とも密接な関係にあるみたいだし、こういう普通じゃあり得ないことを可能にするものが見つかってもおかしくないということか。


「たまたま、必要なものを取りに行ったダンジョンで潜伏してた詐欺師から没収したのよ。男のくせして女になって結婚詐欺してたのよ?それならあたしが有効活用しようってね。」

「そいつはまた、不幸なやつだな。潜伏先にSSSランク冒険者が来るなんて夢にも思わなかっただろうな。いや、むしろ悪夢だ。」

「ま、そんなわけでこれを使っているの。女性の時の方が指も細くて細かくて繊細な作業に向いてるから、仕立て仕事をする時はこっちの姿でやってるのよ。逆に店番は、滅多にないけど強盗対策で男の時が多いわね。」


そういう使い方をするのか。確かにそういった使い方なら、結婚詐欺よりも数段健全で安全だ。レイアは付き合いが長いからこのことも知っていたってことね。


「あとは、お買い物の時は女でいるときの方が負けてくれるのよ。だから店を出るときはほとんど女性ね。男だと、見ただけならいいんだけど、しゃべると露骨に態度が戻るから。」

「あぁ。なるほど。」


まあ、態度が戻るのは、男のさがってことだろうな。レイアはいやそうな顔をしているが、心は女性でも本来男であるエミィさんにも少しは理解できるのか、しょうがないといった雰囲気だ。


「エミィは王都でも有名人だし、女性の時のファンクラブもあるんだけど、男と女と見た目はほとんど変わらないのにおかしな話だわ。」

「それが男ってものだもの、しょうがないわ。コレが無ければだめなのかしらね。」


エミィさんがそう言って、両腕を寄せるようにして胸を強調する。なるほど、エミィさんの男性と女性の違いは、そこを見ればわかるのか。

つい男がそこに目が言ってしまうのはしょうがないだろう。余計なことまで考えてしまったが、レイアの視線を感じてどうにか取り繕う。


「んん”ぅ、それじゃ、俺の疑問が解けたところで、礼服の話に戻らせてもらってもいいですかな。良いですよね!?」

「ふふ、レイアもそう睨まないであげて?男は見るのよ。あなただってわかるでしょう?アルくんの口調がおかしいわ。さ、服の話に戻りましょう。」

「元はと言えば...ってそうね。早く終わらせましょう。アルは次の予定もあるのだし。とりあえず着てみなさい。」


どうにか窮地を脱した俺は、エミィさんが持ってきた礼服に着替える。着た礼服は薄青色のジャケットに白に薄灰色の縦ストライプが入ったパンツという、想像していたのとは全く違うものだった。

礼服って黒だ白だってわけじゃないんだな。郷に入っては郷に従えってことで、俺の主張なんてするつもりもないが、ハイカラな礼服だ。


「うん、いいじゃない。さすがあたしね。前の時は黒髪だったけど、白髪にいつの間にか変わってよりこれが似合うようになったわね。ネクタイは...こっちの青いのがいいわ。」

「あら、似合ってるわよ、アル。誕生祭はみんな赤色以外の礼服で来るから、目立つこともないと思うわ。赤は王族の色なの。」

「あれ、前赤いドレスじゃなかった?」

「ああ、平時はいいのよ。今回みたいな公式な場でって話よ。今回の私のドレスも青だもの。」


なるほど。それなら、俺も目立つことはないか。髪の色が白になったのはどうかね。今のところレイア以外に白に近い色は見たことないけど。


「髪の色はしょうがないわ。私の銀髪も目立つけど、アルの白髪も多分目立つでしょうね。主役は国王陛下だから、何か言われることはないでしょう。気にしなくていいわ。」

「そっか。気にしないでおくよ。」

「それじゃ、ちょっとだけ直すけど、そのままでいいわ。」


そう言ってパパッと動いて直していく。少しずつ完成系まで持っていき、ものの数分で完了してしまった。さらに同時進行でレイアの方もやっていたようで、そちらもササッと修正を完了させてしまった。

さすがに早いな。


「これでいいわね。レイアの方も完成よ。あとは大事に保管しておいてちょうだい。保管までは私も責任持てないからね。」


バチコンとウインクするエミィさんは今は完全な女性なのでただただ美しい。男だと理解してなければぐらついてたかもしれないな(笑)


さて、これでフェアリーズでの用事も済んだことだし、次は礼剣チャンだ。ギルバルドちゃんはいるだろうか。

我が恩人、いや、恩骨の魔核を使用した儀礼剣を注文してから、非常に楽しみではあった。


そろそろお暇するとしよう。


「じゃあ、エミィさん、そろそろ行くよ。エミィさんもそれを届けるんだろう?」

「そうね、エミィまた来るわ。」

「ええ、またいらっしゃい。私も外出の準備をしなくちゃね。」


そう言って俺たちはフェアリーズを後にする。外に出たところで、レイアに次の予定を聞く、


「レイアはこの後どうするんだ?俺は鍛冶屋に行くけど、ついては来ないんだろ?」

「ええ、私は屋敷に帰って明日の講義の資料を作っておくわ。土竜の依頼で完成していないから。急いでやらなくちゃ。」

「そっか、じゃあ、またあとで。受け取るだけだし、そんなかからないで帰るよ。あ、ギルドには寄るかも。」

「エルフの料理人の件ね。わかったわ。あまり遅くならないようにね?ご飯が冷めちゃうわ。」

「了解。」


レイアとはフェアリーズの前でわかれて、俺は礼剣チャンに向かう。ギルドで料理人が見つかったか聞こう。望みは薄いと思うけどな。あ、カレー専門店があるってのを忘れてたけど、まだ行ってないな。


歩きながらもどんな儀礼剣ができたか思いを巡らせる。かっこいいのがいいな。儀礼剣ってのは武器であっても実際使うような物ではないのだから、デザインに凝ったものがいい。

そんなことお考えている間に礼剣チャンの立派な店構えが見えてきた。


こうして歩いて見ると、王城から結構近い店だったのな。ずいぶん良い立地の店だ。







儀礼剣を受け取りに行きましょう


拙作を読んでいただきありがとうございます.


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