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第75話 VS巨大土竜

お読みいただきありがとうございます。



山が動き始めたことで、中から土竜の魔力が漏れ出してくる。案の定、山を抜け出すのに土魔法を使い続けていたようで、相当な魔力を消費したようだ。

山の中にいたときには視認できず、拘束に使われた魔法の魔力に阻まれたことで、ステータスの確認ができなかったので、このタイミングで〔戦力把握〕でステータスを覗く。

SSランクのパーティー“深緑の反撃”を退けた土竜の能力が高くないはずはないが、正直、ステータスよりもスキルの方が大事な確認要素である。

一応、この砦の偵察隊や“深緑の反撃”のメンバーなどに聞いたが、鑑定のスキル熟練度が低いのかジャミングされたかでステータスを覗くことができなかったらしいので、〔戦力把握〕で見ることができるか不安ではあったが、無事に覗くことができた。ただのレベル差だったか。


しかし、これはいったいどういうことなのだろうか。



~~~~~~~~~~~~~

名前:――――

種族:土竜アースドラゴン

性別:オス

レベル:360

体力:900000000/962478513

魔力:250000/3000000

筋力:30000000

耐久:60000000

敏捷:80000

精神:500

運 :12

【固有スキル】

 〔土竜〕〔巨大〕

【通常スキル】

 〔光耐性〕〔物理耐性〕〔魔法脆弱〕

〔嗅覚強化〕

【称号】

 〔土竜〕〔異常個体〕〔実験生物〕

~~~~~~~~~~~~~


これで気にすべきは先ほども言ったようにスキルだ。〔土竜〕は土魔法を中心に土竜ができそうなことの詰め合わせの様なスキルで、〔牙術〕〔爪術〕〔生命探知〕などのスキルが含まれる。これは通常種と違いはないらしい。

次に〔巨大〕これはこの土竜の固有の様で効果は大きくなり、打たれ強くなる。ただそれだけだった。

あとのスキルは耐性や強化なので、気にする必要はないだろう。これまで戦っていた冒険者が教えてくれたことでわかっていたことだからだ。


最後は【称号】だが、これも〔土竜〕はどうでもいい、ただの事実だからだ。次に〔異常個体〕、これもすでに分かっていたことではあるし、特に驚きもない。

問題は〔実験生物〕、これ。どう見ても普通の魔物には得ることができないとわかる【称号】だ。これの詳しい説明がこれ。


〔実験生物〕:非人道的な生物実験により身体またはスキルを改造、改変、追加、削除された生物。


これって、いったいどういうことだろう。この土竜は他者の手によって改造されてしまっているということだろうか?


これのことをレイアに尋ねる。魔力を貯めている間も会話は可能なので、ステータスについて相談することもできるのである。


「これってどう思う?」

「どれ?...ふーん。あ、そう。そういうことかしら。そうだとしたら、やってくれたわね。このことはしっかり報告したほうがいいわ。」


レイアは何かに気が付いたようだが、俺にはさっぱりだ。わかるように説明してほしい。

俺が理解していないことに気が付いたレイアが説明してくれる。


「その称号には昔会ったことがあるの。それは魔物じゃなくて獣人だったんだけど、無理やりに〔獣化〕を付けられた人だったわ。


ある町に滞在しているときだったんだけど、農地に作物を荒らす肉食系の魔物が出没しているから討伐してくれって依頼だったわ。

本当は受けるつもりがなかったんだけど、その町の知り合いの農地が被害にあったって聞いて頼まれて仕方なく受けることになったの。

一応、下調べとしてその魔物を確認しに行ったんだけど遭遇できなくて、でもそこでおかしなことに気が付いたわ。作物のとり方が魔物の荒らし方とはちがかった。きれいすぎたのよ。

変だなと思ったからその魔物を見つけて〔鑑定〕持ちの冒険者に調べさせたら、その魔物は狼獣人の女の子だということがわかったの。


その時の彼女についていた【称号】が〔実験生物〕だったの。」

「その女の子はどうなったんだ?」

「彼女はすでに人としての自我は無く、ほとんど魔物だったの。それまでは潜在意識が農地を荒らす程度で抑えていたのだろうけど、それからどんどん危険になっていって、すぐに人を襲ったため他の冒険者によって討伐されたわ。

後々調べたら、その子は帝国の孤児で、奴隷として捕まったのが最後に見られた姿だったの。」


つまりレイアはあの土竜も帝国によって行われた実験の被害を受けた生物ということなのだろうか。その話を聞いていて〔獣化〕に近いスキルは〔巨大〕だ。

あながち的外れというわけでもないことはわかる。それに狼獣人の子と同じなのであれば、土竜が人を襲いに来たのかもしれない。

〔生命探知〕で探せば、人の大勢いるサンヨウ砦は真っ先に向かうところだろう。


「〔実験生物〕の意味はわかったし帝国がとんでもない国だとわかったが、証拠がない。はぁ、今は気にすることでもないか。」

「そうよ、そろそろ土竜が完全に山から這い出すわ。足止めお願いね。」

「ああ、行ってくる。」


そう言って俺は立ち上がり、外套を被って土竜の前に進みだす。さあ、やろうか。



*****



壁を下りて砦の外に出る。まだそれなりに距離がある土竜は、離れた距離にいるにもかかわらず、その巨大さが相応の迫力を放つ。

山の中から最初に現れたのは、魔法発動体でもある、鼻のようだ。ずいずいと体を左右に動かすようにしながら山の中から這いずりだしている。上半身が出てきたところでわかった見た目の様は、そのままモグラである。

モフモフというよりはごわごわというのが正しいだろう毛皮で上半身が覆われているため、半端な打撃攻撃は効かず斬撃も同様だ。さらに〔物理耐性〕が耐久力を底上げする。


そこから少しして下半身までが露出する。


下半身は上半身とは打って変わって、竜らしい茶色の鱗によって守られた爬虫類らしい外見であった。

もちろん形容はモグラなので寸胴の短足なのは変わらない。しかしその巨大さでとても足が短いとは見えない。


やっとこさで土竜の前に出た俺は外套のフードを取り、自分の存在を土竜に見えるように晒す。ここまでは闇龍の外套によって気配を消していたが、それは近づく際に気づかれて土魔法を使われてしまうのを防ぐためだった。阻止する方法を知っていてもそれができる距離じゃないならいたずらに被害を増やすまねはできない。


土竜はいつの間にか近づいていた俺に気が付くと、接近してくるとは思っていなかったのか慌ててその右爪を俺に振り下ろす。俺は土竜にとっては小さい存在だろうが、〔生命探知〕に引っかかるくらいには生命力にあふれていたようで安心した。


土竜の爪は巨体だけあってその威力は当たらずとも理解できるが、速度はその分ゆったりとして見える。

余裕を持って避けようと土竜の左側面に移動する。どれだけ大きく重い一撃だろうが、遅ければ当たらない。それならどうするか。土竜の判断は早かった。


爪が容易には当たらないと考えた土竜は鼻先をこちらに向ける。鼻先が開きだすと、俺が立っている地面を囲むように魔法が放たれた。


「うおぃっと。」


土魔法によって俺の周囲にできた壁は2mほどの高さになると、中心に向かって動きだす。どうやら、俺をそのまま潰すつもりのようだった。

俺は上に飛ぶことで間一髪で潰されることは回避する。しかし、土竜もそれは予想していたようで、そこに爪での薙ぎ払いが迫る。


「マジかよ!?」


この土竜ずいぶん戦闘慣れしているのかもしれない。相手の嫌がることを選んでやっているというのは、それなりの戦闘経験が必要になる戦術だ。自分にしても相手にしてもやって嫌なことやられて嫌なことを理解して活用する頭もある。

もしかしたら実験生物として過ごしたことで頭も発達したのかもしれない。


このままでは横薙ぎの爪の回避は間に合わない。イシュガルを斧モードのまま盾に構え、そのまま爪を受け止める。

空中で受け止めることになった爪は俺をふっ飛ばすには十分な威力を持っていた。俺は20m以上飛ばされて地面を転がるようにして倒れる。


俺は立ち上がると〔超強体〕を発動させ、ひと飛びで土竜の前へと出ると鼻先に近づくようにジャンプする。

この土竜が先ほどのように的確に土魔法を発動させることが可能ならば、そこを狙う。魔法発動体が壊れりゃ、ああいった小細工もできはしないだろう。

鼻の上まで到達すると、イシュガルを振りかぶる。そこにブオンという轟音を響かせ左の爪が迫る。


まあ、そう来るよな。


魔法を阻止するように動くことはこいつにも予想されていたのだろう。それくらいには爪は間髪入れずの一撃だった。まるで待ち構えていたかのような一撃は俺だって予想してるさ。


「ま、そう簡単にやられることはしないけど、なぁ!!〔開放〕!」


イシュガルを下から救い上げるように振り上げそれに合わせて大鎌モードへと移行する。イシュガルの開かれた大鎌に持ちあげられ土竜の爪が腕ごと跳ね上がった。


「ギュリャァァアアアアアアアアアアアアアアアア」


土竜が悲鳴を上げ、バランスを崩して頭を地面につけるようにして倒れる。倒れるといっても一時的なものですぐに起き上がるだろう。切断できなかったわけだが、十分時間を稼げたであろう。

俺は土竜が起き上がる前に鼻に一撃を与えるべく、もう一度イシュガルを振り上げる。先ほどと同様に大鎌モードで切りつける。


「はぁああああああああ」

「ギュギュゥァアアアアアアアアア」


俺に切り付けられた土竜は悲鳴こそ上げたように見えたが、事実としてその鼻を破壊するには至らなかった。


おっと、全く切断できんとは。どれほど硬いんだ。鱗も毛皮もない鼻であればイケるかと思ったわけだが。

まあ、物理攻撃に耐性がある時点で打撃と斬撃にも高い耐久を持つことも十分に予想できたから特に驚きはない。しかし、これで俺では決定打に欠けるということがわかったのだ。これはいよいよレイアの一撃にかけるしかない。


さ、俺の頑張りどころだな。


***


「オラオラオラオラァ!!!」


俺が土竜と戦い始めてから、そろそろ一時間が経過するか。俺が土竜にして意味のある攻撃は鼻への一撃のみで、あとは土竜をイラつかせるだけのようだ。

もうすでに十発ほど同じようなパターンで鼻に斬撃をくれてやったが、傷こそ付くようにはなった程度で、切断の可能性はほぼゼロのままだ。


「ギュルォオオオオオオオオオオオオ」


もちろん鼻の魔法発動具としての機能は少しも損なっていない。

土竜の咆哮がして次の瞬間には鼻が光りだすので、それに間に合うように近づきイシュガルで横から鼻を切りつける。

もはや切りつけるというよりは殴っているというような戦い方になってはいるのだが、魔法の発動が阻止できるのであれば、レイアや効いているかどうかもわからない魔法で攻撃している兵士諸君を守ることができるので、オールオッケーだ。


今のところ土竜から俺に対しての一撃は最初以降一切もらっていないのだが、土竜もほとんど疲れていないのだから、嫌な拮抗状態に陥ってしまっているということだ。


ただ、さっきと違うのは土竜の魔法を行使しようという行動が極端に減ったということか。

そもそも山から抜け出すのにかなりの魔力を使っていた土竜が、序盤こちらが近づこうとするたびに即時発動可能な魔法をポンポンと使っていたのだから、魔力が心許ない域まで陥ったのだろうと推測する。

こちらとしては嬉しいことなのだが、魔法が減ったのと同じように、今度は吹き飛ばす様な攻撃を狙っているフシがあるので単純に喜べない。


最初にやられたような、距離を強制的に取らせるような攻撃は俺が飛ばされてしまうと同時にレイア達を危険に晒すことに他ならないので、俺も必死だ。


「ギュルィン」

「っ!?ぬわぁい!」


攻撃もさっきより激しくなって、3発に1発は避けきれずにイシュガルで逸らしたり、〔超強体〕と〔変形〕の合わせ技で、腕を体を強化して腕力で受けるなど、こちらが一方的に攻撃するだけではなく、逆に危ない場面も増えてきた。


「ギュロロロロロロロロロロォオオオオ」


土竜の猛攻が続き、今戦っているこの場所はどんどんと地面が掘り返されてしまってきた。土竜の爪での攻撃や牙での攻撃は地面ごと抉るように振り抜く。反撃の目が無いまま、攻撃をいなして逸らして受け止める。


そんな中で、不覚にもジャンプして避けた後、横薙ぎではなく下からアッパーのような形での頭突きを食らいこれまでにないほどの距離を取らされてしまった。


「ぐっ、おわぁああああああ、おごっ!?」


飛ばされたのと同時に飛んできたであろう岩にまともにあたり、さらに土竜との距離が開く。その隙に土竜の鼻が光りだしたのは言うまでもない。

土竜は賢くも俺が土魔法の発動を阻止できないほどの距離になってから、大技で一気に決めるために途中から魔法の使用をセーブしていたようだ。


つくづく嫌になるな。あんなに巨体で戦略を立てるほどに頭が回るなんて、土竜などの亜竜種ではあり得ないはずだと聞いていたんだがな。

現実に存在する以上認めないわけではないが、いざ、対峙してみると厄介極まりない。


そんなことを考えているうちに土竜の魔法が発動する。


「ギュゥオォ」

「ヤバッ」


発動した魔法は、地面から棘状に突き出した岩が対象に向かって飛んでいくというもののようで、どうやらその対象は俺であるみたいだ。

一瞬だけ、後ろの連中を狙ったのかと思ったが、すべて俺のほうに向かって来ていることがわかり、安心して対処する。

普段のレイアであれば被弾することはあり得ないだろうが、今はその場をほとんど動くことはできない状況だ。砦の兵士を護衛という意味も持たせて残しているが、不安を拭いきれないのが本音であった。


「なめるんじゃねぇよ!」


俺はイシュガルを大鎌モードのまま、前方に構えた状態で回転させ盾のように土の棘を破壊し続け、一歩ずつ土竜のほうへと歩きだした。

土竜も俺が大して焦ってないことに気が付いているのか、弾幕を張るかのように一度の魔法発動の質量が増えていく。

魔力が底をつきそうな土竜に対して魔法をどんどん使わせることはいい手だとは思うが、これがもし通常種だとしても、相応の戦闘力が無い場合は推奨できない手だ。


まあ、言いたいのは俺に対しては良い手ではないってことだ。大して問題なく全てを捌き切って、土竜の眼前へと押し通る。土竜もただでは通してくれなかったわけだが、俺は追加の魔法の尽くを跳ね飛ばした。


土竜も今のですべての魔力を使いきったというわけではなく、余力はまだあるようだ。ただ、それでも疲労の色は隠せないようで、肩で息をしているように見える。ただでさえ巨体なのだ、その全体像が俺には見えないので下から見上げたときの印象になるが間違ってはいないだろう。


「ギュゥォオオオオオオオオオオ」


またひと鳴きして今度は魔法ではなく腕を爪で挟み込むようにして振るってきた。

土魔法で壁を狭めていった時と同様にこちらの退路を断って、自分の攻撃につなげたいのだろうが、俺だって考えて戦っているわけだから、わざわざそれに乗ってやるつもりはない。

イシュガルで迫ってくる土竜の右腕を上から叩き、そちらから回り込んで胴体の下に潜り込む。

全長50m体高20mもある土竜は体の下が紛れもない死角となっているのだろう。〔生命探知〕で場所はばれているだろうが、俺が何かをしようとしているかの把握はできちゃいないはずだ。


俺は、急ピッチで口元に魔力を集束させていく。ゴブリン村を薙ぎ払った時の魔力の集束は、ほとんど時間をかけずに放出したため、威力としてはそこまで大きなものではなく、ゴブリンの上位種を複数残す結果となった。

その時の魔力と比べると今回は数倍ほどの魔力となっている。これは獅子王面の扱いに慣れてきたことが1つの要因だろうが、それでも意識して多く魔力を消費しているので集中が必要だ。


魔力を集め口の中で圧縮させる。

限界まで圧縮したことで俺の口から漏れ出すほどに濃密になった魔力を、躊躇の欠片もなく勢いよく放出する。


「〔獣王の息吹(キングスブレス)〕。グガァアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「ギ!?ギュリィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ」


放たれた光の魔力光線は土竜を真下から持ち上げるように衝突し、その勢いのまま5mほど土竜を持ち上げその毛皮を焼き焦がす。これだけの巨体を5m持ち上げたのだから相当な威力だと理解できるはずだ。


いくら〔光耐性〕持ちであったとしても、これだけ圧縮した魔力の光線を受けて、一切無傷とはいかなかったらしい。俺の目の前に見える光景には、はっきりと腹の毛皮を円形に焼け焦がしてもだえ苦しむ土竜が見えている。

これまでの俺の攻撃にはほとんど傷ついた姿を見せなかったこともこれでチャラにしてやってもいいと思えるくらいには気分が良い。

ただ、馬鹿みたいにデカい身体でのたうち回るものだから、周囲への影響がとんでもない。地面は揺れるし、地面から突き出た土山は崩れ去る。砦に被害が出ていないのは安心しているが、このままではここら一帯は更地になっちまうな。

ま、今は考えなくていいか。


「ハッ!やっとまともに苦しんだか。ああ、お前は実験生物としてひどい扱いを受けていたかもしれない。でもな、だから、はい、そうですか。と人の命をくれてやるわけにはいかないのよ。」


この砦には俺の知り合いは一人もいない。この砦周辺の都市や町ですら一人もいない。ここから一番近い知り合いは遥か遠くの王都ベルフォリアだ。こいつでもそこまで進むのは時間がかかるだろう。

でも、時間がかかってもいずれは到達し、そしてそれまでやってきたように人々を蹂躙するのだろう。


それから討伐するとしても、それまで死んだやつらは生き返ることができない。もしかしたら、知り合いはいないかもしれない。でも、死ぬかもしれないんだ。

正直、お前がどこを襲おうが、何を食べようが、実験から解放されたであろうお前を咎めるつもりはない。

ただ、この国に来ちゃいけなかったんだ。殺す理由が出来ちまうから。


「ギュリリリ」

「すまないが、お前にはここで沈んで貰わなけりゃいけないんだ。そのためにここで俺はお前の歩みを止めよう。





――――――さあ、第2ラウンドと行こうか。」



レイアが魔力を貯め終えるまで、およそ1時間30分。






第2ラウンドと行きましょう。


☆土竜との戦いが終わるまでは毎日更新します。(あまり長引かせないようにしますが)☆


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