第74話 「作戦決定って...。」
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第53話で法務局長が発した国王の名が一部変更前のまま反映されておりました。現在は修正しております。
ゴルギアス=マー=ベルフォード → ゴルギアス=メルエム=ベルフォード
正直あの大きさには面食らったが、それは俺だけではないはずだ。隣でレイアもかなり驚いているよな。
想定の時点で、相当でかい土竜だということは頭にあったが、実際はそれをはるかに超える大きさだったというから笑えない。いや、逆に笑えてくる。
...もっともその笑いはカラカラに乾いてしまっているのだろうが。
とりあえずSSランクの冒険者が稼いでくれたであろう時間で、作戦会議をしなくてはならないようだ。
まあ、俺がやるのであれば、正面からでもやれなくはないと思うが、その場合は自分が人ではないということを大々的に発表するような事態となり、周辺への被害はとてもじゃないが考えていられない。〔獣化〕は可能な限り隠しておきたいし、隠すためにわざわざ耳と尻尾を隠せるようになった。今の時点では晒す様な危機的状況とは言いづらい。
確かにこの国の人間からしたら正しく危機的状況だろうが、ここに俺やレイアがいる時点でそこまで被害は出ないだろうと予想ができる。
この時点で、俺が一人で戦うというのはあり得ない。必然的に俺とレイアの二人掛かりになるだろう。
今の時点でも俺は冒険者の中でも相当上の方だし、レイアに関してはトップ中のトップの一人だ。ここで何とかするのが一流というものだろう。何とかするしかないともいうのだが。
俺はレイアに向きなおり、一応作戦をどうするか聞いておく。
「なあ、どうやって倒すんだ?あれはさすがにでかすぎると思うんだけど。真正面からやるには、体格差が大きすぎる。そもそも俺たちを敵だと認識してくれるかがわからないぞ。」
俺のそんな質問にはレイアもとっくに気が付いているようで、イライラを隠さずに舌打ちする。そのあとに作戦を提案してきたが、それは無謀と言えるようなことだった。
「チッ!しょうがないわ。ここで私とアルが近づいてもあれには羽虫同然の反応をされるだけね。それならいっそ役割を分担しましょうか。アルが足止め兼弱らせる係で、私がとどめを刺す。ここまで大きいと知ってたら意地でもエミィを連れてくるんだったわ。」
最後のが本音だろうが、その前のはもしかして作戦か?いやいや、もはやそれは作戦じゃないだろう。俺の負担大きすぎね!?冗談に決まってる。
俺が無言の抵抗をしようとレイアの方をみるとニコッと笑って、何やら口から何かを出しているジェスチャーをする。
...なんだろう?
ぐ~っと溜めて?口を開いて?ゲー、する?
ジェスチャーをまとめると何かの一連の動作だろうか?ジェスチャーの通り動いて見る。
ぐ~っと溜めて、口を開いて、ゲー、ぐ~っと溜めて、口を開いて、ゲー、ぐ~っと溜めて、口を開いて、ゲー、
......!?まさかゴブリン村吹き飛ばしたアレのことか!?
〔獣王の息吹〕は〔獣王〕の技だが、魔力消費以上のデメリットが無い素晴らしいもので、その魔力消費も今となっては痛くもかゆくもない。
リオウマスクの制御や俺の成長によって馴染んできているというのか、引き出せる力が上がっているような気がするのだ。数値的な変化は見られないことから、もともと数値分をしっかり引きだせていたわけではないのかもしれない。
ただ、前の時よりも力を引き出せるということは〔獣王の息吹〕の威力も上がっているということだから、どれだけ被害が拡大することになるかもしれない。下手したら後ろの森が全部消滅する。良いのかね?
「森なくなるけど大丈夫か?」
「!?ちょっと待ってくれ。その話が本当なら国際問題になる。それしか手が無いのならしょうがないが、見たところそうでもないのだろう?」
「はぁ、そうね、最終手段にしておきましょうか。」
速攻で撤回したが、最終手段として採用されてしまった。どうにか別の方法で仕留めるしかないわけだ。レイアは副案をしっかり練っているようだけど。
「じゃあ、予定通り私がとどめで、アルが足止めね。」
「え!?」
「はい!作戦決定!大丈夫、私たちならやれるわ。」
作戦決定って...。
まるで名案かのように言いだすレイアには本当に驚いた。さっきの話はどうにも本気だったらしい。
副案ってさっき言ってたやつならそれはもう副案じゃないわ。考える限りは出尽くしたってことだろうか。
他の材料があれば、もう少し対策なりなんなり取って優位を持てるのだけどな。
「他に何か分かっていることはないのか?あれだけの巨体だ。ステータスくらいは覗けるはずだろ。」
「そうね、さすがに現時点で私たちが知っていることが少なすぎるわ。」
俺とレイアの質問に答えたのは、隊長さんの隣にいた眼鏡の兵士だった。彼はこの砦にいる警備隊の索敵班の班長のようだ。
彼は自慢の眼鏡をクイッと上げて、今わかっている土竜に関しての情報を話し始める。
「ええと、今現在あの土竜についてわかっていることはそう多くありません。
まず、サイズは20mを少し下回るほどの体高、全長としては50mほどでしょうか。もともと土竜は大きくない亜竜種で、ここまでのサイズのものは初めて観測されたと思われます。
次にあの魔物の攻撃手段です。これはSSランクの冒険者パーティー”深緑の反撃”が防衛時に判明し報告してくれたのですが、あの土竜、魔法に対する耐性が通常種より低いです。しかし、その分と言いますか土魔法による攻撃の規模が広くなっているようです。
また、属性耐性につきましてはわかる範囲では、火水土風は耐性が低く光と闇には通常よりも耐性が働くようです。
今は“深緑の反撃”の魔導士の土魔法で岩盤によって覆ったので動けなくなっておりますが、土魔法で拘束を脱出するのも時間の問題かと。」
報告が終わったのか、再び眼鏡をクイッと上げて途中取り出していたメモを懐にしまう。
聞いた感じでは、レイアの作戦?は意外にも的を得たものだったと気が付いた。魔法が苦手な魔物に魔法でとどめを刺すのは理に適っているし。
俺が使える魔力的攻撃は〔獣王の息吹〕一択なので、土竜の耐性からしてもとどめは難しいと思う。そうなると、レイアは〔全属性魔法〕や〔自然魔法〕を持っているのでとどめ役としては適任だ。
はぁ~、これはマジで俺が足止めだな。SSランクパーティーの盾役か前衛に話を聞きに行っとくか。
「アル、報告を聞いた限りでは、さっきの作戦が最適だと思うけど、あなたはどう思うかしら?何か他にあるなら聞くわ。」
「ん?ああ。」
レイアは俺がすでに納得していることに気づいておいてそう言うことを聞くんだからな。ま、ここで俺に何か言えることがあるとすれば、了承して準備に動き始めるくらいかな。この砦の兵士諸君には俺が足止めする間にも魔法で攻撃をするってことだろうか。
正直兵士諸君の攻撃くらいだったら、土竜の注意を引くようなことはないだろう。それなら少しでも攻撃をしてくれた方がいいと思う。
「俺は、足止めするにしてもその“深緑の反撃”だっけ?そこの前衛あたりから、立ち回りを聞いておきたい。あとは兵士諸君の対応だな。彼らにはレイアを補助する意味でも魔法での攻撃をしてもらうのがいいんじゃないだろうか。」
「ええ、話を聞くのも兵士の攻撃も必要なことだと思うわ。私は兵士たちと打ち合わせをしてるから、“深緑の反撃”に話を聞いてきたら?」
「そうする。」
レイアが俺の話を受けてくれたので、遠慮なく静養しているという“深緑の反撃”のもとへと行かせてもらおう。案内に一人兵士をつけてもらい、救護室に向かう。少しして到着した救護室からは笛の音が聞こえ、中には男女4人の冒険者たちが眠っていて、その傍らには一人の男性が〔光魔法〕での治療を行いながら合間に笛を吹いていたようだ。
「失礼する。SSランク冒険者パーティー“深緑の反撃”の皆さんで間違いないだろうか。俺はSランクのアルカナと言う。」
「ああ、俺たちが“深緑の反撃”だ。ただ、パーティーランクはSだけどな。良く間違えられるんだ。俺がリーダーのエアリード。世間じゃ『不屈のエアリード』なんて呼ばれちゃいるが、回復魔法が使える盾役ってだけのSSランクよ。・・・それでこんなところにSランクがどういった用件だ?王都からきていた冒険者は全員帰らせたはずなんだが。」
ああ、それでこの砦にはこんな事態なのに王都の冒険者が見えなかったわけだ。俺たちは転移陣で来たから、わかってなかったがすれ違いになったんだろうな。
「今回の土竜の件に関して王国から『女神』レイアが依頼を受けることになった、俺はその付き添いみたいなものだ。まあ、パーティーメンバーなんだがな。そこで直接あれと戦ったっていうそちらに話を聞きに来た。」
「!?なるほど。SSSが出てくれたか。それなら俺も安心できる。正直なところ、アレが再び動きだした時点でもう一度出るつもりだったが、大丈夫かもしれないな。ところで、レイアと、他にはSSSは来ていないのか?あれにはさすがに『女神』でも単純な魔法では倒せないぞ。」
「ああ、わかってる。壁役を置いて足止めをする。その隙にレイアが全力の魔力を込めて魔法を放つ。」
「わかってるなら良い。ただその壁は誰がやるんだ?他にもSSSが来てるのか?エミィさんなら余裕でできるだろう。で、どうなんだ?」
確かに、エミィさんなら、壁役も難なくこなすだろうが、ここにはいない。それを伝えるとエアリードもずいぶんと狼狽える。SSSが本部にはいなく王国のSSSも動いてくれないとなれば、誰が止めるのかわからないってところだろう。
「それでは誰があれを止めておくというのだ?兵士たちでは無理だぞ。せめてSSランク冒険者と同等レベルの実力者でなければどうにもならん。俺たちが出るのを計算に入れているのか?それならすまないが、出ることができるのは俺と魔導士の二人が限界だぞ。先ほどもそのつもりで発言した。」
「ああ、無理にケガ人を前線に出すつもりはない。今回ここに来たのは、そちらが戦った時に感じたアレを足止めするのに役立つことはないかの確認に来ただけだ。足止めは俺がやる。」
俺がやるというのに怪訝な顔をするエアリードは、俺を見定めるかのように真剣にじろじろと見ている。
まあ、そんなに見てもわかることはないだろうが、サービスで少し魔力を解放する。これでわからないSSランクはいないだろう。
「!??そうか。そこまでか。Sランクなんて嘘だろう?すまないが二つ名を教えてくれないか?有力な冒険者でも名前までは覚えていられないんだ。それくらいSランクは入れ替わりが激しい。」
「『死神』。あまり好きじゃないんだよな、この二つ名。知り合いを思い出すことになるから。」
本物の死神と実際に話したことがある俺としては、俺の二つ名は借り物のように思えてしまっているのだ。いずれ俺がその座につくとしても遥か先の話と言われているし、正直他人事だ。現実味もない。この世界で何を言っているかと思うだろうが、実際にそう思っているのだからしょうがない。
とりあえず『死神』については知っていたようで、納得してくれた様子で何よりだ。しかし、本部の冒険者というのはこんなに情報通だったのか?
「納得したよ。ルグラで活動していたAランクの冒険者だったやつか。もうSランクまで上がっていたとは思わなかったよ。あそこのドヴァル師の武器を持っているという話だったけど、その斧がそうか。君の魔力に反応して圧力が増したからよほど君に合っているんだろうね。
君ほどの強者なら彼女の前衛を務めることも可能だろう。喜んで情報の提供をさせてもらうよ。といっても、僕に言えるのはあまり離れてはいけないということくらいだね。」
「ありがとう。しかし、どういうことだ。あまり離れてはいけないというのは、離れると何かあるのか?」
前衛としては魔物との距離を極端に開けることはないが、それでも近づくことは少ない。だがこの言い方としては、何かをするのを阻止するだけの距離にいなければならないということだろう。
「ああ、やつは土魔法を広範囲で行使してくる。その範囲は通常種の数倍と見てもいい。おそらく体の大きさに比例して範囲も増大したということだと思う。それを阻止するには魔法発動の動作をした直後に鼻の魔法発動体に攻撃するしかない。」
「なるほど、後衛を守るためか。今回の場合でもレイアが魔力を込める時間を稼ぐ意味があるわけだから、余計なことをさせるわけにはいかないから。魔法発動を阻止するのは必須ってことか。」
「そうだ。」
なるほど。それなら、できるだけ近づいて戦ってみるか。あれだけの巨体だし、魔法を使えない俺がどれだけの興味を引けるかわからないけどやるだけやるしかないな。
耐性があるにしても〔獣王の息吹〕も混ぜて、興味を引けば魔力を貯めるくらいの時間は稼げるだろう。
「ありがとう。一応前衛に立つときに注意すべきことがわかったよ。レイアの魔法なら土竜も倒せると思うから、安心して任せてくれ。Sランクの若造だけど、俺も気合い入れて足止めをするからさ。」
「ああ、もう心配はしていないよ。君たちなら何とかなるだろう。仲間たちの分もあいつにぶつけてやってくれ。」
「ああ!」
俺とエアリードは固い握手をして別れる。俺は今聞いたことをレイアに伝えるために壁の上に戻る。
壁の上では、先ほどまで兵士でごった返していたのが嘘のように閑散としていた。ほとんどの兵士が作戦会議のためにどこか広い部屋に移ったのだろう。案内の兵士にそのまま会議をしているであろう部屋に案内してもらう。
***
案内に従ってその部屋に入るとレイアが前に立って兵士たちに作戦の概要(概要といってもやることは単純なのだが)を伝えていた。
俺が入った時にはレイアがちょうど魔力を放出して威圧しているところだった。どうせ兵士どもが反発したんだろう。
レイアは見た目、絶世の美女だ。良いかっこ見せたいとか、出来ないことを言うなとか、そういった男の小さい部分が出たんだろう。こういうのが人間のよくないところだ。中でも獣人種はそう言う点で男尊女卑に近いかもしれない。兵士の中にいる獣人も今は怯えてしまっているけど反発をしたやつらの仲間だったのかもな。
今はすでに歯向かう気も起きないほど魔力圧だけで制圧されてしまっている。
「もういいかしら?さすがに実力差くらい理解してくれたでしょ?あなたたち程度なら物の数じゃないの。言われた通りにしているのが一番被害が少ないわ。いいわね?」
最後にもう一度魔力を放出してとどめを刺す。容赦がない脅しだ。
そこで俺に気が付き近づいてくる。
「ふぅ、無駄な魔力を使っちゃったわ。あら、アルの方は終わったの?不屈のエアリードは本部でも有望だから面識があったのを忘れてたわ。彼は戦えそう?」
「ああ、お疲れさん。エアリードは戦うつもりだったようだけど、ありゃ満身創痍だな。ずっと座って話していたが、足に力が入らないんだろう。“深緑の反撃”はここにいてもらう。」
レイアもその可能性はわかっていただろうし、俺が話を聞きに行くといったときには彼らの生命力の低さに気が付いていただろう。〔探知〕には〔生命探知〕も含まれているからな。俺も覚えたほうがいいかなぁ。
「まぁ、有益な情報は得られた。」
俺はレイアに広範囲の土魔法による反撃と魔法を阻止するには鼻の魔法発動体を攻撃する必要があるということを伝える。
これにはレイアも面倒そうな顔をしていたが、俺がやつの近くに張り付いて阻止する旨を伝えると、今度は心配そうな顔をした。
「そう心配するな。今の俺なら、スキルも使い放題、武器も準神器、ステータスも大幅強化しているからな。魔法こそできないけど、やられはしない。安心して魔力を貯めてくれ。」
「でも、半日は魔力を貯めるだけに集中しなければいけないの。アレが動きだしてからだけとはいえ、それだけの時間を稼ぐのはアルでも大変でしょ?」
「今が8時だから明日の8時までの12時間か。まあ、大丈夫だろう。最悪奥の手もあるし。やってやるさ。早く済ませて帰ろう。」
俺たちには急がなければならない理由がある。学生たちが待ってるわけだし、土壇場でキャンセルすることはあり得ないだろう。
俺に関しては、土竜の味が気になるし、新しいマスクを作るのも楽しみだ。やる気はあるわけだから、勝つつもりで当たる。
「そうね、よし!あの山に込められている魔力を見たところ、明日の6時ごろに突破されると考えているわ。決戦はそこからになる。今できる準備はもうやったから、今日は英気を養いましょう。私は食事を取ったら魔力の集束に努めるわ。」
「わかった。頑張ろう。とりあえず、もう日が暮れる。今日のところはレイアの護衛以外はうまい飯を食って早めに寝よう。」
「そうね。さあ、兵士の皆さん、聞いていたわね?今日はもう話すこともないから、英気を養ってちょうだい。食材は私が提供するわ。」
こうして俺たちは土竜と直接ぶつかることになった。レイアが提供した食材を用いてのさながら宴会はどうにか自分を奮い立たせる者、最後の晩餐ともくもくと食事をする者、レイアの強さにひかれて食事もそこそこに訓練を始める者、コレらなど多岐にわたり各々の時間を過ごしていった。レイアが壁の上で魔力を貯めている間、俺はそのそばで眠る。
そして翌日。
山が崩れ始めてきたぞー!!!
――――ついに負けられない土竜との戦いが始まる。
土竜を足止めしましょう
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