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第71話 「法務局に向かう。」

お読みいただきありがとうございます。


昼食後、本来予定していたよりも早い時間、俺は屋敷内にある衣裳部屋に連れて来られていた。衣裳部屋といってもレイアのではなくて、使用人たちが使っている方の衣裳部屋だ。

なぜ連れて来られたのかというと、時間は少しだけ遡り、外出準備を整えて玄関へと集まった時のことだった。



*****



昼食を取った後に一度、自室に戻り外出準備を整えて玄関に向かった。

外出の準備といっても元から荷物は〔骨壺〕に入れて常に持ち歩いている状態なのでほとんど時間はかからず、服を少し整える程度で良かったのは収納系スキルを持っている人あるあるかもしれない。

玄関に到着するとすでにいたレイアに声をかける。レイアはいつもの装備ではなく、動きをそこまで阻害しないシンプルな赤のドレスだ。冒険者としての装備の白の軍服もいいが、こんな女性らしい服装でもキレイだ。


「......そんじゃ行きますか。」

「そう...ね!?ちょっと何してるのよ!?どうしてその格好のままなのよ!?」

「へ?」


服装を褒めるというのもなんだか気恥ずかしい気がしてさらっと流して自然に見えるように出かけることを促したら、結構な勢いで怒られた。

近くにいたセバスチャン殿やマイさん他の使用人の方も大層驚いていらっしゃった。

そんなにひどい格好をしているか、当事者であるはずの俺にはわからなかった。


このときの俺の格好はいつもの黒の上下。オーリィンにもらったきれいなままのTシャツと黒っぽいカーゴパンツ。

ダンジョンから出て途中何回か着替えたりしながらもずっと着続けているのだが、変わらず清潔なままなので、恐らく魔道具だと思う。一応装備品と同等の扱いなので〔戦力把握〕が有効なはずなのに『詳細不明』となることからも神様由来というものは不思議だ。


これといっておかしなところは無いはずのいつもの服装だが、何がおかしいのだろうか。


パチンッ!


指を鳴らす音が聞こえると男性使用人が俺の両脇に立ち肩を組むように持ち上げる。身長としては俺とほとんど変わりが無いので足はついてしまうが、ここで抵抗は無意味だとレイアからの視線を感じた。

うん、おとなしくしよう。


「アル、これから行くのは、一応国の重要機関だから貴族もいるのよ。そこに平民まるだしの格好で行くと要らないちょっかいを出される確率が高くなるのよ。朝食の時に言ったけど聞いていなかったようね。」

「使用人が急に必要になった時用に衣裳部屋に用意してありますので、そちらをお使いください。」

「エミィに頼んだ礼服とはサイズもデザインも違うけど着ないよりましだわ。授与式では最高品質の礼服を着ることを考えれば、礼服を着る経験はしておきなさい。さあ、アル、待ってるから早くしてね?」


フェアリーズで仕立てた礼服は完成まであと数日だと言われているので間に合わないのは知っていたが、代わりの礼服着なさいと言われていたのは聞いていなかった。

用意してくれるなら、ありがたく享受しよう。



*****



使用人に抱えられて移動して用意された礼服は、十分に高価そうな良い仕立ての礼服だった。作成者の技術もかなり高いのではなかろうか。

戦闘には向かないが、そもそもそんな用途ではないのだから問題ない。こんなことを考えてしまうのは冒険者として精神的にも板についてきたということかもしれない。


「アルカナ様。これで大丈夫かと思います。こちらはレイア様がアルカナ様とこちらにいらっしゃるということを知ったセバスチャン様が大体のサイズで作成されたものです。なので、多少袖や裾を直す必要があるかと思います。失礼しますね。」

「あ、お願いします。」

「あれ?ぴったりですね。ほとんどサイズに間違いはないようです。このままで大丈夫ですね。それでは、レイア様がお待ちですので玄関までお急ぎください。」


了解。了解っと。

今回着ている礼服?を着用すると所謂、燕尾服と言ったものにコートといった出で立ちになる。

なかなかに決まっているじゃないか。俺の今の髪色は白なので黒い服装は調和が取れてまとまっている。


これで文句を言われることはないだろうとレイアが待つ玄関へと行き、待ち構えていたレイアに向かって両手を広げて見せる。

レイアは何度かうなづくと親指を立ててウインクする。


「いいじゃない?かっこいいわよ、アル。貴族と並べてもわからないくらいには決まっているわ。それじゃ行きましょうか。」

「おう!ありがとうな。気づかなくて悪かった。行こうか。」

「気にしないで。セバスチャン、馬車の用意はできているかしら?」

「ハッ!すでに外に待機しております。御者には使用人が就いておりますので帰りも馬車でお帰りください。」


ふーん、馬車で行くのか。

この屋敷から、目的地の法務局までは直線距離だと王都の中ではかなり近いのだが、道に沿って進むとなるとそれなりに時間がかかる。歩くとまた人に囲まれる可能性もあるしありがたい。


法務局は、王城の隣、冒険者ギルドとは逆側に位置する商業ギルドの隣の建物に入っている組織だ。その建物は国の重要な機関や他国の大使館があり、貴族や他国の重要人物など多くのお偉いさんがいるという。


確かにそんなところにあの格好でいくのは非常識だったかもな。まあ、ふさわしい格好など持っていなかったわけだから、しょうがないっちゃ、しょうがない。


馬車に乗りこんでレイアの向かいの席に座ると御者が馬を進め始め、法務局に向かう。

ここから大回りで貴族街を出て、王城までの道を進んで法務局まで行くのだが、それまで馬車の中ではやることがないので、他愛もない話をして場をつなぐ。


「なあ、これからも冒険者するなら、遠出すると思うんだけどさ。なんか騎獣みたいなのは手に入れておいたほうがいいのかな?」


ここで出す他愛のない話は騎獣に関しての話だ。王都に来てからはまだ見ていないが、ルグラにいたころや王都までの道のりでは、騎獣や馬車を引く従魔など移動手段に魔物が用いられている場面をいくらか見たのだ。

王都でも“馬屋”という名前に反して馬だけでなく騎獣全般を扱う店があるということを聞いているので、気になっていた。


レイアは俺の話題には大して興味はないようで、窓の外に目を向けてこちらを見ることなく理由を聞く。


「ふ~ん、騎獣ねぇ。なんでよ?私たちの移動にはアルがいるじゃない。」


まあ、確かに俺がほぼ騎獣と同じ役割を担っているのは間違いないが、すこしは興味持ってほしいものだ。それに、俺が騎獣代わりになったままだとまずいこともある。

レイアは気が付いているかわからないが、俺が騎獣として走ったとしても、それを到着した場所で公にするわけにはいかない。なぜなら俺も冒険者として活動するからだ。騎獣がいないと移動が早すぎる問題がある。

それに移動する際にいつでも人目が無いところに行けるわけではないので、実際難しくなってきたのだ。


そんなことをレイアに説明すると、レイアは顎に手を当てて考え始めた。俺が乗せて走るのに慣れ過ぎていたのだろう。少し気まずそうな表情をしたが、俺の話は理解したようだ。


「確かに、いつでもアルに任せきりというわけにもいかないことはわかったわ。そうね。機会があれば騎獣を入手するのもいいわね。ユーゴーとの話が終わったら行ってみましょうか。」

「わかった。ありがとう。」

「私も気づけなくてごめんなさいね。」


そんな話をしていると馬車は貴族街を出て王城に続く大通りに出る。ここまで来るとあとはすぐに目的の建物なのでそろそろ降りる準備をする。

実は一つだけセバスチャン殿に教わったことがあるのだ。



「到着いたしました。」


馬車が止まると御者の声がして扉が開く。俺はレイアよりも先に降りて手を差し出す。


「お気をつけて、お嬢さん?」


俺は気が利く男なのだよ。ドレスを着ているレイアに対しては、馬車を下りる際に補助としても紳士としても手を貸して差し上げるのが良いですよ、とセバスチャンに教えてもらったので実践した。

突然俺がそんなことをしたものだからレイアも驚いていたが、さすがにすぐに切り替えて、俺の手を取る。

俺もその手を離さないように気をつけながら、エスコートする形になった。


「ふふふっ、ありがとう。アルでもこういうこと出来るのね。驚いちゃったわ。」

「どういった意味だと言いたいところだが、セバスチャン殿に教えてもらったんだよ。」

「あら、やっぱりね。でもうれしいわ。さあ、行きましょう。」


冗談めかして言ったのはちょっと恥ずかしさもあったからだが、やってよかったと思えるくらいにレイアの微笑みは美しいものだった。

ありがとうセバスチャン殿。


俺とレイアは馬車を下りてから、目の前の建物に入り受付で法務局までの案内を頼む。

アポイントはとってあるということと、ユーゴーのメダルをギルドカードと一緒に提示しておく。これをするとしないのでは対応の差がずいぶんとあるらしい。(レイア談)


少しして、案内の人だと思われる、法務局の制服を着た若い人がやってきた。年齢で20前といったところだ。ニピッドでは見なかったのでまだ新人なのだろう。かなり緊張しているのか、大量の汗をかき目が泳いでいる。

何をそんなに緊張することがあるのかとレイアをみると、それもそうかと納得する。


今ここにいるのは公的にSS、非公式にSSSの冒険者『女神』がいるわけだ。彼がどこまで知っていたとしても相応の権力を持っていることには間違いが無く、さらにレイアほど美しい女性を前にしたら男なら緊張してしかるべきだろう。

俺はずっと一緒だったから感覚がマヒしているのかもしれない。


「そ、それでは、こちらでひゅ。」


間違いなく噛んだが、そこに触れてやらないのが武士の情けというものだろう。歩き出した彼の首元から見ても顔が今真っ赤だというのがわかる。

レイアも俺と同じことを思っているのか、顔をそらして口元を覆って肩が上下している。笑っているのは丸わかりだが、彼に聞こえなければ問題ないのでくれぐれも声を出さないでもらいたい。


法務局員の彼について行くと、何か扉の前に案内された。扉の横にある板に彼が魔力を流すと、チンという音がして扉が開く。

中は箱のようになっていて、既視感のある風景が目の前に現れる。


「こちらにどうぞ。これで上の階まで行きますので。」

「こんなの前に来た時にはなかったわね?新しい魔道具?」

「ええ、魔法師団の新作です。別の階に移動する際に便利ですよ。他にも荷物の運搬なども楽になりました。試験運用中ですので、まだここにしかありませんが。」

「へ~。早く一般に普及するといいわね?特に冒険者ギルドとか。」

「はははっ、そうですね。」


うん、エレベーターだな。魔道具っていうのは、ほとんど家電の様な普及の仕方を気になっていたのだが、ここにきて決定的だ。

これもしかしてそうなのか?


「これは何て言う魔道具なんだ?開発者は『エレベーター』とかいってなかったか?」

「これは魔道昇降機という魔道具です。その『えれべぃたぁ』というようなことは言ってはおりませんでしたが。」

「そうか。」


やっぱり違うのかな。わからんな。

会ったところでという話でもあるので、気になるが追及はしなくて大丈夫だ。関わる可能性があるなら自然とそうなるだろう。


魔道昇降機に乗り込みボタンを押して再び魔力を込めることで動きだす。速度はほとんど感じない程度で遅めだが、これでも便利だということか。

またチンと音がして扉が開く。魔道昇降機から降りて伸びをする。目的の階まで数分かかったのは、まだ研究も形になったばかりで昇降に速度が出ないということなのかもしれないな。魔道具はサッパリなので文句はない。


「んぅ~ん、ああ。ここが法務局の階なのか?随分かかったな。」

「はい。10階です。それでは局長室に案内します。」


そう言って彼は廊下を進む。魔道昇降機を下りて目の前の廊下をまっすぐに進むと突き当りに一つの部屋があり、その扉をノックする。


「局長、お約束のレイア様、アルカナ様をお連れしました。」

「入ってくれ。」

「失礼します。どうぞ。」


先導されて部屋に入ると、ユーゴーがすでにお茶を入れていた。ユーゴーは自分の分だけではなくおそらく俺とレイアの分を用意してくれているようで、ユーゴーの向かい側に2つ紅茶が用意され、お菓子が真ん中に置かれている。


「やあやあ、先日ぶり、よく来たね。あれ、髪染めた?まいいか。僕も君たちが王都に来たというのは衛兵隊から報告が来ていたから知ってたけど、挨拶に来てくれた様で嬉しいよ。ささ、座ってくれ。ああ、君は仕事に戻ってくれ。ここは私がやるから。」

「はっ!」


ビシッと敬礼して出ていく彼を見送ってからユーゴーの向かい側に座る。人払いという意味があるのだとわかったので口を出すことはしなかった。

もともとは俺とレイアは挨拶に来たということだが、目的が変更になったことはあまり周知させていないようだ。警備が厳しいとかそういったことはほぼないくらいにはいつも通りなのかもしれない。


「まずは、急ながらも面会を受けていただき感謝いたします、第二王子殿下。人払いの約束も守っていただけたようで、ありがとうございます。」

「ありがとうな。」

「うん、最低限約束は守らせてもらったよ。それだけの内容なのだろうと予想したけど、間違ってなかったみたいで安心したよ。さて、早速で悪いけど、本題に入っていいかな。これでも忙しくてね。あ、口調はいつも通り頼むよ。レイア嬢に敬語を使われるのは調子が狂う。」


王国の重要機関の長が忙しくないわけもないので無理に時間を作ってくれたのは想像に難くないが、想像より忙しそうだ。

化粧か何かでごまかしているようだが、目に隈も見えるくらいには疲労している。

てことで、早速本題に入る。

ユーゴーの希望なので口調を戻しレイアが口を開く。


「まず今回の本題は先に連絡したように過去の英雄の遺物に関してよ。」

「ああ、聞いている。セバスチャンが直接伝えに来たからな。俺が対応した。セバスチャンも何のことだか理解していないようだったが、僕には教えてくれるんだろう?」

「ええ。もちろん、そのつもりよ。アル、アレを出してちょうだい。」

「了解。」


レイアに言われたので本題である、ハオ・メルエムの槍を出す。直接槍を取り出すのはさすがにまずいと思い、布に来るんで入れておいた。

取り出したものが布にくるまれた棒になんのことかわからないユーゴーだったが、俺が布を取ろうとめくると、驚いたのか小さく声を上げる。


「あっ。」

「っ!?レイア!!」


ユーゴーの口を突いて出てきたような声に、反応したのは、俺でもレイアでもない。この場には俺とレイアとユーゴー以外に人はいない。

しかし、反応した人物たちは、ずっといた。

次の瞬間には俺たちは突如現れた者たちに武器を向けられるようにして前方を囲まれた。俺はレイアを庇うようにそいつらの前に立ちふさがる。


まあ、最初からいたのは気が付いていたが、気にしてなかったのが良くなかったな。とりあえず――


「――〔換装〕ドヴァルメタルガントレット。さて、どういうつもりだ?」


1、2、3、4...6人か。

レイアを庇いながら戦うにはイシュガルでは狭すぎるが、手甲で徒手空拳なら小回りが利く分、そういった問題もなくやれそうだ。

まずは、どういうつもりか尋ねると慌ててユーゴーが答える。


「ストーップ!ストップだってば!ちょっと驚いただけだよ!双方僕に免じて武器を収めてくれないか。」

「そちらが下せば、こちらも下ろす。」

「もちろんだ。ほら!お前たち武器を下ろせ!」


ユーゴーの命令には素直に従うようで、渋々ながらも武器を下ろした襲撃者。まあ、正体はわかっているし、警戒する必要もないとわかってはいたけどね。万が一があるので警戒はしておいたのだ。

それはレイアも同じで余裕で紅茶を飲んでいる姿をみると、過剰に反応した俺が情けなく思える。

俺もガントレットを仕舞い、もう一度座る。襲撃者はユーゴーの後ろに控えている。まあ、また隠れる意味もないからな。


さて、話の続きと行きましょうかね。






槍の話をしましょう


拙作を読んでいただきありがとうございます.


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