第70話 「ついに完成。」
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レイアがギルドに呼び出されたというので付いて行ったらそのまま俺も王立学園での特別講師の指名依頼を受ける流れになり特別講義の前の顔合わせを行った翌日、今日は事前に取ったユーゴーとのアポイントで法務局へと行かなければならない日だ。
なんだかんだと学園での顔合わせは俺の人当たりの良さもあってか文句なしの大成功と言ってよかったと思う。レイアも俺も彼らは受け入れてくれたし、飛び入りで参加することになったにしては先生のようなことを言えていた気がする。
問題ない、ああ、問題なかったとも。いや、ほとんど、ちょっと、一ミリだけ、あったかもしれないな。
「ちょっと!」
そう、ほんのちょっとの話だ。そう目くじら立てるべきじゃない。学園長だって授業に関してはこちらに任せる的なことを言ってくれたはずだし。過剰な攻撃は看過できないといわれたけど、攻撃だしね。
「ちょっと」
問題があるようならその場で注意してくれただろう。教室を出るときに王孫にも何も言われなかった。おーけーおーけー。
「ちょっと!......聞けっていってるでしょ!!」
バチンッと後頭部を平手打ちされると俺は現実に引き戻される。レイアは俺の耐久が異常に高いことを知っているから、中心に響くような重い一撃だ。
レイアが俺を叩いた理由はわからなくもないが、納得いかない部分もある。
「なんだよ?」
「いいから聞きなさい。さっきから変なモノローグ語ってくれちゃって、ほとんど嘘に近い内容だったけど?確かに5人の内4人は私たちを先生として受け入れてくれたと思うわ。
でもね、アルフレッドはそうじゃないわ。そういうのを現実逃避って言うのよ。」
レイアはそう言うが、アルフレッド少年はしっかり俺を認めてくれたはずだ。だって、俺が彼を担いで保健室に向かっているときにしっかりと、うん、うんと頷いてくれたからな。
俺がそう主張したところレイアは頭を抱えてため息をついた。
「アル!それはただ揺れてるだけって言うのよ!気絶させたのはあなたなんだから、すこしは反省しなさい。私も止めなかった責任はあると思うけど、やりすぎよ。」
「だって、あいつ、さすがに調子に乗りすぎだっただろ?俺だってレイアと同じように先生としていったのにさ~、ああいう態度とるか、普通?冒険者ギルドで最初にあった時にしっかり教えてやったはずなのにさ。次に会った時が楽しみだわな。」
「もう...公爵は学園内でのことには目を瞑ってくれると思う。ただ、これからは気をつけてっていってるの。誰にだって限界はあるわ。公爵は大怪我くらいまでは多めに見てくれるだろうけど、本人はそうはいかないかもしれないわ。」
............ふむ。まあ、レイアがそこまで言うのであれば気をつけておいたほうがいいのだろう。まあ、次に同じ態度であったら、同じことをしてしまう気がしなくもないが。うん、俺反省。
反省顔をしている俺を見て、レイアも一応の納得をしてくれたのだろう。よかった。
さて、これで王立学園でのことの反省会は終了だ。そもそも、なぜ翌日にこんな話をしているかというと、昨日帰った時間に少し差ができたため、夕食の時間からなにから一致することもなく今朝になったからだ。
なにも今、朝食の時間にしなくてもよかったとは俺も思うが、自分ではだめだと思わなかったことを否定してもらう必要がある。どうにも直情的だったかもしれないとは反省していたわけだから。
ここからは今日の予定に関していくつかの確認をしておこうと思う。
そもそも今日のアポイントはこの屋敷の管理をしている執事セバスチャン殿がレイアのコウモリでの指示を聞いてから取っていたもので、その時はただ王都に到着したことの報告と挨拶をしたいと伝えてあった。
しかし、今は王家にも関係ある過去の英雄の遺物を渡すことが目的になったので、面会目的の変更を昼までに伝達しなくてはならない。
挨拶と遺物の寄付では、面会の重要度や機密性が段違いに変わってくる。今回面会するユーゴーが王位継承権を持っていることでさらにそれらは高いものになるわけだ。
こっちにはユーゴー本人からもらった彼のメダルがあるわけだから、最悪アポイントを取っていなくても会えるはずだ。ただ、レイアがそれをしないのは王族であるということで警備などを万全にできるように配慮した結果だ。
ま、ことがことだから人払いはしてもらう必要はあるがな。
「法務局にはすでにセバスチャンを使いに出したけど昼までに返答が来るかしらね?まあ、来なかったら最初の予定通りに法務局に行くだけよ。とにかく、午前中は好きにしていてちょうだい。」
「了解。メダルも渡したんだろ?大丈夫だと思うけどな。俺は午前中はスキルの調整を練習するつもりだけど、そっちはどうするんだ?」
俺は時間ができたら〔人化〕の練習をするつもりだったため、それで時間を潰すことが可能だが、レイアは何をするのか単純に気になった。
俺よりも長く生きているレイアは俺とは違って自分のスキルについては熟知しているはずだし、俺と同じような時間の使い方にならないだろうことはわかっていたからだ。
また、貴族と同等の権利を有しているといっても貴族ではないのだから、執務があるというわけでもない。
「私は特別講義の資料作りをするつもりよ。私たちが教える6日間の間に少しでも力をつけてもらいたいもの。」
「ふーん」
真面目だねぇ。俺はもう彼らにどういったことを教えるつもりかは決めたが、その準備まではまだ何もしていない。学園に備え付けの訓練用の武器くらいしか必要なものを思いつかないし。
実技っていっても、模擬戦などでの戦闘指導をするくらいに留まりそうだ。合宿前に学園生を王都の外に連れていくわけにもいかないし。それ以外にするにしても何をするのにも模擬戦の結果があって、それからだ。
とりあえず朝食も終わって、レイアも忙しそうなので、俺は自室に帰ることにする。どれだけの練習ができるかな。
***
さて、自室に帰ってきたわけだが、法務局からの返事が来るまでに完成まで持っていけるかどうかってところだ。
実は、俺たちが王都に来るまでの間にこっそりと練習していたおかげかこの技術もあと一歩ってところまで来ているとは思うんだよな。
〔人化〕はダンジョンを出てから、時間でいったら〔骨の王〕の中の〔変形〕や〔骨壺〕と同じくらいの発動頻度だから、熟練度もかなりのものだろう。
スキルってのは使い熟すことで、その形を変える。〔鎌技〕が〔鎌聖術〕になるのと同様に〔人化〕もまた変化、この場合は進化というべきかもしれないことが起こる。
俺が期待しているのは、見た目を人族のまま、マスクを被ることである。
これまでの〔人化〕では、獅子王面を装備している時点では獅子獣人に、死虎面では黒虎獣人に、試しにやったゴブリンでは見た目こそ人族だが肌が緑に、と普通にやってしまうとマスクの特徴を残した状態で人に近くなる。
それでは、ニピッドであったように人族以外に寛容ではない町などでの行動が不便になってしまう。正直宿が見つからないだけといってもかなりのストレスを抱えたのだ。
そういった意味で早くこの技術は完成させたい。少なくとも獅子王面では人族を装いたいのだ。
王都にきてからの数日で人族至上主義ともいえる貴族の大半が拘束なり捕縛なりされたと聞いたが、ニピッドがそうであったように領地全体がすぐに他種族を受け入れてくれるわけではないため、今後の冒険者活動に支障をきたすこともあり得る。
「はぁ~あ、ここまではうまくいく様になったんだけどね。」
今のところ一番人族に近い状態になった俺を全身鏡で見て独り言つ。
やっとこさで仕上げた俺の姿は、パッと見たら白髪赤目の男って様相だがくるりと一周まわると人族にはあり得ない、ゆらゆらと動く尻尾が見える。
要は頭隠して尻隠さずといった具合だ。正確には頭(の上の耳を)隠して尻(尾)を隠せず、なんだけどね。
自分のゆらゆらと揺れる尻尾は元がリオウの尻尾だけあってその毛並みは一級品の毛皮を思わせるほどに上等だ。尻尾の中ほどは毛並みがサラサラで、尻尾の先端部は房がふさふさモフモフだ。また、その房の中には5mmほどの小さな棘があるが、何のためなのかわからない。
自分で触るとそれなりに感覚もあるし、体の一部であることは確かだが、あってまずいと言ったこともないので放置でいいか。
この尻尾がなくなれば、ほとんど完璧に〔人化〕が完了するんだけどな。この際髪の色は特に気にしないで行くと決めた。そこまで行けるのであればそれがいいけど、今は法務局に行くまでに獣人でなくなるのが理想だから、髪が白かろうが黒かろうが問題ない。
今は耳を正常な位置にあるのを意識して〔人化〕した結果として、尻尾が残っている。かといって尻尾をなくそうと考えて〔人化〕をすると、耳が獣耳になって出てくる。
これらの結果から考えてみると、俺が〔人化〕する時に意識した部分が変化するということがわかった。しかし、髪色を変化させようとしたところ、変化が一切なく白のままだった。
この少ないヒントの中から可能性がある理由を探っていく。
(さて、どうしたものか。耳、尻尾、髪色。変化できる、できる、できない。何か違うことがあるのか?)
耳と尻尾で共通していること、耳と尻尾に対して髪で違っていることを考えよう。
耳と尻尾はついている場所は違うし、耳は無いと困るが尻尾は無くても問題ない。ん?ついている?
確かに耳も尻尾も体についていると考えられなくもないが、いや、まてよ?髪もついてはいるわけだが...いや、今回は髪をなくしたいのではなく髪の色を変更したいができないってわけだからな。
耳と尻尾はついているが髪色はついていないってことか?髪色が付いていないってどういうことだとも思うが、まあいい。
あれ?もしかして骨か!?てか、俺が変形できるのって骨だけじゃん。いやぁ~、何で気づかんかね。骨の変形していると考えれば、いいわけだ。
まだ推測の段階ではあるが、耳と尻尾は骨があるから〔変形〕の効果を受けて形を変えることができたが、髪色に影響を与える様なスキルがないわけだってことなのか。
それなら、今まではマスクに合わせた〔人化〕をしていたのを、骨を意識して人族に〔人化〕することに変更してやってみればイけるかもしれないな。
一度〔人化〕を解除してっと。〔縮小化〕も忘れずに
よし、次はイメージ。
〔万能骨格〕で人族を強くイメージして、特に耳と尻尾。
王獅子の姿のまま骨を動かすわけには行けないから、〔人化〕に合わせて〔変形〕させる。試しにこのまま動かそうとしたら、痛いのなんのって、そりゃそうか。極端に言えば大腿骨を上腕に移動させるのと同じことをしているわけだからな。
良し、イメージの固定化完了。〔人化〕の前に〔縮小化〕を解除しなきゃ。
〔縮小化〕って自分が小さくなるスキルじゃなくて、対象(許諾済)を小さくするスキルだったんだよね。だから、今俺が〔人化〕してしまうと、マスクと体のイメージが食い違ってたぶんマスクが壊れると思うんだよ。
だから一応解除はしておくべきなのさ。
「んじゃ。気を取り直して、〔人化〕」
スキル発動すると、いつも通り体が光って、視界が遮られる。昼間だから多少部屋の中が明るくなっても周りに気が付かれる心配も少ない。
セバスチャン殿やマイさん辺りは気が付いているっぽいけどね。寝る前もカーテン閉めてやってたから。
そんなわけで、光が収まると俺の体は問題なく人型になっていた。
ま、あとは耳の位置と尻尾の有無、髪色は一応黒をイメージしたわけだが...ふむ。
成功...といっていいだろう。大成功じゃなかったが、文句はないわ。
耳は、頭の側面に一つずつ、尻尾は根元から見当たらない。これでただ骨のない耳やら尻尾ができてたらどうしようとか思ってたけど、しっかり良い結果を得られたわけだ。
ただ。髪の毛は白いままだが。
8割の成功と言ったところだが、この技術は他のマスクを使う場合にも利用できるものだし、髪色は染めたと言い張れば何とかなるだろう。
ただ、この理屈でいうと、ゴブリンみたいに肌に特徴が現れる場合は、どうにも出来ないかもしれんな。
うん、できないわ。これも一つの課題だね。
しかし...
「――――ッ!!やったぜ!」
ついに完成。
よく完成までいけたもんだ。自分で感心してしまってもしょうがないがね。
まあ、あまりに嬉しくてちょっと大きな声を出したのも、しょうがないわな。
さて、今日のところはこれで人族のまま法務局のほうに行けるな。無いとは思うが、戦いになっても戦力大幅アップ。歴代【骨の王】に少しは近づいたかもしれない。
皮が無ければただの骨ってのは変わらないわけだけども。
******
俺が自分がやり遂げたことに達成感を感じていたときにドアに近づく気配を感じとる。
ふむ、獣人の時は匂いや音などが先に情報として入ってきていたが、人族だとそうじゃないのか。無理やりこの形にしている1つのデメリットだな。ただの人族よりは鼻が利くが純粋な獣人よりは下ってところだろうか。今知れたのは僥倖だな。
コンコンッとドアをノックするのはマイさんだ。何かの要因でわかったとかじゃなくて俺を呼ぶ係がマイさんになっているってことを知ってるだけ。
マイさんは入室してから一礼し、用件を伝えてくれる。
「アルカナ様、レイア様がお呼びです。法務局より返事を持ってセバスチャンが戻りました。昼までにレイア様の執務室においでくださいとのことです。」
「ありがとうマイさん。了解した。こちらの都合はついているので、ここを片づけたらいくよ。」
「それでは失礼します。」
そういって部屋を出ていくマイさんを見送って、服やら靴やらが散乱したものを片づけ始める。どんどん〔骨壺〕に放り込むだけだから、時間はほとんどかからない。
「さて、行きますか。」
執務室までの道のりは覚えたので、案内が無くても辿りつけるので、安心して進む。
といっても、レイアが昼までと言ったということは、返事に急ぎ話す要素がないということだと分かるので、ゆっくりノロノロ向かっても問題ない。
普通にアポイント通りの時間に行きゃいいのだろう。もしかしたら後ろに時間が延びるくらいはしているかもしれないが、それこそ俺らにとって困りごとでも何でもない。むしろこっちの面倒ごとでさらに話し込むかもしれないのだから、伸びてほしいとすら思うわ。
もしかしたら、別日に追加でアポイントを取ることになってもおかしくないか。
ダラダラと執務室の前まで考え事をしながら到着すると、ノックをして中に入る。
どうせレイアとセバスチャン殿がいるはずだから、女性を気を遣って返事を待つ必要もない。
「入るぞ。ゆっくりと呼んだってことは、特に問題はなかったんだろ?」
「あなたねぇ、ノックくらいはしなさいよ。一応レディの部屋なのよ?執務室だけど。」
「そうか?どうせ、セバスチャン殿もいるのはわかっていたしさ。問題ないと思って。気を悪くしたなら謝るよ。すまんな。」
一応謝り、大げさに頭を下げたが、部屋に入ってから一度もこっちを見ていないレイアは気づかない。ま、いいかと頭を上げる。
「まあ、確かにセバスチャンもいるからいいのだけれどね。一応礼儀でしょ?何かあった時に礼儀がなってないと、貴族に目をつけられることもあるから。」
「レイア様のおっしゃる通りでございます。アルカナ様は今勢いのある冒険者。これを取り込みたい貴族は多くおります故、些細なことでも不手際にしようという者に警戒なさってください。」
勢いがあるっていっても自覚がないんだよな。授与式に呼ばれるってことは新しいSランクだとは認識されているだろうけど、Sってそんな貴重じゃなくね?今回も3人いるんだろ。
「アルカナ様の場合は他のSランクとは違い、レイア様という付加価値がございます。これを狙わない貴族は、よほど自領に自信があるか、阿呆かですよ。逆に利口ということもあるかもしれませんが。」
「うい~、了解。一応気をつけるさ。」
「ほんとにお願いね。それで返事の件だけど、アルが予想しているように、特に問題なく面会目的の変更はできたわ。さらに時間が少し早まって延長のおまけつきね。」
概ね予想通りだが、過去の英雄の遺物の件であることは伝えたはずなのでこの結果も当然か。ついでにダンジョンについても話しておこう。そうすれば死蔵している魔物素材の処分もできるかもしれない。
「そいつはよかった。そんじゃ、予定の時間より早めに出ればいいのな。昼めし食ってからで間に合うかね。」
「それで十分かと。」
「じゃ、それで行きましょう。私はもう少し資料つくりをしたいから、アルは好きにしていて。」
「あいよ。」
じゃあ、暇つぶしに目についた魔物図鑑でも見ておこうかな。なんて思って本に手を伸ばしたところでレイアと目が合う。
「アル髪染めたの?白いけど。」
「ああちょっとな。気分を変えたって感じだよ。」
「ふーん。なるほどね。」
セバスチャン殿がいるので本当のことは言えないが、レイアは察してくれたようだ。まあ、彼女はどちらの俺も見ているわけだからね。
法務局に行きましょう
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