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第77話 VS巨大土竜 決着

お読みいただきありがとうございます。


昨日も更新しておりますので、まだの方はそちらからどうぞ。


レイアの魔力の準備が完了し、やたら長い詠唱へと入っている。ここからでは、距離的にも声のサイズ的にも全くと言って聞こえないが、魔力が渦巻いているのがわかるので間違いないだろう。


俺は、土竜を押さえつけるのに必死で身動きがほとんど取れない中でも〔魔力探知〕を駆使して確認することが可能だ。

まあ、〔巨大化〕中は大きな魔力しか感じることがむずかしい様だがな。



さて、レイアの詠唱が完了するまでおよそ1分と聞いている。土竜はすでに頭を砦のほうに向けた状態でがっちり捕まえているのであとは俺がこの状態を維持するだけだ。


「ギュリャァ!!」

「おっと、あんまり動くなって。ほら、もうすぐだから、なぁ!!!」


ガキィン


土竜の両腕両足を抑えるために自分の両手両足を使ってしまっているため、土竜をおとなしくするために頭突きする。

土竜の額を目掛けて全力で強化した頭を打ち下ろした。


酷い音がしたが、額は皮膚が厚いとは言えないのは人間も土竜も同じなのでかなりの衝撃を受けたはずだ。

あまりの衝撃に頭を抱えたいのか、腕を動かそうと一層激しくもがきだす。


「ぐぉ...クソッ」

「ギュリャリャ」


土竜の足と一緒に拘束していた尻尾がもがいた拍子に自由になり俺の後頭部を殴りつける。十分にしならせた尻尾は俺を横薙ぎに殴りつけそのまま横転させられた。

俺の耐久は並じゃないのでダメージにはならないが、ここで拘束が解けてしまったのはまずい。


「逃がすかよ。」


しかもこいつももう無理だと悟ったのか、逃げ出そうと土を掘り始めた。

土竜の前足はモグラのそれなので、土を掘りだして進むのは得意と言って間違いない。そもそも突然国境沿いに現れたのも地中だけの生物では食糧が足りず、たまたまここら辺から地上に出てきたかららしい。

実験動物として生きていて逃げ出したのか逃がされたのか、どちらにせよ、おとなしく地中にいてくれよとは思う。


逃がしてたまるかと急いで駆け寄りすでに地中に埋まっている土竜の胴体ではなく、まだ地上に出ている尻尾を掴み引っ張る。

すでに地中に入って進もうと手で土を掻きだしている土竜の力はかなりのもので、このままでは俺の体ごと引きずり込まれてしまう。

土竜の魔力はもう底に突きかけのはずなので、すべて強化無しの純粋な力ということになる。もしかしたら〔土竜〕の効果かもしれないが、それでも今発揮するというのは厄介だ。

火事場の底力とでもいうべきだろうが、火事を起こした原因は本人、いや、本竜である。これは俺の個人的な意見だが、底力なんてものは守る側がやるべきだろう。


仮にも亜竜種の土竜であるプライドは無いのかと問いかけたいが、魔物に対してプライドなど意味のないものなのかもしれない。たとえあったとしてもそれを今はかなぐり捨ててでも逃走すべきとしているこいつには不要なものなのだろう。


そんなどうでもいい思考をしながらも尻尾を掴む腕には限界まで力を込めている。

今は〔巨大化〕の影響で魔力を秒単位で消費しているわけで、さらに先ほどから〔超強体〕の重ね掛けを行っているので、それもいつまで維持できるかわからない。

その〔超強体〕も今は効果が切れてしまっている。重ね掛けは効果時間を削るということみたいだな。


砦の上ではレイアが魔法の発射準備を完了させて放つばかりの状態で待機しているはずだ。兵士たちもこちらを見て今か今かと待ち望んでいる。

ここで俺が逃がすわけにはいかないのだ。


「〔超強体〕!らぁ!!!」


なけなしの魔力を使って〔超強体〕を発動。力任せに引っ張る。しかしこれでは土竜を引き上げるまでには足りず。少しだけ体が上がってまた引っ張られる。


「ギュリ」

「なら、〔超強体〕、2倍掛けで、どうだぁああ!!」

「ギュロ!?ギュリリリ」


今度は追加で〔超強体〕合計3倍掛けにして、尻尾を引き上げる。相当力が入っているため尻尾の骨が砕けたのか、柔らかくなり持ちやすくなった。そこから一気に引き上げようとしたところ、土竜がまたも土を掘るスピードを上げる。

掘った土は俺に漏れなくすべてかけられるので、たまらない。それでも放してやるかと腕に足にと力を入れる。


「限界までやってやる〔超強体〕3倍掛けぇえ!!!グッ、おらぁ!!」

「キュオオオオオオオオオ」


〔巨大化〕の限界は5倍掛けなので、今の俺は合計6倍と明らかに限界を超えている。すでに目から鼻から、流血が始まる。

しかし、ここでこれまでとは土竜の声が変わり、非常に苦しそうな声に変わった。そのまま引っ張りあげる。

しかし、上がったのは同体までで、爪を立てるようにして踏ん張っているようだ。


「グフッ...これでも無理か。しょうがない、あと4つ追加だ!〔超強体〕ィイイ!!おらぁあああ!!!」

「ギュ!?グィギュロォォオオオオオオオオオ!!!???」


渾身の〔超強体〕10倍掛けで土竜を穴の中からついに引っ張りだした。土竜もこんなことになるとは思っていなかったのか、驚きを示すように空中でじたばたと暴れまくる。

これだけの巨体であっても土竜は土竜なので空中でできることなど何もなく、成すがまま成されるがまま飛んでいく。その飛んでいく先は砦の目の前、つまりレイアの魔法の射程圏内。


「あとは、頼んだぜ?レイア。......ガフッ...アァ。」


俺は〔超強体〕の反動によって全身から出血が始まり、もはや腕一本いや指一本動かすことが不可能になっている。直に意識を手放すことになるだろう。最後にレイアの方に向けて視線をやると、レイアの口が動いたように見えた。

意識を手放す前に見えたレイアの口元から、「任せなさい」と言われたような気がした。


本当に頼りになる相棒だよ。

後は任せたぜ。



*****

sideレイア=ブラッドレイ



ついにアルがやってくれた。


土竜がこちらへと飛んでくる最中、レイアはそんなことを思っていた。正確には投げ飛ばされてくるというのが正しいだろうがその過程は大事ではない。

大事なのは、土竜がこちらの魔法の射程圏内へと入っているということだ。どれだけ強力な魔法でもそれが届く範囲に敵がいないのでは意味をなさない。


レイアが用意した魔法も同じだ。あの巨大な土竜が魔法に弱く中でも火水風に弱いということがわかった時点で、使うのは3属性の複合魔術にすることを考えていた。


魔法は熟練度が限界に達することでスキルが進化し魔術となる。そしてそれすらも進化すると上位の属性魔法になり、進化して魔術となる。水が氷に火が炎に土が木にといった具合だ。ただ、これもある方法で再現が可能になる。


それが複合魔法及び魔術といわれるスキル外技術である。


ただ、一般的な魔法を使えるような者は保有する属性は一人につき一つ稀に複数、と複合に至るまでにまず属性が足りないため使用可能な魔法使いは極めて少ない。

他人と力を合わせてというのもできなくはないが、効率はよくない。


レイアの様に〔全属性魔法〕を持っているのならば、その時点ですべての属性魔法や一部の属性魔術も使えるため、複合魔法を使えるようになるのも必然である。


もちろん今回レイアが使う火水風の複合魔術ももとより使うことが可能な魔術であるが、ここまでの規模と魔力を要する魔術はレイアにも初めてのことだった。しかし、これ以上に最適な魔術は無いと考えたため、昨日の時点で魔力を溜め始めたのだ。


火魔術と水魔術の複合魔術は霧魔術、霧魔術に風魔術を合わせることで熱風魔術と一般的には言われる強力な大規模魔法になる。今回はこれをさらに圧縮することで貫通力を高め、内部から破壊するのを目的とする魔術として完成させた。




この時点ですでに魔術のほとんどの詠唱は終わっている。普段のレイアは魔力を多少多めに消費しても詠唱なんてしないが、複合魔術は詠唱をすることで安定させることが可能なので今回は必要なことだと判断したのだ。


アルが切り札を切ってでも作った最後のチャンスよ。アルがもう動けない以上、ここで逃したら捕まえる手が無い。

私にできる最大で最高の魔術をあの土竜にあててみせる。


アル、任せなさい!!


口だけを動かしてアルカナへ伝える。こちらを見ていたのでそれは確実に伝わっただろう。アルカナが小さくなるのを見届けて自分の仕事を行う。


「それじゃあ行くわよ。衝撃に備えなさい!!

―――それは、大量の水、高温の火、轟音の風、すべてが合わさり混ざり塊と化す。それは、荒れ狂う蒸気の渦、圧縮されし力。放たれるは一筋のみ。解放されて爆発せよ。―――――《スチームブラスト-コンプレッション。》」


レイアは先ほどから行っていた詠唱の最後を唱えると一気に魔法を発動させる。尋常ではない速度で用意した魔力が消費されレイアの頭上に暴れる蒸気が集まっていき、終いには一か所から漏れ出るように外に出る。

放たれた圧縮された蒸気の爆弾は、土竜のもとへと一直線で向かっていく。その様は一筋の流れ星のように細く速く美しかった。


吸い込まれるように土竜の額より穴をあけ、次の瞬間。


パァン


と一つ音がなるのと同時に土竜が砦の前の地面に着陸する。

着陸した時点で土竜はぐったりとしている。それが示す意味は誰にも明らかで、すでにこと切れているようだった。その瞳は何も映さず、鏡のように砦を映しているだけ。ただそこには寂しさだけ映されている。



レイアは走りだす。土竜は死んだ。しかし、その土竜を必死に足止めしたアルカナはまだ、安否がわからない。

無理なスキルの反動で、相当なダメージを受け、さらには魔力までをも枯渇しているかもしれない。予想できるだけでも命にかかわる危険な状態だった。

すでに〔巨大化〕も解けていて、どこにいるかは視認できないが、〔探知〕を総動員してその姿を探す。


走り回りながら最大範囲で〔探知〕をしたところ。


見つけた!!


アルカナは巨大な土竜が掘った穴のすぐ向こうにいることがわかった。〔生命探知〕〔魔力探知〕〔気配探知〕どれをとっても微弱な反応しか見つけることができず、やはり危険な状態であることがわかる。


先ほどの魔法で魔力をほとんど使いきっていたレイアは歩いて近づくことしかできないが、それでも一刻も早くアルカナのもとへと重い足を進める。

後ろからは、砦の兵士たちがレイアを心配して追いかけてきた。


アルカナのもとへと着くと状態の確認をする。砦の上からわかるほどの出血は生命活動を脅かしていたようで、すぐにでも治療しなくてはならない状態だった。

しかしレイアには〔光魔術〕という治療の手段が使えるので、怪我の治癒はできる。ただ、今ある魔力で完全に回復させることができるかが不安だった。


〔光魔術〕でアルカナに〔回復ヒール〕をかける。初歩中の初歩だが純粋に傷を治療し止血するのならこれが一番なのだ。

レイアの目論見通り、アルカナの出血は止まった。これ以上の血が流れないのであればあとは自然に目が覚めるのを待って魔力の回復に努めれば、特に何もしなくても自然と健康体に戻ることだろう。


アルカナは普段はダラケふざけていても歴とした根源種の超越化した個体、超越種である。その根本は精神生命体であり、体も物質化した魔力が構成しているはずだ。どれだけ傷が付こうとも魔力さえ万全になれば、いずれは元通りになれるということだと知っている。

ただの根源種であるレイアにはそんなことはできないが、アルカナにはできる。それだけ超越種というのは隔絶した力を持つ。


後ろから来た兵士に砦までアルカナを運ぶように指示した後、レイアは巨大な土竜のもとへと向かう。本当に死んだかを確認するためだ。



土竜はもちろん死んでいた。しかし、レイアの中では、戦う前アルカナが言っていたことが気になったままだった。

〔実験生物〕。かつて自分が出会った魔物《少女》にも付いていた【称号】。帝国によって弄ばれた命。


そんな不運な命を見たからこその疑問が湧きあがる。


非人道的な実験を繰り返すあの国の研究者たちが実験を途中で放り投げる。または、実験生物に逃げられる、そんな下手を打つのだろうか、と。



しかし、今考えても答えが出ることがないそれを頭の隅に押しやって、今はこの勝利を喜ぼうと、砦へと足を向ける。





ただ。





戦いで魔力を消費しすぎたからだろうか。

普段だったら気が付くようなそれを見ていた者たちの視線に気が付かなかったのは。



*****



「ケケケッ、まさかたったの二人であの土竜が止められちまうとはなぁ。予定じゃ、そのまま王都まで各町を壊滅させて回るっつーつもりだったんだけどなぁ。」

「おいおい、それじゃ、まるで、“巨骨の王”みたいじゃんか?俺たちはそんな作戦聞いてないぜ?俺にも黙ってたのかよ?」


この場にいるのは一人。されど話し声は二人。何かがおかしい4つの瞳は目の前に映し出される映像を見て、かつての骨の王に思いをはせる。


「フン、キミが寝ていたときだからなぁ。しかし、映像コレを見れば皇帝陛下もこの研究の良さがわかってくれると思わないかい?なあ、ベー。」

「アーの研究は俺にはさっぱりだからな?皇帝陛下もわかってないだけかもしれないぜ?なんなら、俺たちで直接やりにいってみるかよ?」

「ケケッ、だめだよ。僕らはおとなしくしてろって話だったじゃないか。」

「でもよぅ?」

「だめ。」


言い争いに発展しそうなそんなとき、後ろの扉が開き、入ってきた人物が両名を嗜める。


「おやめください、ナンバー様。技術部長様がお呼びです。今回の報告をと。」

「ああ、わかったよ。ケケケッ部長は褒めてくれるかなぁ、ベー?」

「褒めてくれるさ?アー?」


ナンバーと呼ばれた人物とそれに続いて呼びに来た者が扉をくぐる。

アルカナが土竜を投げ飛ばす映像を残して、その部屋にはだれもいなくなった。





目を覚ましましょう。


次は8/5の投稿です。


拙作を読んでいただきありがとうございます.


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